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「ゼロから始まった物語」 スポーツで社会価値を創造するいわきFC、戦いはJの舞台へ

2021年11月3日、JFL(日本フットボールリーグ)に所属するいわきFCは、東京武蔵野ユナイテッドFCと対戦して3-1で勝利しました。この結果、J3の入会条件であるリーグ4位以内(かつJリーグ百年構想クラブ2位以内)を達成。今後、Jリーグの理事会で正式に承認されれば、来季からはJ3で戦うことになります。

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すべての始まり

いわきFCと私たちアンダーアーマーは、単なるサッカーチームと親会社というだけの関係ではありません。物語の始まりは、10年前に遡ります。
2011年3月11日、東日本大震災が起きました。日本を襲った未曾有の大震災。私たちも本社オフィスや倉庫が大きな打撃を受けました。しかし、「落ち込んでいる場合ではない。元気づけてもらう側でもない。我々が日本を元気にしていくんだ。」と奮起。株式会社ドーム(アンダーアーマーの日本総代理店)社長の安田秀一と専務の今手義明(写真右)は、すぐに支援物資を積んだトラックで東北へと向かいました。往復の燃料を計算してたどり着いた場所が福島県のいわき市。運んだ物資を手渡し、できる限りの支援をしました。その時の活動がきっかけとなり、「今後も継続的に、いわきのためにできることはないか」と考えた結果、様々なプロジェクトが動き出したのです。

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地域社会への貢献


2015年8月、アンダーアーマーの新しい物流センター「ドームいわきベース(写真右)」が、3カ月間の試験運用を経て本格稼働を開始しました。倉庫のコンセプトは「魂の息吹く物流センター」です。震災復興を後押しするため、地元いわき市の高校新卒者を中心に100人ほどの若手社員を採用。旧施設では物流会社に業務を委託していましたが、ドームいわきベースの稼働を機に自社運用へと切り替えました。

この物流倉庫をつくった目的の一つは、「雇用創出を通じて復興の一助となりたい、地域社会に貢献したい」という想いです。一方で、「物流を外部に任せているだけでは、我々の思いはお客様に伝わらない。改革や改善も進まない。高いモチベーションを持った社員が自分たちで倉庫を運営することで、もっと良いサービスを届けられるようになる」という信念も、このプロジェクトを突き動かしていました。

Jリーグへの入会を確実にした試合後に行われた記者会見でも、いわきFCの大倉智代表はこのストーリーに言及しました。

大倉代表
いわきFCというチームは、もともと東日本大震災の復興から成長に寄与したいという、親会社の社長と専務である安田秀一、今手義明という2人の人間の想いから始まりました。いわき市にアンダーアーマーの物流倉庫をつくり、地元の雇用を生んで地域経済を活性化したいという想いでできたチームなのです。私はそういった想いに共感してここへやってきました。今日はあらためて、我々のスタート地点を思い出しました。

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浜風商店街集合

産声をあげたいわきFC


ドームいわきベースの建設と時を同じくして、同い年の安田(写真左)と大倉(写真右)が約25年ぶりに再会を果たします。地域創生、スポーツ産業化を掲げて、いわきの地に物流拠点を構えようとしていた安田。日本のサッカー界にはフロントのプロ化が必要だと考え、欧米で本場のスポーツビジネスを学び、Jリーグで実績を積み重ねていた大倉。二人の化学反応により、スポーツで社会価値を創造するサッカーチーム、いわきFCが誕生することになるのです。当時について、大倉はこのように振り返ります。

大倉代表
スポーツの本質、スポーツの産業化、スポーツを通じた人材育成など話は多岐にわたり、スポーツを通じて社会を豊かにするという理念を掲げている彼と、目先の勝利ではなく無形のサービスを提供しようとしてきた私の、同級生本音トークは大いに盛り上がりました。日本のサッカー界では、多くのチームが勝利という価値観のみを追求しているのが実態。スポーツを通じて社会を豊かにするという理念を掲げているドーム社が参入することは、大きなイノベーションをもたらすと直感したのを今でも鮮明に覚えています。いわきFCはこうした話を積み上げながら誕生したのです。

2015年にいわきFCの運営会社となるいわきスポーツクラブを設立すると、2016年にはドームいわきベースの横にグラウンドが完成。チームの活動が本格的にスタートします。

170621_天皇杯2回戦コンサドーレ札幌戦

魂の息吹くフットボール


2016年に福島県社会人2部リーグからスタートしたいわきFCは、初年度から全勝でリーグを制覇するとともに、6つのタイトルを獲得。福島県社会人1部リーグへの昇格を決めました。さらに翌年、日本のサッカー界に大きな波紋を呼ぶジャイアントキリングを起こします。2017年6月21日、天皇杯全日本選手権2回戦でJ1のコンサドーレ札幌と対戦したいわきFCは、延長戦の末に5-2で札幌を撃破したのです。J1から数えて7部相当のチームが1部を倒したということで、当時大きな話題となりました。

しかし、このアップセットは決して偶然に起きたものではありません。いわきFCが掲げていた大きなコンセプトの一つが、「日本のフィジカルスタンダードを変える」。身体が少し接触しただけで選手が倒れてしまう日本のサッカーへのアンチテーゼであり、いわきFCの選手たちは激しいウェイトトレーニングを中心に、身体を鍛え上げていました。延長に入っても運動量が落ちない、当たり負けしない、いわきFCの身体の強さが発揮されたのです。
世界基準のフィジカルスタンダードは、国際試合の場でも証明されました。2018年と2019年に環太平洋地域のチームが集いハワイで開催された、パシフィックリムカップでも、いわきFCの選手たちは米国やカナダの屈強な選手たちに当たり負けすることなく、互角の戦いを繰り広げました。

そして、福島県リーグから東北社会人リーグ、さらにはJFLへと順調にステップアップしていったいわきFCは、福島県2部リーグへの参戦から数えて6年目の今年、J3の舞台へと進む切符を勝ち取ったのです。

試合後、安田と大倉は、これまでのいわきFCの歴史を振り返りながら、それぞれ以下のように話しました。

安田社長
いわきFCは「スポーツにより地域社会を豊かにする」、「復興から成長へ」、「いわき・双葉郡を東北一の都市にする」という目標を掲げています。改めて書き並べると、目眩すらしそうな壮大な目標です。

しかし、チームは立ちはだかる困難を一つひとつ打ち砕くように、国内屈指の厳しいリーグであるJFLにおいて、一つひとつ勝利を積み重ねてくれました。チームの積み重ねる勝利に多いなる勇気をもらい、私たちも困難に立ち向かうことができました。

これからもいわきFCが、いわきや浜通りの人々の心をつなぎ、ライバルチームの地域の方々の心をも一つにするような熱い戦いを通じて社会を豊かにすること、プロサッカーチームのある街に産まれてくる子供たちのかけがえのない誇りになること、そんなことを胸に抱きながら、そして何よりスポーツの可能性を信じて、皆様とともに次のステージに向かいたいと思っております。

引き続き、熱い熱いご支援、ご声援のほどよろしくお願いいたします。

大倉代表
今日は試合を見ながら、ドーム社の安田や今手、初期のメンバー、初代ファンクラブの人たちなど、いわきFCをきっかけに出会った多くの人たちの顔を思い出していました。ゼロからつくってきたこのチームには本当に愛着があるし、果たさなければいけない責務も強く感じています。

スポーツで社会価値を創造する。スポーツで街づくり、人づくりをするということが、我々の最大のビジョン。まだまだ道半ばではありますが、今日一番うれしかったのは2000人という多くのお客様が来てくれて、この光景をJヴィレッジでつくれたことです。最初は0人で、この場所には誰もいなかったのですから。

「いわきFCができて日常が楽しくなった」。そう言ってくださるのがうれしい。みんなでつかんだJリーグ入り。ただし、我々にとっても、ファンとサポーターのみなさまにとっても、これからが長い道のりです。“勝った負けた”が始まって、より厳しい世界に入っていく。ただ、忘れてはいけないのは、我々はスポーツで社会価値を創造する、街づくりや人づくりのためにできたチームであるということ。勝負の世界とブレないビジョン。そこをバランスよく意識して、お互いに共有しながらもっともっといいクラブにみんなで育てていきたいです。

私にとって、この6年間は短かった。
まだまだこれから物語は続いていくのだと思います。


印象に残っているのが、二人に別々に話を聞いている中で、同じようなニュアンスの言葉が出てきたことです。
「僕らが目指している場所は、J1よりもっと遠いところにあるのかもしれない」

いわきFCが掲げる壮大なビジョンを成し遂げることは、ある意味で、J1で優勝することより大変なことなのかもしません。ただ、ゼロから生まれたサッカークラブがJ3の舞台へたどり着いたことも事実です。

アンダーアーマーが大切にしている価値観の中に、二つの言葉があります。
Celebrate The Win(勝利をたたえる)
Fight On Together(ともに闘う)

いわきFCが目指すビジョンの実現に向けて、まだまだ道半ばです。しかし、今はチームのこれまでの歴史とJリーグ入会という一つの成果をたたえ、支えてくれるファンや地域の方たちとともに、再び歩みを進めていければと思います。

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いわきFC・スペシャルムービー