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詩 「息を」

 「息を」

いま空を見つめ
あのころも空を見つめ
いまあなたは遠く
あのときはとなりで
いっしょに心をふるわせた

生まれただれもがどこかにいれられ
はいっていないと生きられないけれど
はいっていても
鉛のようで息ができない
つめたすぎる 外から中が見えない箱


さかれた心からそそいでくれた

あたたかさ

あなたがいて

息ができた


踏みあとひとつない
雪の原にねころび
金色《きんいろ》の麦畑が
紅《べに》のゆうやけが
あなたが
すべてのあなたが
息をつないでくれたこと

わたしがわたしの奥ふかくに息を迎えいれるまで

夕べの風にそよぎ
あさの草のうえの涙でうるおし
芯まで日にさらして
そそがれたあたたかさよ あふれて

いつもだれかが息をつまらせている



(2021年10月 さより)


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