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【前世の記憶】前世は女の子だったと言う息子

アメリカ、オハイオ州。高校、大学と一緒だったエリカとニック夫妻には、ルークという5歳の息子がいる。偏見のない広い心を持つ2人だが、息子に起こることへの準備はできていなかった。

ルークが生まれた時、エリカはずっと欠けていた何かを得たような感覚だった。もちろん父ニックも大喜び。エリカの母リサも、エリカにそっくりの初孫を見た瞬間から絆を感じたと言う。

発達の早かったルークは、言葉も早くから喋り始め、会話能力にも長けていた。

彼には警戒する面もあった。ほとんどの子供はコンロは熱いということを、身をもって学ぶか、親が教えるかしないと分からないものだが、彼はすでに心得ているようだった。

最初にエリカを驚かせたのは、ルークが「赤ちゃんになる前、僕は黒髪だった。」と言った時。何を言ってるの、この子は?2歳までハゲ頭だったし、今は金髪でしょ。黒髪だったことはないじゃない、とエリカは思っていた。

ある朝彼女が着替えてイヤリングを着けていた時、ルークがイヤリングに触りながら言う。

「僕も女の子だった時、こんなイヤリングを持ってたよ」

この時もエリカは、彼が適当に言ってるのだと思った。きっと自分が朝の支度をしてイヤリングをつけるのを見慣れているから、関連づけているだけだろうと。

彼は男の子として生まれ、女の子だったことは一度もないのだと何度も伝える。が、その後もルークは「僕が女の子だった時・・・」の話をした。

2歳児がそのようなことを言えば、たいての親は聞き流し、あまり真剣には取らないだろう。

ある日、外でてんとう虫を見つけ、名前は何にしたいかとエリカが聞くと、ルークは「パム」と答える。エリカは笑った。その名前、どこからきたのよ、と。パムという名前の知り合いはいないし、彼の観るテレビ番組にも登場しない。

彼はぬいぐるみのひとつもパムと呼び始める。そして何かに名前をつける時、それが女性であれば全て「パム」と名付けた。

ルークが3歳のバレンタインデーの日、窓にバレンタインの飾り付けをしていた時のこと。赤とピンクのフクロウに何と名付けるかエリカが聞くと、ルークはパムと答える。

なぜいつもパムと名付けるのか。それはどこから来るのか?

エリカは聞いた。

「パムって誰?」

するとルークは真っ直ぐ見て答える。

「僕だよ。っていうか、僕だった。でも死んで天国に行ったんだ。そしたら神様が僕を押し戻して、起きたら赤ちゃんになってた。そしてママたちがルークって名付けたの。」

エリカはまず、ルークが「死」の意味を知っていることに驚いた。ニックも信じられないという表情でただ見つめている。

エリカは母リサに電話をかけ、ルークが言ったことを告げる。

リサは言う。

「彼の口からそんな言葉が飛び出すなんて非常に驚くべきことよ。まず、この子には、死と言う見識がなかった。天国や神様という見識もなかった。」

輪廻転生や前世について初めて口にしたのはリサだった。

「ママ、やめてよ・・」

というのがエリカの反応。

リサは言う。

「化学的な面から対処したがるエリカとニックは、前世についてあまりオープンではありませんでした。科学的根拠なしで物事を把握することは、彼らにとって非常に困難だったんです。」

エリカはルークの言動に対して特に何もしなかった。1年ほどは、その話題に触れたり、彼に聞いたりすることもなかった。

息子の頭の中に存在しない考えを吹き込みたくはないため、慎重だったのだ。ニックも同様に、その話題に触れるのを避けた。息子が話したいようにも見えなかった。

ルークが4歳の時、テレビを見ていた時のこと。爆撃に関する番組で、建物の横に穴が空いている映像が映ると、ルークはもう見たくない、怖いから、と言う。

「分かったわ、見なくていいわよ。でも大丈夫。ここに映っている人たちは皆生きてるわ。フィクションなのよ。」

そう言うエリカをじっと見つめると、ルークは言った。

「そうだけど、僕は死んだ。」

どんな死に方をしたか覚えているかと聞くと、「うん、火事だった。」と言う。

「テレビで火事を見たから言ってるんじゃない?作り話をしてるか、冗談を言って面白がってる?」

そう反応するエリカに真剣な顔でルークは言った。

「ノー、ママ。テレビに映った建物は爆発して横に穴が空いてたけど、それとは全然違うんだ。火事だったんだよ。テレビの建物みたいに大きかったけど、爆発はしてない。全焼したんだ。とても高い建物だったよ。僕たちは窓を開けて飛び降りたんだ。」

彼は手でジェスチャーをし、飛び降りるような仕草を見せた。

断固として主張を譲らず、具体的に描写する息子にショックを受ける。彼の発言は、このまま放置できないと思うほどエリカを不安にさせていた。

エリカは、もしかしたら輪廻転生と関係があるのかもしれないと考え始める。

そこで場所を覚えているかと聞くと、シカゴだと言う。なぜ分かるのか、どこからその考えは来たのか、確信はあるのかと聞いてみる。

「確かだよ、ママ、間違いない。僕の脳は今とってもよく働いてる。シカゴだって知ってるんだ。」

ルークは答える。

運転していた記憶はあるかと聞くと、ルークは、あまり運転はしなかったと言う。

ではどうやって移動していたのかと聞くと、徒歩が多かった、と言いながら少し考えると彼は、電車やバスに乗ることもあったと言う。

シカゴという場所柄、これは本当なのかもしれない・・。

ルークは自分でもまだ理解していないようなことを家族に伝えていた。

パムという名前の女性、シカゴに住んでいた、火事で亡くなったという情報をもとに、エリカは調べ始める。

最初に見つけたシカゴ市内の大規模な火災、シカゴ大火では、ウォータータワーが焼け残っていたため、写真を見せると、ルークは違うと言う。

そこでパムの本名であろうパメラという名前と、他の情報と組み合わせて調べると見事にヒットする。しかし、見つけた情報は悲痛なものだった。

それは、1993年3月に起こったパクストン・ホテル大火災。大きな火災で、消防車が到着した時には、窓にぶら下がっている人々や屋根から落ちる人々もいた。 

この火災で19名の人が亡くなり、遺体の身元確認をするために専門家を呼ばなければならなかった。当時の新聞記事では、少なくとも一人の女性が飛び降りて死亡したと報道していた。彼女の名前はパメラという30代の女性。

さらにエリカはパメラの葬儀が行われた場所を調べてみる。おそらくそこが彼女の出身地である可能性が高いからだ。

パメラの葬儀が行われたのはイリノイ州メイウッドという町。そこはアフリカ系アメリカ人の多い町だった。

これまでルークに肌の色は何色だったか聞くことすら思いつかなかったが、髪は黒髪だったと何度も言っていた。別の人生、別の性別なうえ、別の人種とまでは、考えが及ばなかった。

そこでエリカはルークを寝かしつけている時に聞いてみる。

「パムの肌は何色だったの?」

ルークは、「ブラック」と即答する。

エリカはゾッとした。ルークが言ったことの全てがこの情報と一致している。

その夜帰宅したニックに、このことを伝えるか悩んだ。彼は動揺するだろうか。どのように受け取るだろうか。

エリカの話を聞いたニックの最初の反応は、案の定「君はおかしいよ」だった。彼は真剣に取らず、その詳細にも興味を示さなかった。エリカは一つ一つがいかにマッチしているか根拠を示す。

エリカはパムの写真を何枚か見つけ、ルークに見せることにする。

ニックは頭を抱え苦笑いをする。

「きっと99.9%、写真の人が誰かなんて分からないと思うよ。何も起こらないはず。」

エリカは、パムがどんな人だったのか、彼女に何が起こったのか、知ることにより、ルークを悪夢から助けられる気がしていた。

彼女はパムと思われる人物の写真を含んだ複数の写真をルークに見せる。

「この人たちの中で知っている人はいる?見覚えのある人とか。」

この写真の中でパムは一人だけ。残りは30代の黒人女性の写真である。

「あのね。知ってる人いるよ。これパムだよ。」

ルークはパムを指差した。

さらにこの写真を撮られた時のことを覚えていると言う。しかしそれは別の時代だったと。

ニックは言う。

「彼が写真を選んだのは説得力があった。説明できない。何が何だか分からないよ。どう考えていいか分からない。僕達はパムを見つけたのかもしれないという可能性が強まった、と言えるだろうね。」

エリカは言う。

ルークの過去に起こったことが知れて、これから彼の質問にもっと答えられるような気がしている。もう彼は一人で戦わなくてもいい。

火事を怖がる必要はないことをルークが理解することは、自分にとって重要だった。危険なことに関しても。彼には今、ルークとして生きるもう一つのチャンスがあるのだから。

ルークの前世がパメラだったという数々の根拠は、この後、エリカがパメラの家族に連絡を取る十分なきっかけとなった。彼女の家族はメディアにコメントを残すことは拒否しているが、パメラについて話してくれたと言う。

パメラの家族の話により、ルークとの類似点があることが分かる。

ルークは、スティービー・ワンダーが好きなのだが、パメラも彼のファンだったと言う。またキーボードを弾くのが趣味であることも一致していた。ルークの場合はおもちゃのキーボードだが。

その後彼はパムや火災について話すことはなくなったと言う。


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