小説『ヴァルキーザ』2章(4)
アルビアスがグラファーンを抱きかかえ、自宅に戻ると、二人の帰りを待ちわびていたマックリュートが戸外に出てきた。そして出会うなり、夫の服に付いた返り血を見て仰天した。
「あなた! どうしたの?」
「マックリュート、じつは…」
アルビアスが手短に事情を話すと、妻はあまりのことに驚き、気を失いそうになった。
「グラファーン! グラファーン!」
マックリュートは息子を強く揺する。
だが息子の意識は戻らない。母は泣き崩れた。
そのとき、戸を乱暴に開け、四人の警吏たちが家に入り込んできた。
「あなた!」マックリュートが叫ぶ。
「アルビアス! キルカを殺害した容疑で逮捕する!」
警吏たちは、アルビアスをがちりと捕らえ、連行していった。
そしてアルビアスは、フォロス族の警吏長ラダロックの前に突き出された。
「アルビアス。君が森林の採り場で魔法使いのキルカを短剣で殺害したのが目撃されている。これは本当のことなのか、答えてほしい」
「本当です」
アルビアスは答えた。
「アルビアス」
ラダロックは思わず、前よりもくだけた口調で話しかけてきた。彼とアルビアスは、互いによく顔を合わせる知り合いだった。
「黄金の森の中では、いかなる流血もあってはならない。アルビアス、このフォロスの掟を君は忘れてしまったのか?」
驚きの表情を浮かべつつも、ラダロックの口調は重々しい。
「ラダロック、すまない。キルカに、息子の命を奪うと言われたので、つい我を忘れてしまったのだ」
「ああ、何ということだ、アルビアス! こんな怖ろしいことは…君の気持ちは分かるが、私は君を庇うことはできない」
「分かっている。私はどんな罰も受ける覚悟でいる」
「族長より、あらためて沙汰があるだろう。アルビアス。それまで共有地にある留置小屋で謹慎したまえ」
アルビアスは再び、警吏たちに連行され、重い足取りでゆっくり行く。
彼の後を、野次馬に来た群衆がしばらくの間、追っていった。
あぁ、呪わしい者よ
あぁ、悲しい者よ
あぁ、可哀想な者よ
集まった民は、アルビアスをとり囲み、口々に彼に言葉を投げかけた。
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