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小説『ヴァルキーザ』4章(4)

その日の深夜、ぞくに荒らされた葡萄亭ぶどうていの店内の片づけが終わると、グラファーンとイオリィ、エルハンストの三人は同じテーブルに着き、一緒に酒を飲んだ。三人はみな、おしだまって飲んでいる。だがエルハンストが、不意にこの沈黙ちんもくに耐えきれなくなった。

エルハンストは、賞金をかせぐためだけでなく、本気でこのカルマンタの町を無法者たちから守りたいと思っていた。それで彼はそのとき同席者たちに、心に秘めていた思いを打ち明けた。

「ゴルクの、あの無法者たちの一団に対抗するには、俺一人の力では無理だ。俺のほかにも仲間が要る。俺に、お前たちの力を貸してくれないか。どうか仲間になってくれ」

「グラファーン、どうする?」
イオリィが若きフォロスにたずねる。

それに答えてグラファーンは、
「僕の答えは決まっている」
そして真向かいにすわる黒髪の大男を見つめ、

「君から一方的に頼まれるまでもないさ、エルハンスト」
グラファーンは野心的やしんてきな微笑みを浮かべた。
「こちらこそ、仲間になってくれと願うよ」

「決まりね!」
イオリィがテーブルを右手でたたく。
「私も入れて」

「おぉ」
エルハンストは歓迎かんげいの反応を示す。
「これで三人組になったな」

「よし」と、グラファーン。
「いいわね」と、イオリィ。

エルハンストは、この場で結成式を行いたいと言った。

「では、わしが証人になろう」

カウンターでその会話を聞いていた亭主ていしゅのジェイクがテーブルに歩み寄り、テーブルをはさんで向かい合って座っているグラファーン、イオリィとエルハンストとの間の位置に立った。

「エルハンスト」
ジェイクが大男の戦士をにらむ。
「お前が発起人ほっきにんとなった、この連盟れんめいを何と名付ける?」

「前から考えていた名前がある」
戦士は答えた。
「結束の船(ユニオン・シップ)」

「悪くないわね」と、イオリィ。
「ユニオン・シップか…でも、どうして船なんだ?」と、グラファーン。
「僕らは、陸の戦隊だろう」

「いや」
エルハンストはそれを抑えるように、
「戦隊じゃない。財宝探索者組合(トレジャーハンターズ・ユニオン)だよ」

「まあ、名前のことはだな…」
エルハンストは少し顔をしかめた。
「俺は昔、船乗りの傭兵ようへいだったんだ。イリスタリアの。そのときのこだわりでな」

「そうか、分かったよ」
グラファーンは快諾かいだくした。
「決まりだ」

「では今、ここでユニオン・シップの結団式をやろう」
エルハンストは意気込んだ。
「君たちと互いに、団結のちかいを交わしたい」

グラファーンとイオリィは承諾しょうだくした。

机の真中にある燭台しょくだいのろうそくが明々とともり、エルハンスト、グラファーン、イオリィの顔を照らし、それぞれの顔を浮かび上がらせる。
証人のジェイクがおごそかに誓いのことばみ上げる。「結束の船ユニオン・シップ」の結成の誓いを。

そして亭主は、羊皮紙ようひしを三枚取り出して、それぞれの紙に、ある同じ簡単な文章を書いた。
それは、組合の結成書だった。
亭主はそれを一枚ずつ三人に配る。

受け取った三人は、各々、契約けいやくのしるしとして、自分の名前を書き、署名サインした。

そしてその三枚に、ジェイクは証人の連署をした。

ユニオン・シップの表象には、三日月のような形の小船に帆柱ほばしらとそれに拡がる帆を図案化したものを採用した。

こうして三通の組合結成書が文書として仕上がったのを確認すると、さらに亭主のジェイクは各人のためにその控えを一通ずつ作り、それにも各人の署名をさせ、自らも連署した。そうして作った控えは、ジェイクがまとめて円筒えんとうに入れ、封をして、葡萄亭に保管することになった。

こうして契約が成立し、そして各人が自分の結成書を背負袋にしまい込んだのを見届けると、亭主は結成式の終了を告げた。

散会した後、当事者たちは皆、席を立ち、テーブルを離れて、それぞれ休みについた。
翌日、三人は葡萄亭の皆に挨拶あいさつをして宿屋を出て、カルマンタの町から発った。

三人は旅をしながら団歌を作り、皆で歌いながら道を歩いた。

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