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小説『ヴァルキーザ』6章(1)
6. 巡礼者たち
カルマンタの町を発ったユニオン・シップの冒険者たちは一路、イリスタリアの都を目指して歩く。数日後、イリスタリアに通じる街道を行くと、巡礼者の一団が六人の山賊らに襲われているのを見かけた。
グラファーンたちユニオン・シップの三人は、すぐに山賊たちを追い払い、巡礼者たちを助けた。
「おい、ケガはないか?」
エルハンストが、埃まみれの巡礼者たちのリーダーらしき若い男に声をかける。
「ありがとう、私は大丈夫です」
咳込みながら、その青年は応えた。
そして彼はすぐ隣にいた巡礼者に声をかけた。
「メレル、怪我はありませんか」
「大丈夫です、アム=ガルン様。ですが、他の何人かが、傷ついています」
見ると、たしかに他の巡礼者たちが、警護者を含め三、四人ほど怪我をしているらしく、なかにはうずくまっている者もいた。
幸い、いずれも怪我の程度は軽く、十人の巡礼団に一人の死者も出なかった。
巡礼者たちのリーダーで、アム=ガルンと呼ばれたその男が何かを唱え、傷を負った者たちに手を当てると、白い光が輝くとともに、怪我をした者たちの傷が見る見るうちに治っていった。
「奇跡だ…」
その光景を目の当たりにしたエルハンストが呟く。
「あなたも魔法を使うのですか」
グラファーンがたずねる。
「メディアス…はい、するとあなたも魔法使いですか?」
アム=ガルンはグラファーンに訊いた。
「はい。申し遅れました。私の名はグラファーン。黄金の森からやって来た、フォロス族の旅人です」
「フォロス…そうでしたか。よく魔法をご存知ですね」
そして巡礼団のリーダーであるその若い青年僧は自己紹介する。
「私は、アム=ガルンと申します。イリスタリア王国国教会に仕えている司祭です。エイル神を信仰しているため、奇跡、つまり白魔法が使えるのです。」
アム=ガルンは話を続ける。
「今、私たちは教会の指示で、トルダードなどの都市を訪れながら、東方にある聖地を目指す巡礼の旅をしておりました。その途中で、ごらんのとおり山賊に襲われたのです。危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
話を聞いたグラファーンは、この人物は安全と判断し、彼にイオリィやエルハンストを紹介して、ユニオン・シップのことも話した。
そしてアム=ガルンをはじめ巡礼者たちは、これより先の旅が予測以上に危険で困難であると判断し、その結果、ここで巡礼の旅を中断し、道を引き返して、もとのイリスタリアの都に戻ることに決めた。巡礼団自身の安全を慮ってのことだった。
グラファーンたちユニオン・シップもイリスタリアを目指していたため、アム=ガルンの巡礼団に同行を申し出た。アム=ガルンは快諾した。
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