小説『ヴァルキーザ』 11章(3)
地下2階に降りると、グラファーンたちは、1階と違い、廊下の両側の壁に照明用のたいまつが灯っていることに気づいた。たいまつは、一定の間隔で配置されている。
そのおかげで、やや明るい通路を歩いてゆくと、この階には、普通の人たちがいることが分かった。
はじめに立ち寄った手前の数部屋は、いずれも空き部屋だった。
その後に寄った次の部屋は牢屋になっており、外から鍵のかけられた格子戸の向こう側の部屋のなかに一人の平原人の男性が閉じ込められていた。
男はやつれている様子で、ぼさぼさの髪をして、ひげがぼうぼうと伸びている。
イオリィが勇気をもって話しかけてみると、男は応えてカルナースと名乗った。とても腹が空いているというので、檻の外から食料を差し入れてやると、彼はむしゃむしゃ食べた。
食べ終わるとカルナースは共通語で礼を言った。彼の話によると、自分は山賊だが、この迷宮のなかで金に困って盗みをはたらいて捕まり、カイトハーパーの手下の看守によって牢屋に入れられたのだそうだ。
カイトハーパーとは、この迷宮の管理者である男の黒僧侶のことである。
また、この迷宮のもっと地下にある、反対側の出口から出るには、迷宮の最深部にある秘密のしかけを解かなければならないが、それが何なのかは自分にも分からない…
そこまで話すと、カルナースは牢から脱出させてくれるよう冒険者たちに頼んだので、ラフィアが牢の錠を、小技を用いてこじ開けてやると、カルナースは牢を出て、飛び出すように迷宮の入り口の方に走り去っていった。
次に、冒険者たちがしばらくの間、先を歩いてゆくと、薄汚い小部屋のなかで一人の平原人の男が、つるはしを両手に持って、部屋の側壁をせっせと掘っている。
男の傍らには、掘った土が盛られた小山ができている。男は冒険者たちに気づいて声をかけてきた。
「すいません、監督。予定より作業が遅れてまして…」
グラファーンはすぐに首を横に振った。
「私は、監督じゃありませんよ」
「あなたは、ここで何をしてらっしゃるんですか?」
イオリィが訊く。
「拡張工事ですよ。この迷宮のね。壁を掘って、新たな通路を作っているんです。カイトハーパー様の命令で」
男が答える。
男はローグという名で、カイトハーパーに雇われて、ここで住み込みで働いていた。部屋のなかはろくな照明が無い。
彼は元気がなく、見たところ、過労のようだ。
そこでラフィアが、
「大変ですね。失礼だけど、こき使われてるんですね」
するとローグは首を横に振った。
「とんでもありません。労働(しごと)は、やりがいがありますよ。それに、働かなければ、食べていけないしね」
ローグの仕事の邪魔をしたくなかったので、冒険者たち一団は、挨拶もそこそこに、ローグのいる部屋を立ち去った。
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