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【前世の記憶】殺人事件の被害少年が前世の母に会いに

英語教師をしているレベッカには、ジェイコブという息子がいる。ジェイコブは第二子だが遅くできた子供で、妊娠したときは喜んだ。7週間早く生まれたジェイコブは未熟児だったものの、医者からは、臨月まで待ったら5.5kgの巨大児になっていただろうと言われる。

ジェイコブは早期から芸術的な一面を見せていた。そんなジェイコブの2歳の時の発言は、両親に大きなショックを与える。

ランチを終えてリビングルームにいたある日のこと、突然

「どうして僕を元の家族から引き離したの?」

と言うのだ。

耳を疑ったレベッカが聞き返すと、同じ言葉を繰り返す。

「どうして僕を元の家族から引き離したの?」

レベッカが否定すると、ジェイコブは引き離されたことを主張し、帽子をかぶった父親と髪を後ろに束ねた母親の姿を絵で描写した。本当に他の家族についての記憶がある様子だ。

しかし、そんなアイデアがどこからきたのか分からなかった。レベッカは息子から、説明を求められているように感じたが、説明などできるはずもない。

ジェイコブは特に心配事は見られない幸せな子供に見えた。友達もすぐにできたし、兄とも年齢差にかかわらず仲が良い。父親ともよく一緒にいろんなことをしたし何も問題はないはずだ。なぜ他に家族を欲しがるのか想像のしようもなかった。

ジェイコブは他にも困惑することを言った。

ある日突然、どうして自分が第一子ではないのかと聞くのだ。自分が兄であるべきだと主張するが、彼の兄は一回りも上である。ジェイコブは第一子ではないことについて、怒っているようにさえ見えた。

「お兄ちゃんが先に生まれたからよ」と説明しても、彼にとっては満足のいく答えではなかった。自分が先に生まれるべきだったと、レベッカがコントロールできないことについて怒っていた。

ジェイコブは常に落ち着いている受け身の子供だ。だからこそ余計に彼の一連の言動が奇妙に思えた。これは兄弟間のライバル心とは違う。ジェイコブの他の家族に属しているという感覚は継続し、真剣に怒りを覚えていた。

ジェイコブが夜通し眠ることは一度もなかった。朝起きるとシーツはねじまがり、掛け物はベッドの下に落ち、快適に眠れなかったことがうかがえる。夜通し起きていることもあり、悪夢を避けるために夜更かしをしているのかとさえ思ったほど。

ある日ジェイコブは絵を描いていたが、それを見たレベッカは、これが息子の見る悪夢なのかと自分の目を疑った。黒い影の生物が何体もいて、皆赤い目をしているのだ。その後も彼は同じような絵を描き続けた。それは何者なのかと聞くと、ジェイコブは「影の人々」だと答える。彼は常に影の人々を描き続け、学校でも同じような絵を描いた。

しかしその中でも一つだけ異なっているのが「帽子の男」である。帽子の男は意地悪で、いつもジェイコブから遠く離れた位置に描かれていた。帽子の男はいつも挑発してくるのだと言う。ジェイコブが怖がっているのを知っていて、

「ジェイコブ、バスルームの電気まで5歩しかないけど触れられるか?お前にはできないだろう。」

など、常に帽子の男からいじめられている様子だった。

成長するにつれて、テレビをつけていればある程度は眠れるようになっていく。明るさがあれば影の人々も帽子の男も近づけないようである。

ジェイコブはひどい頭痛持ちで、頭痛が睡眠を妨げている可能性も指摘された。そこで脳のテストを行うが、頭痛を引き起こす原因は発見されなかった。

ジェイコブの悪夢は続き、影の人々の絵を描き続け、ひどい頭痛も続いていた。

彼の元の家族についても説明はつかないが、息子にとっては真実だということは感じ取れた。レベッカは息子が幸せでない原因が自分にあるかのように感じ、悲しい気持ちでいた。息子の影の人々の絵には恐怖を覚えたが、後に息子から聞かされることほど恐怖に感じたことはない。

ある日、ジェイコブはレベッカに話したいことがあると言う。母親を動揺させるからと長いこと言えないでいたようだ。

ジェイコブは自分が悪夢で何を見ているのかやっと気がついたが、言葉として表現できなかったと言う。そして自分が殺された日のことが見えることを告げた。

彼は15〜16歳くらいの自分が森の中にいるのが見えると言う。左肩越しに後ろを振り向いた後、前を向いている時に側頭部をベースボールバットで殴られた。そして横へ転倒し、見上げると誰かがアルミニウム製のベースボールバットを持っているのが見えた。目から出血していたため、あまりよくは見えなかったと言う。

レベッカは聞いた話を消化するのに数分を要した。ジェイコブは真剣な表情でこちらを見ていて、反応を気にしているようだった。そのビジョンに間違いはないか確認すると、確かだと言う。ジェイコブはそのビジョンが前世の記憶なのか、自分にこれから起こる予知的なもので、数年以内に起こることなのか分からず動揺していた。

それを聞いたレベッカは、前世の記憶ではないかと思い始める。厳格なプロテスタントの家庭で育った彼女の家族は、非常に保守的で、その教えに従えば生まれ変わりを信じることはできない。しかしジェイコブの話を聞くたびに、前世の記憶ではないかとの確信が強まって行く。

そして、ジェイコブの頭痛はベースボールバットで殴られたことによる可能性もあるのではないか、また、影の人々や帽子の男も前世の死に方と関係があるのではないかと思うようになる。

ジェイコブは10歳ごろになると、他の家族から引き離したことは言わなくなる。その考えがなくなったのか、周りの人に変わり者だと思われることに疲れたからかなのかは定かではない。

ジェイコブから聞いた話を自分の家族に話すと、生まれ変わりはあり得ないと言われた。しかし重要なことは、他の人が信じるかどうかはではなく、過去に起こったことへ執着と恐れから息子が解放されることだった。

よく眠れるようになり、頭痛がなくなり、幸せで健康な子供になって欲しい。レベッカは、息子を前世の記憶を明確にするものに接触させたいと思っていた。

13歳のジェイコブは言う。

「僕は前世で死んだ時の記憶を覚えてる。森の中にいて、自分の口から叫び声があがったのも覚えてる。そして素早い動きの冷たい何かに側頭部を打たれたんだ。誰かが後ろに立っていて、アルミニウムのベースボールバットを落としているのが見えた。」

レベッカはベースボールバットで殺されたティーンについて調べ始める。いくつもの事例があったため、ジェイコブの説明にマッチするものに絞り込む必要があったが、そのうち2〜3件の事件に絞り込んだ。

そのうちの一つは、1986年にマサチューセッツで起こった14歳の少年の殺害事件だ。転校してきたばかりのショーンは、まだよく知らないロッド・マシューズと一緒に出かけた。彼がいじめっ子だということを知らなかったのだ。

ロッドの目的は、誰かを森に誘い出し、殺害するというもの。原因は人を殺害したらどう感じるのか知りたいという非常に身勝手なものだった。そして友達の少ない転校生のショーンなら悲しむ人も少ないだろうと、標的に選んだのだ。

ショーンを森に誘い出すことに成功した彼は、何の前兆も見せず、いきなりベースベッドバットで殴る。目を開けようとするショーンを見て、さらに意識がなくなるまで殴った。

事件の前にロッドは友人2人に、人を殺したいと言っている。その後、実際に殺害したことを信じないその友人たちを、ショーンの遺体を見せに連れて行き、口外したら殺すと脅した。友人が匿名で通報したことにより事件が発覚する。

レベッカは、この事件がジェイコブの説明にとても似ていると思った。

ジェイコブは自分が第一子であるべきだと主張していたが、ショーンは第一子で、車椅子に乗った障害者の妹がいた。

ジェイコブが小さい頃、学校に車椅子に乗った女の子がいた。彼女には友達が少なかったが、ジェイコブはその数少ない友達の1人だった。振り返ってみて、前世の記憶が影響しているのでは?と考えた。

レベッカはリサーチの結果を息子と共有する。そしてショーンの事件の詳細を読み終えたジェイコブは「これだ」と言う。11月末に起こった事件で、背景に雪が積もっていることも、森の中だったことも記憶と一致していた。

レベッカはジェイコブと一緒にマサチューセッツに向かう計画をしていて、可能ならばショーンの家族にも会いたいと思っていた。ショーンのお墓へ行くことで、何かしらの区切りをつけられることを期待していた。

レベッカとジェイコブは、ショーンの母親へ連絡を取る。ショーンの母親は会うことに同意をしてくれた。

とはいっても、母子ともに緊張していた。ジェイコブは、前世で母親だったかもしれない人に会うことは、奇妙な気持ちだと感じていた。

ショーンの母親ジェニーは、ジェイコブに会うなり、「ハグしてもいい?」と聞いてきた。そしてハグをしながら

「私の今の気持ちを伝えきれない。でもよい気持ちよ。ショーンの匂いを感じる。息子の匂いを感じる!」

レベッカは、息子がジェニーにハグを求められた時、彼がどう反応するか予測できなかった。ジェイコブは触れ合いを好まず、ハグをするタイプではないのだ。ところがすぐにジェニーのハグには応じた。

ジェニーは、彼の目の表情はショーンのもので、これは本物だと言う。そして自分にできることは何かあるか、知りたいことはあるかと聞いてくれた。ジェイコブが、ショーンはどんな子だったかと聞くと、ジェニーは答える。

ショーンは森などのアドベンチャーを愛し、とりでを作るのが好きだった。妹のことも大事にし、絵を描くのも好きな子だった。ジェイコブも絵を描くのが好きでスケッチパッドを常備している。

ジェニーに会った後のジェイコブは、ショーンについて詳しく話ができて嬉しい、完璧なコネクションを感じたと、目を輝かせて語った。

ジェニーは、息子が家に帰ってきたような気持ちで、どう感謝していいか分ららない、何かのコネクションを感じた、いつでも電話してほしいと言う。そしてジェイコブの支えになると力強い言葉をかけてくれた。

それを見つめるレベッカは、ジェイコブとジェニーの双方が安堵できたことを嬉しく感じていた。

街の人たちの寄付によりショーンのために美しいお墓が建てられたことをジェニーが伝えると、ジェイコブはぜひ行きたいと言う。そこで一行はショーンのお墓へ向かい、ジェイコブは花をたむけてショーンに語りかけた。

「ショーン、君が人生を全うできなかったとしても、できるだけ長く僕は生きるつもりだ。そして僕の人生が終わった時、他の誰かが引き継ぐんだ。」

ショーンのお墓で花をたむけて言葉をかけたときの気分は最高だった、とジェイコブは最高の笑顔で語る。

マサチューセッツから帰った後のジェイコブの頭痛は減少し、ついに夜眠れるようになった。それはジェイコブだけではない。実はジェニーも息子が殺されて以来、悪夢で眠れない日々を送ってきたが、ジェイコブと対面して以来、眠れるようになったと言うのだ。

それでもジェイコブは、自分にはジェニーと連絡を取り合うことが必要だと感じている。ショーンについて話したいことがあるかもしれないからだ。それに、今ではジェニーのことを友達と思っている。

今でこそ見せるジェイコブの笑顔は、過去に見たことがなかったものだとレベッカは語る。少なくとも、あんなに眩しい笑顔は、正直言って人生の中で一度も見たことがなかったと。

やっと今、幸せな長い人生が待ち受けていることを感じ、前向きな見通しを感じられる。


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