夢日記ショートショート231017
私は、友人のAとBと一緒に明日出発する旅行の計画についての打ち合わせをしていた。
Aが住むアパートの一室。
そろそろ帰って、各々で旅の支度をしようと一旦解散することにした。
私とBはAの部屋をあとにして、アパートから出ようとすると、見送りに出たAがふと、「そういえば、下の階の部屋が今度ひとつ空きになるらしいけど、随時内見できるらしいよ。B、引っ越したいって言ってたから今できるなら見て行ってみたら?」と提案してきた。
あたりはすっかり夜で、随時とはいえこんな時間から内見させてと言ったら見せてくれるのか?と私は不安になったが、Aは事もなげに件の部屋を訪ねた。
下の階の住人は信じられないくらいにウェルカムな様子で、我々を迎えてくれ、生活感のあふれた部屋を惜しげもなく見せてくれた。
夫婦と、まだ小さな子どもが4人もいる。そろそろ寝る時間なんじゃないだろうか。賑やかな一室で、私だけがなんとなくバツが悪いように佇んでいた。
Bは間取りや部屋の様子が概ね気に入ったようで、ここで住むのもまんざらでもなさそうな感じをたたえながら住人たちと談笑していた。
そんな楽しそうな様子に水を差すのは気が退けるが、時間も時間、しかも明日の旅行は朝からだし、もうそろそろ…と、おいとますることをAとBに促すと、二人は我に返ったように慌てつつも住人たちに丁寧に礼を言い、我々は部屋をあとにした。
背後から子どもたちの屈託のない「バイバーイ!」という声が聞こえた。
あと数日もすれば自分たち自身がこのアパートから引っ越していくことを知ってか知らでかは分からないが、妙に響いて届く「バイバイ」だった。
1階のエントランスへ降りようと階段の踊り場へ着くと、私はギョッとした。
行きのときには普通だった階段が、踊り場から先がすっかりなくなっていたのだ。
私は何が起こったのか分からず、「階段がなくなってるんだけど!!何??」と、うろたえた。
ところがAはこれまた事もなげに、「降りるときはいつも階段が消える仕様なんだよね」と教えてくれたのだが、住んでいるアパートの階段が消える仕様という意味がまず理解できない。
「じゃあいつもここから降りるときはどうしてんのよ?」
私は困惑を抑えられないままだが、ひとまずAに質問すると、
「簡単よ、飛び降りればいいだけの話だから」
飛び降りるって…と、私は固唾を呑んで踊り場の下を覗き込んだ。
踊り場からエントランスまで、ゆうに3メートル弱はある。
ここから飛び降りるなんて、外に出るたびに骨を折らないといけないのか。物理的に。
骨が何本あっても足りない。
Aはここに住むと決めたときに階段のことを知ってて入居したのか?だとしたら狂ってる。
さっきの家族だって、小さな子があんなにいるのにどうやってここを出入りしているのだろう。
とにかく様々な疑問がほんの一瞬で頭の中を駆け巡った。
Bも、部屋の間取りの前にまずはここ、階段の問題は無視できないはずなのに…などと思った矢先、AだけでなくBも当たり前かのようにふわりとエントランスへ飛び降りていってしまった。
私は眩暈がして、ガクガクと足が震えているのが分かった。
高所が苦手な私にとって、そのような高さから飛び降りるなんて悪夢としか思えない。
これが夢だとして、この階段が途中で消えている状況は一体なんのメタファーなのだろう。
そういえばこの間見た夢も、私は高校生に戻っていて、校舎の中の階段の途中がすっかり抜け落ちていた。
そんなことを思い出しながら、私は何度目を凝らそうとも見えることはない階段の辺り、つまり何にもない空間を見つめているうちに、時間は過ぎていった。