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小説『ヴァルキーザ』 12章(6)


水車亭すいしゃてい亭主ていしゅトーダンは、宿の1階の酒場でグラファーンに酒を注ぎながら、

「私はペンシュミオンとウィスリーのことが可哀想かわいそうでなりません。いったい、どうにかならないものでしょうか」とこぼす。

するとグラファーンは、むねを張った。

大丈夫だいじょうぶですよ、トーダンさん。ペンシュミオン君とウィスリーさんのために、私がとりなしをしてあげましょう。二人のそれぞれの親御おやごさんの、レイシルさんとソールズさんを説得せっとくしてみます。そして、二人の若者たちの結婚をみとめさせてあげます。どうか、大船に乗ったつもりでいて下さい」

それからグラファーンは、ユニオン・シップの団員クルーたちにこの話をし、打ち合わせをしたうえで、一団を代表してグラファーンとイオリィが、それぞれレイシルとソールズの家に行き、幽閉ゆうへいした子たちを解放かいほうするように、親たちを説得した。

長い交渉こうしょうすえ、願いかなって、レイシルもソールズもそれぞれ要求を受け入れて、子たちを解放した。

そしてそのさい、二人の子たちの結婚を認める上での条件をつけた。

親たちがそろって宣告せんこくした条件とは、愛し合う二人が両方とも、今度、村をげて行われる、年に一度の祭典さいてんにおいて、村の若者たちが芸をきそうコンテストで1位を取ることだった。

そうできれば、恋人同士の熱意をみとめて、二人を結婚させてやろう、と。

ペンシュミオンもウィスリーも、それぞれ、その事を知ると、うれしさのあまり、ぱっと目をかがやかせた。

ウィスリーの特技とくぎは歌だった。

ペンシュミオンの特技は舞踊ぶようだった。

祭りはその日の4日後、グラファーンたちがこのザマビ村を発つ予定の日の前日に開催かいさいされる。

ペンシュミオンとウィスリーは、そろって、グラファーンたちに礼を言った。

「ありがとうございます! グラファーンさん、イオリィさん」
「私たち、かならず優勝ゆうしょうして、結婚の夢をかなえてみせます!」

「がんばって下さいね!」
イオリィはこたえ、

「二人の願いが叶うよう応援おうえんしてます」
グラファーンは微笑ほほえんだ。

翌日よくじつ、グラファーンたち冒険者は、宿に一日中こもって、それぞれ思い思いの事をしていた。

グラファーンは、ゼラにまねかれて彼女の部屋に入った。

彼はゼラに、団の顧問こもんとしての忠言ちゅうげんを求めるため、時間を作ってくれるようたのんでいたのだ。

ゼラの部屋の窓からは、次に向かうルーア人の村、テミ・ドーラのある「氷の山」の雄大ゆうだい景色けしきがよく見える。

いくつかの技術的な事に関する助言をグラファーンにした後、ゼラは、給茶器サモワールを使って、お湯をかし始めた。

「そういえば、今頃いまごろ、あの若者たちは、熱心に芸の練習れんしゅうをしていることでしょうね」

「そうですね」

「さて…」
ゼラは話題を変えた。

「『テミ・ドーラ』とは、ルーア語で『尾根おねの村』という意味です」

そして女魔導士おんなまどうしの彼女は、サモワールの湯でカップにれた茶をグラファーンと飲みながら、告げる。

「次の目的地テミ・ドーラのルーア人には、おそらくルーア語しか通じません。ユニオン・シップの中では、ルーア語は私しか話せません。ご注意下さい」

「分かりました、ゼラ。あなたの生命は、必ずお守りいたします」

グラファーンは応え、二人はカップを卓上たくじょういた。

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