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【超能力捜査】アメリカ女子大生誘拐事件~愚かな裏切り


1995年3月1日。アメリカ・ニューヨーク・ブルックリン。

午前4時近く、夜遊びをした二十歳の大学生、キム・アントナコスは、友人のリズ・ペイスをアパートで降ろし、数ブロック先の自分のアパートまで運転する。

その日しばらく経ってから、父親トムは娘がバイト先に来ていないという連絡を受ける。彼女らしくなかった。トムは娘の友達に電話をするが、誰も彼女を見ていないと言う。

彼は行方不明者として警察に届ける。通常警察は捜査まで24時間待つが、このケースに関してはすぐに動いた。

その時勤務中だったフィリップ・トリコラ刑事が言う。

「良い感触がありませんでした。行方不明者としてレポートして自分で捜査し始めました。」

キムは人気者でたくさんの友人がいた。彼女は一人っ子で両親は離婚している。父親トムは成功したビジネスマンで近くに住んでいる。母親マリーンはフロリダに住んでいた。

トリコラ刑事に言われ、トムがガレージをチェックすると、イヤリングが落ちていた。そのイヤリングは前からそこにあったのか、車から落ちたのか分からないが、もし着けていたとしたらそれを知るのはリズ・ペイス一人。

前日一緒にいた友人リズ・ペイスによると、キムはその日両方のイヤリングを着けていたと言う。

トリコラ刑事が言う。

「これで車がガレージの中にあった、キムは車の外に出た、その後そこで落ちたことが分かりました。犯罪に巻き込まれた・・。疑いはありませんでした。」

キムがカージャックにあったのだと思ったトリコラ刑事は、すぐに警察のコンピューターシステムに入力し、彼女を探すよう警告。航空局に連絡し、通常は車が破棄されている場所を見てもらうように依頼する。しかし何も発見できなかった。

トムがその日家に帰宅すると留守番電話があった。が、メッセージは残っていない。誰かが2度電話をかけて来て伝言を残さず切っていた。

彼は娘の居場所に関する情報に多額の懸賞金を申し出る。そして自らもひび割れた巣窟や怪しげな地区を訪れた。

警察は病院や遺体安置所も確認するがキムは見つからない。彼女の友人や隣人、キムのアパートに滞在していたカップル、ジョシュアとエイプリルにも話を聞く。しかし誰も彼女がどこにいるのか、彼女に関する情報を持っていなかった。

二日経っても何の手がかりもなく、キムの母親マリーンがフロリダから到着。彼女は友人からサイキックのエリー・クリスタルに会うことを勧められる。

サイキックのエリー・クリスタルは言う。

「ヒステリックになった女性から電話があって、リーディングを依頼されました。その夜にしてほしいと。緊急事態だと言います。キムの母親マリーンからでした。」

地元のテレビ番組のホストも務める彼女は自身をMediumと呼ぶ。Mediumとは、超自然的存在(霊的存在)と人間を直接に媒介することが可能な人物のことである。

彼女は、霊が窓の外の橋から自分のところへやって来ると言う。

エリーはこう表現する。

「ここにしばらく住んでから気づきましたが、高調波みたいなものです。端の二つの柱は音叉のようで、ケーブルは高調波を表している。霊は橋に引き寄せられるようです。入り口のようです。」

キムが消えてから二日後、母親マリーンはキムの友人の一人と一緒にエリーの元を訪れる。

エリーがその時のことを語る。

「写真を見せてもらってイメージが見え始めました。彼女が生きていることは分かっていました。直ちに見つけなきゃいけないことも。」

彼女は、キムは生きているが非常に危険な状態にさらされていると言う。エリーは波長を合わせ彼女の居場所を特定しようとする。

エリーが言う。

「彼女の体の中に入ろうとしているのですが、とても寒気がして恐怖でした。彼女のエネルギーはとても弱くて消えそうです。脱水状態にあるのを感じました。何も食べていません。すぐに見つけなければ死んでしまいます。」

エリーには既に警察が誘拐だと疑っていることも見えていた。

エリーは言う。

「彼女は逃走を試みています。でも捕まえられた・・。囚人のように囚われているのが分かります。ロープの感触・・・。縛られているという感覚が確かにありました。この誘拐に関与しているのが誰であれ、彼女をよく知っていると感じます。犯人が若い男達なのも分かっていました。彼女を待ち伏せしていた。彼女に対しての仕返しか、または彼女の家族のお金が目的のどちらかです。マリーンは泣いていました。全てが非常に感情的なリーディングでした。」

セッションが終わる前にエリーにはもう一つ、不可解な手がかりがあった。

「 "J" という文字がその時に見えてきました。子供が書くような J の字が。彼女を誘拐した人物と繋がっています。若い男です。ブルックリンにいる。」

この超常的な手がかりを警察に渡すことをマリーンは約束する。まずキムのアパートに戻ると、家族や友人達がサイキックのテープを聞くために集まっていた。

皆でテープを聞くなか、突然キムの友人ジョシュアとその友人フリオが立ち上がる。彼らは捜索に行くと言う。キムのために。

その日の午前3時。空き家で火災が発生し、消防団が出動した。炎は容易に消火されたが、地下で恐ろしい発見をすることになる。半黒焦げの遺体だった。長い髪が女性であることを示唆していた。椅子の残骸も遺体も原形をとどめないほど・・。両手は後ろに縛られ、脚はテープで縛られていた。

放火捜査官により、意図的にガソリンを撒いた後の放火であると断定される。そして検視官の報告書によると、女性は生きたまま焼かれていたことが明らかになる。

この事件の担当となったルイス・ピア刑事が言う。

「我々は電話をかけ、行方不明者届が出ている人物がいないかチェックしました。二人いました。一人は女性で、数日前に父親によって行方不明者届が出されていました。」

トリコラ刑事が言う。

「電話が鳴りました。女性が遺体で見つかり、殺人の被害者だと言います。キム・アントナコスの情報と一致していました。キムは背中と脚に非常に個性的なタトゥーを入れていました。無限大の記号と蠍・・。ほぼ彼女に間違いなかった。その時トムは私の目の前に座っていました。私は彼をそこに残したまま外へ出ました。彼の顔さえ見ることができなかった。別のオフィスに行ってそこに座りました。私の一週間は悲鳴で停止した。そして最悪の恐れが現実となりました。トムのところに戻れる気がしなかった・・。でもそういう訳にはいかない。だから彼の所へ戻って言いました。『他の刑事が話しに来ます。』それで私の事件は終わりました。」

ピア刑事が言う。

「トムのいる警察署へ行きました。原形をとどめないほどの焼死体が見つかったので、娘さんだと確認する為に歯科記録が必要だと、父親に伝えるのは非常に困難でした。」

行方不明事件は殺人事件へと切り替わる。

若い女性が生きたまま焼かれた残忍な事件がニュースの見出しに出ると、報道にうんざりのニューヨーカー達でさえ激怒する。

犯人は女性を冷たい地下室に縛り付け、猿ぐつわをして真っ暗な中そこに置き去りにした。事件が起こったの地域は中流階級の普通の住宅地。何かを警戒して通るような地域ではない。住民はショックを受ける。

一週間が経過。警察には何人かの容疑者がいたが、逮捕するのに十分な証拠はなかった。

エリーが言っていた誘拐も、キムが縛られていたことも、死に瀬していることも当たっていた。

ピア刑事が言う。

「トムは毎日のように電話をかけてきていました。そして『聞いてください。もしこの時点で何も捜査に進展がなければサイキックに会いに行ってくれますか?』と言いました。当時私は、そんなのは愚かなことだと思い込んでいました。でもそれをトムに伝えることはできませんでした。」

エリーが言う。

「トムが電話してきて、マリーンが情報の正確さに感銘している。警察と会ってもらえないかと言いました。私は、『もちろんです、問題ありません。』と言いました。」

父親トム、伯父ジョーイ、ピア刑事とその相棒はエリーの元を訪れる。

伯父ジョーイが言う。

「水晶玉?信じませんでした。でもトムのモチベーションは何が起こったかを知ることでした。そのためなら交霊会であれ水晶玉であれ何でも弟はやりますよ。」

エリーがその時の様子を語る。

「刑事の一人が多くの質問をしました。その時です。キムが私の方へ来はじめたのは。」

ピア刑事は言う。

「彼女は4人の人物が事件に関与していると言いました。J の文字が見えて、彼らの名前の頭文字だと。J がずっと見えると言います。」

J の文字が警察の共感を呼ぶ。キムの家に妻と赤ちゃんと共に一時的に滞在していた Joshua Torres は容疑者だった。その友人の Jose Negron と Julio Negronもである。ちなみにこの二人の苗字は同じだが血縁関係はない。

ジョシュアの別の友人、Nicholas Labrete はストリートネームのリトル J で通っていた。4人の容疑者。4人の男の名前は皆 J で始まる。
そのうち一人はキムのアパートに住んでいた。

エリーの予見にもかかわらず、警察は事件解決には近付いているようには見えなかった。

キムが姿を消してから半年経った9月6日。転機が訪れる。キムのアパートに一時的に滞在していた男、ジョシュア・トーレスが彼女を殺したことを自慢していたというのだ。

ピア刑事が言う。

「他の刑事から電話があって、男女二人がそこに来ていると言います。彼らはジョシュア・トーレスがキム・アントナコスを燃やしたと自白し、身代金のために誘拐したと言っていると。その詳細も話しているとのことでした。その時点から捜査は本格的にフル稼働し始めました。」

警察はまずジョシュアの友人フリオを尋問のために連行。彼は最終的に自白し、警察に協力すると言う。そこからジョシュアとニコラスを同時に捕まえた。ジョシュアは全てを否定。フリオの自白に直面したニコラスは罪を認める。

彼らの間で誘拐は非常に悪い方向へ向かったと言う。

ジョーイが言う。

「言ってくれればよかったのに。頼まれたらキムを取り戻すためなら私も弟も何だってしたのに。」

ジョシュアは、事前に録音した身代金要求のテープを再生するために、トムに2回電話をかけている。しかしテープを再生するのが早すぎた。

首謀者ジョシュアの裁判が1996年11月に開廷される。彼は無罪を主張した。

この事件を起訴した地方検事補が言う。

「ジョシュア・トーレスは特にひねくれた性格で、あくどい。邪悪な人物です。ジョシュアはキムが身代金要求の格好のターゲットだと狙ったのだと思います。容易に判断できた。一つ目に彼女には多くの財源があった。二つ目に家族は彼女を大切にしていた。そこにはお金があり、愛情があった。ジョシュアはその二つをよく知っている。その一つを手に入れる方法ももう一方の使い方も。」

キムがアパートに引っ越した後も父と娘は週に一度一緒に夕食をとり、毎日電話で話し、毎週日曜日にはトムの母親を訪れていた。母マリーンは離婚後フロリダに引っ越したが、娘とは親密なまま。 キムは母親が遊びに来た時に泊まる場所を確保するために、ベッドルーム 2 室のアパートまで借りていた。

キムは親しい友人とその交際相手ジョシュアが、それまで住んでいた親戚の家を出ることを余儀なくされた時、予備の寝室を提供した。彼らが居場所を見つけるまで。

すでに犯罪歴があったジョシュアはいとも簡単に友人達を陰謀に巻き込んだ。

検察の主張では、当日午前4時頃キムがアパートの向かいにあるガレージに車を入れていたところ、ホゼとニコラスが彼女をつかみ、空き家に連れて行った。そして暖房もないそこの地下室で食べ物も水も与えずに縛り付け、三日間放置した。

後に、サイキックのテープを聞いたジョシュアとフリオはパニックになる。警察の手が迫っていると感じた彼らはその夜、キムを解放するために空き家へ行った。

しかし三日間、食べ物も水もない中、寒さの中で放置された彼女は昏睡状態だった。男達は彼女が死んだと思い込んでいた。ジョシュアは証拠を燃やすことに決める。

この記事を取り上げた記者が言う。

「男たち・・・ジョシュアとニコラスには全くもって後悔の念がなかった。他の人達を虫のように見ていました。感情がない。命の価値観がありません。」

陪審員はジョシュアがマッチに火を点けながらキムに、人生は最悪だと囁いたことを聞く。証拠があるにも関わらず、ジョシュアは全ての容疑を否認。しかし陪審員は違った見方をしていた。

トムは彼らにはできるだけ長く苦しんでほしいと言った。

「一生刑務所で過ごすべきだ。絶対に出てくるべきではない。」と。

ジョシュア・トーレスは放火、誘拐、第一級殺人で58年の刑。

ニコラス・ラブレテ(Little J)も同じく58年。が、刑務所で2年も経たないうちにAIDSで死亡した。

フリオ・ネグロンは共犯者として6年の刑を宣告される。犯行を止めるために何もしなかった罪だ。

ホゼ・ネグロンが裁判にかけられることはなかった。1995年6月に路上で射殺されていたからだ。

初めから、エリーはキムと犯人たちのことをはっきりと認識していた。

ピア刑事が言う。

「エリーのリーディングの一つで当たっていたことは、Jという名前でした。Joshua、Jose、Julio、Little Jで知られる男です。」

Joshua Torres ジョシュア・トーレス
Jose Negron ホゼ・ネグロン
Julio Negron フリオ・ネグロン
Nicholas Labrete(Little J) ニコラス・ラブレテ(通称リトル J)

犯人4人はエリーの予見通り全員が J で始まる名前だ。

エリーが言った。

「最後にトムに会った時、全てがうまく対処されたと言っていました。トムには、達成感のようなものを感じました。娘さんの誘拐と殺害、犯人逮捕・・それが何であれ、既に結論は出た・・、全て終わったと。その後もうトムには会えないことは分かっていました。」

ジョーイが言う。

「その後は辛かったです。キムはダディーの小さな娘でしたから。100%。彼女はダディーを包んでいる・・。それよりうまくは言い表せない。彼のハートでした。」

トムはキムのお墓に定期的に通った。彼女の誕生日にも、ホリデーにも。

裁判で彼は言った。

「やったよ、ベイビー。ごみクズたちを捕まえた。」

娘の死から10年後の2005年、トムは癌のため亡くなった。

ジョーイは言った。

「最後は・・彼は生き甲斐が何もないと感じていたと思います。心が壊れたまま死んでいきました。」

あの世で

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