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【前世の記憶】兵隊の経験で家族を守る子供

レイトリアナとマシューにはエライジャという息子がいる。エライジャは大きな産声をあげるわけでもなく、生まれた瞬間から周囲の様子を観察しているような落ち着いた子に見えた。そしてなんと生まれて2分後には寝返りを打った。この時から両親は彼が普通の子とが違うと感じていた。

エライジャはハイハイをし出すと、片足だけ後ろにしロブスターのように横に進んだ。病院に連れて行くと、エライジャは医者に「 ショット」と言い、医者が「注射はしてないよ」と言うと彼は、「違うよ、バンバンだよ」と言う。

英語のShotには、注射を打つといういう意味も銃で撃つという意味も含まれる。通常太ももに打たれる予防接種をしていない、と医者が言ったのに対し、エライジャがいう「バンバン」とは、注射ではなくバーンと銃で撃たれたということを伝えようとしていたのだ。

そのうち彼は過去に自分に起こったことを話すようになる。転んだり傷ができたりすると「飛行機から落ちた時に枕が開くのが間に合わなかったんだ」と言った。

「もしかしてパラシュートのこと?」

「そう、パラシュートだよ」

また彼は、傷ついた子供がたくさんいる、とも言った。

エライジャは言葉を話しはじめるのと同時に絵を描き始め、そこには戦争のシーンが多く描かれていた。その後も子供達が暗がりに隠れている絵や、倒れている姿、爆発してあちこちに飛んでいる体など描き、その様は恐ろしいものだった。

彼は銃撃されたことやその時の痛み、血塗れになった自分の体について話した。マシューがショックを受けたのは、エライジャが爆発の後の耳鳴りについて話した時。この時の彼は2歳か3歳である。耳鳴りについて知る由がない。

その話を聞く両親にとっても辛いものだった。エライジャは大きな音を怖がり、花火を見に行くと狂ったように叫んだ。座って花火を見続けるなどとてもできる状態ではない。

レイトリアナにとって一番辛かったのは、独立記念日を友人宅で祝っていた時のこと。花火が始まるとすぐにエライジャの表情が恐怖に変わり、叫び声を上げ続ける。何か衝撃的なことが起きているのが明らかだった。

するとエライジャは自分の体を投げ出すかのように母親に覆いかぶさる。そして

「頭を下げて、ママ、頭を下げて!」

と言って母親の頭を手で押し続けた。母親を守ろうとしているのが明らかだった。

レイトリアナはマシューを呼んで言った。何かとてもおぞましいことが起こっている、どうしたらいいの?と。マシューはエライジャを抱きしめ、何も起こらないと言った。これは花火で、爆弾ではないから、と。

レイトリアナも幼い息子の中で起こっている恐怖を取り除いてあげたかった。しかし抱きしめても慰めても、どうにもできないことも分かっていた。

家族がエライジャに何が起きているのか答を見つけようとする一方で、父マシューだけは息子に何が起こっているのかを理解していた。

マシューは言う。

普通の人はあの子はおかしいと思うだろう。でも若い頃の経験が息子を理解するのに役立った。自分も子供の頃に何度も同じ夢を見ていた。

夢の中の自分は塹壕にいて、周りには砲弾が撃ち込まれていた。第一次世界大戦のようで、その記憶は現在も残っている。6歳か7歳ごろまでは家にテレビさえなかったので、その記憶は前世から来ているものだと彼は感じていた。

マシューにとって息子に何が起こっているのかを知ることは非常に重要なことである。なぜなら自分が子供の時に「ただの夢だ」と、気持ちを切り替えるように言われてきたからだ。

しかしそれが自分の経験ではないことは明らかで、現世では見たこともなければラジオで聞いたこともないシーンだったのだ。ただの夢でないことは自分が一番よく分かっていた。何年も同じ夢を繰り返し見るということは、ただの悪夢ではない。何らかの記憶が外へ出ようとしているのだ。

自分と同じ経験をしているのは息子エライジャだけ。彼を理解し進むべき方向を知ることは、マシューにとって難しいことではなかった。息子を助ける必要があるとすれば、彼が経験していることを知ることだ。

姉のミアにとって一番印象に残っているのは、エライジャにフラッシュカードを見せて読み書きを覚えさせていた時のこと。「NO」と書いてあるカードを見せるとエライジャは「9」と言う。違う、これは番号じゃなくて単語よ、と正すが、彼は首を振って数字の9だと言い張った。彼は違う言語を喋っていたのだ。

家族で歴史チャンネルを観ていた時も似たようなことがあった。ヒトラーがしゃべっているシーンで、エライジャはお腹を抱えて笑い出す。何がおかしいのかと聞く両親にエライジャは、ヒトラーは自分がハンサムだと思ってる、と言う。そこに英訳が入り、実際にヒトラーは自分はハンサムだという身振りをして冗談を言っていたことが分かる。

驚く家族にエライジャは、それが普通のように笑い「みんなドイツ語を喋れて当たり前」だと言った。息子の不思議な記憶に関して半信半疑だったレイトリアナは、彼がドイツ語を喋れることに関しては否定ができないと思った。

エライジャは自分が負った傷や周囲に落ちてくる砲弾について語った。飛行機から飛び降りる時のこと、パラシュートが開いた時のこと、そしてヒトラーの話も。

マシューはエライジャは第二次世界大戦時代のドイツ兵だったのに違いないと思っていた。しかしのちにマシューの推測が違っていたことが判明する。

エイドリアナはエライジャをアンティークショップに連れて行く。そこでメダルなどの第二次世界大戦のディスプレイを見つける。

エライジャは一つのナイフを指差し、それにはまんじが付いていた。まんじとは幾何学的な記号の一つで、世界の多くの文化や宗教でシンボルとして使用される。しかし逆向きのまんじはナチスドイツの党章にも用いられた。

するとエライジャが言った。

「あれと同じナイフを持ってた。ドイツ兵から取ったんだ。」

ある映画を見ていた時、ピーターという名前を耳にしたことが引き金となり、エライジャは自分の名前はピーターだったと言う。ピーターに近い名前だったけどピーターではない。でもピーターと呼んでほしいという。

エライジャが最初に描いた絵は飛行機の絵。当時2歳だったが上出来だった。そこから前世の手がかりを見つけるヒントを得た両親は、第二次世界大戦中の飛行機の画像を探し始める。

両親はエライジャに、ピンとくるものがあったら指を差すように言った。画像を見ながら、似てるけど尾翼が違う、などと言っていたエライジャだが、突然ある画像を指差すと、「それだよ!」と言うスクリーンを破りそうな勢いで飛行機の画像を指差すと「まさにこれだよ!」と。

それはロシアの飛行機だった。ピーターという名前もヨーロッパまたはソビエトに多い名前である。少なくとも当時は同盟国で良かったとマシューは笑う。

エライジャの奇妙な行動の数々に最初は戸惑っていたレイトリアナにとっても、一つ一つがつながっていった。ドイツ語を話せること、飛行機での体験、戦争中の絵を描く、アクションフィギュアで戦いの再現をする、など全てが前世のミステリーを解決させるものだった。

エライジャは子供たちの安全を守ることについて語り始める。彼の描く絵には何やら小さな図形と子供たちが描かれ、彼は常に銃と十字架を身につけていた。彼は子供たちを率いていて、子供たちを非難させて違う国へ連れて行くのだと言う。

そして地下、洞窟、木の家などに隠れたことを話す。子供たちとはどういうことなのか。レイトリアナはロシア、地下、子供たちと、エライジャが口にした言葉全てとの関連を調べる。

するとロシアのパルチザンが浮かび上がる。パルチザンとは、他国の軍隊による占領支配に抵抗するために結成された非正規軍の構成員のこと。第二次世界大戦ではナチス・ドイツ支配に抵抗した各国の抵抗運動がその例である。

パルチザンを助けるために空中からロシア軍が投下された。それがエライジャが言う飛行機と同じものだったのだ。が、多くの飛行機が撃ち落とされ、素早い脱出を余儀なくされた。

両親は息子がこの経験をし、その記憶をもったままなのだと理解する。エライジャの子供時代は前世の記憶によって奪われているかのようだった。幼い息子がこのような恐怖体験にどうやって対処しているのか。もし彼に忘れられないほどのトラウマが残っていたら・・。

家族は両サイドに軍人がたくさんいたため、戦争から帰還することがどういう心理状態なのか容易に想像できた。そんな記憶をもって生まれたとしたらどんなに辛いだろう。

エライジャは11歳になっていた。

「ママが大学で一冊の本を見つけて、前世の僕を探すために200ページくらい目を通したんだ。そしてそれらしい人を見つけた。僕だと思ってる。っていうか僕だよ。」

レトリアナとエライジャは中尉という肩書きだった男性を見つける。彼はベラルーシ国境での戦闘後に大佐に昇進している。その戦闘はエライジャの説明とマッチしていた。

彼は空爆の一部を受けている。撃ち落とされ墜落したのをきっかけにロシアのパルチザンに関わるようになったのだ。彼の名前はペトロブスキー大佐。エライジャの説明と全てが一致していた。

エライジャは手がかりを見つけるのに十分な情報をくれた。旅中の負傷、ワイヤーと足首の傷、打ち落とされた時の多くの詳細が全てマッチしていた。今まで抱えていた疑問、息子から聞いた詳細な情報の全て、手がかりだと思っていたことの全てがリンクしはじめる。両親は他のどこにも当てはまらないこの結果にたいへん感動した。

しかしのちに起こるある出来事がレトリアナに何よりも衝撃を与える。それはエライジャがかつて一度もしたことがないことだった。

マシューの部隊はイラクに配備されようとしていた。今回は直接被害を受ける可能性もある。夫婦はそのことを子供たちに告げるが、その時のエライジャの顔が忘れられない。

エライジャは父親と男同士の話をしたいと、母親に席を外すように言う。レトリアナは廊下で二人の会話を聞いていた。おそらく父親に行かないで、いつ帰ってくるの、どこに行くの?話はできる?などと聞くのだと思っていた。

しかし耳にしたのは、兵役経験者からイラクの戦地へ行く兵隊へのアドバイスだった。

「爆弾が周りに降ってきても大丈夫だから身をかがめて。うまく行くから。低くかがめばかがむほど安全だから。」

マシューはその言葉が忘れられない。息子の言葉を胸に秘めて父は戦地へ旅立つ。

イラクの基地に到着した1日目、周囲の状況をチェックしている時だった。突然どこからか大きな爆発音がして、砲弾が飛んでくる。マシューのブーツは地面に打ちつけられ、攻撃を受けた。

なんてことだ、こんなことが自分に本当に起こっているなんて。こんな死に方はしたくない。これが止まったら立ち上がって壕をめがけて走ろう。

しかしその瞬間、できるだけ低く身をかがめるようにという息子の言葉を思い出す。たくさんの砲弾が降ってきていたが、マシューは大丈夫だと確信した。彼の記憶はリビングルームで、息子と話したあの瞬間に戻っていた。冷静な顔で身を低くすれば大丈夫だと言う息子の顔を思い出し、全てうまく行くと。

小康状態になるや否や90mの距離を2秒ほどでクリアし、バンカーに辿り着く。仲間達が大丈夫か?と言ってマシューを叩きながら動かして確認する。もう大丈夫だと確信した。

エライジャはあの瞬間のためにやってきたのだろうか。彼は自分が何かを克服するために過去から送られてきたのだろうか。彼は自分へのギフトなのだろうか。誰にも答えは分からないが、息子がいてくれたことに感謝をしている。

家族は物事には理由があって起こると信じている。

マシューは戦闘を経験し、そこで見た光景は人生を変えることを身をもって知った。エライジャの行動も理解できる。たとえ前世の経験であっても。そして息子とかつてよりも強い絆で結ばれていることを実感する。

エライジャの症状はかなり改善してきた。前世の記憶に対処できるほどに。 

レイトリアナは前世の記憶をエライジャから取り除けるとしたらそうするだろうかと考えることがある。答えはノーだ。前世の記憶も含めて彼の性格であり、これには理由があるはずだから。

ペトロブスキー大佐が成し遂げたことは名誉と尊敬に値する。そしてそれがエライジャを同じライフスタイル導くことを願っている。

エライジャは言う。

「今の人生でも人を助けたい。違う形で。兵隊になりたい願望はないんだ。それは前世のこと。」

エライジャは武道を始め、イラクから戻ってきた父親との時間を楽しんでいる。

最後にマシューはこうアドバイスする。

もしあなたの子供がこのような経験をしていたら、それを受け入れて助ける方がはるかに良いです。 それも子供の魂の一部です。子供がありのままに成長するのを許し、どうなるかを見る必要があります。


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