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9.「お疲れ様」を英語で

これは直訳のできない慣用的な日本語の表現の典型ですが、これにも懐かしい思い出があります。
 
30数年前、ボクが日本の楽器メーカーに勤めていた時代、年一度の楽器フェアという展示会があったのですが、そのときのことです。
 
イタリアから招いたデモンストレーターが、同じ会場で説明員をやっていた顔見知りのボクのところへやってきて来て言うには、
”I am confused. Everyone said to me, 「You look tired.」 But, I AM NOT !”
(訳がわかんないよ。皆ボクに向かって「疲れているみたい。」っていうんだよ。全々そんなことないのに!)
 
デモンストレーション自体は大熱演で非常に好評だったのですが、演奏の後、何人かから
”You look tired.”
(言ってる方は「疲れてるみたいね」=「お疲れ様」のつもり)
と言われて、最初は訝りながらも
“No, I’m fine.”
(いや、元気だよ)
と答えていたようですが、毎日同じせりふを言われて「そんなに疲れているように見えるのか?オレは元気だ!」と少々おかんむりになったということだったのです。
 
これは「疲れる」=”Tired”と言う単語を知っているので、その部分だけの日本語→英語の変換が上手くいくために、その言葉にとらわれてつい直訳的な言い方をしてしまった結果、相手には何も通じていないどころかかえって不快にさせてしまったという例です。
 

北の丸:当時は武道館の隣の北の丸に展示場が有り、楽器フェアはここで開催されていました


この場合は、伝えたい気持ちからすると、
“Thank you for your good (great)  job (performance).”
(素晴らしい仕事(演奏)を有難う)
辺りになります。
単に" Good job "でも良いでしょう。
 
元々こういう言い方を知っていれば問題ないわけですが、いつもそうとは限りません。
日本語の慣用的な表現の場合は、本当に自分が伝えたいことは何かを考え、もう一段階平たい日本語に置き換えてから英語にすることが大事なのだと思います。
 
ちょっと考えたら、”You look tired.”と言うくらいなら、まだ”Are you tired ?”とか“Are you fine?”とか聞いた方がこちらが気遣っているところは伝わったのかもしれません。
それでも、イタリア人の相手からするとなぜ気遣われるのかはピンとこないと思います。
 
日本的には相手の事を気遣うことは美徳ですが、西洋的には業績を称える、褒めることが通常なのです。
 
この辺も良し悪しではなく、相手はどう考えるのか、どうすれば謝意が相手に伝わるのかと考えるべきで、上手い言葉が見つからなければ、何も言わないよりは極端な事を言えば日本語で「とても良かったよ!」と言いながら握手するとか、拍手で迎えるとかの方が気持ちは伝わると思います。
 
海外の人とコミュニケーションをとる場合、英語はあくまでもツール(道具)なので、表面的な言葉よりも気持ちを伝えることを常に意識するべきなのだということを学んだ、ボクには忘れがたい経験です。
 
まあ、これなども文化の違いで、日本語の場合は頑張った過程を大切に思うから「お疲れ様」と声をかけるのかな、とも思いますが。
結局、最後にはこのイタリアの人は「Otsukare sama」を覚えて、自分から言うようになったんですけどね。
 
通常「お疲れ様(でした。です。)」自体は同僚などとの別れ際やの挨拶にも使われますので、その際は、
”See you (tomorrow).“、
“Good night.“や
“Hello.”
“Good morning ( afternoon ).“
になりますね。


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