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小説『ヴァルキーザ』4章(2)

カルマンタの町が見えてきた。グラファーンとイオリィは、町の中へ入ってゆく。グラファーンはイオリィに金を融通ゆうづうし、町の入口付近の店で一応充分な旅装をととのえさせた。そして二人は町の様子を調べるために中を歩いてゆく。

街頭には、色んな場所にり紙がしてあった。おたずね者の手配書のようだ。山賊さんぞく人相にんそうを描いた似顔絵と、名前、そして 懸賞金けんしょうきんの額と、ほかに数行の文が書かれている。名前は「ゴルク」とある。

グラファーンたちは町のことについて知るために、話を聞きに、イリスタリアから派遣された警備兵けいびへいめ所を訪問した。警備兵たちは、やって来た見れない他所者よそもののフォロスたちを丁寧ていねいだが事務的にあしらった。ようするにていよく追い返されてしまったグラファーンたちは、仕方なく、町の中の気になる場所を散歩した。

歩いているうちに辿たどり着いた町の片隅のせまい場所は、賭場とばとなっており、堕落だらくしたごろつき者どもが、たむろしていた。グラファーンたちは、彼らの方へ近寄っていく。カード博打ばくちをやっている者たちや、たばこをいでいる者たち、何か品物を交換している者たちなど、様々な平原人スークがいる。グラファーンの姿を見ると、皆それぞれ、にらんできたり、地面にツバを吐いたり、あざけりの表情を浮かべてきたり、無視してしゃべり続けたりした。

グラファーンは、ごろつきのうち、一人離れて立っている長髪の若い男に話しかけた。

「何だ、アンタ? 見かけねぇ顔だな…おい、てめぇ、森棲人フォロスじゃねぇか!」
「そうだ。よく知ってるな」
グラファーンはその男と会話を続けようと試みた。幸運にも、それはうまくいった。

「聞かせてほしい話がある」
「何だよ」
男はなおも、不貞腐ふてくされた態度だ。そこで、グラファーンは、
「タダで、とは言わない」

グラファーンは財布さいふを出し、銅貨を五枚、男に差し出す。男ははじめ、怪しむような目つきでグラファーンを見ていたが、
「いいだろう、よこしな」
グラファーンは、男に金を渡した。

「で、何が聞きたいんだ?」
「ゴルクのことだ」
それを聞いて、男は大げさな身ぶりで驚いた。
グラファーンはそれを抑えるように、さらに二枚銅貨を足した。
「仕方ねぇな…」
グラファーンが本物の命知らずの冒険者だと分かったのだろう、金を受け取った男は毒気どくけが抜け、しぶしぶ話し始めた。

「この町のお尋ね者さ。町の警備当局が血眼ちまなこになって探している、山賊の首領しゅりょうだ。ヤツの首には懸賞金がかかってる。 報酬ほうしゅうは500テール(銅貨5万枚相当額)だ。ヤツは南の森の奥深くの隠れ家にひそんでるらしい。その隠れ家は『無法者の洞窟どうくつ』って呼ばれてる。ゴルクは背むしの小男だが、短剣の名手だ。正直言って、ヤツは強い。左のほお傷痕きずあとがある。このカルマンタの町の人間がつけたのさ。ゴルクはそのうらみを晴らそうとしてるんだろうな。時々、町をおそいに来るんだ。」
「傷をつけたのは、誰なんだ?」
「そいつは、『堅実に』金をかせいでいる、腕っぷしの強い男さ」
「で、そいつの名は?」
「ああ…そう、たしか、エルハンストだ」
男は話し続ける。

「エルハンストは、仲間をつのってる。そうだ、あとゴルクには、ギトっていう腹心ふくしんがいる。こいつも強いそうだ。ほかにも、ヤツの部下に透明人間(インビジブル・ストーカー)がいる。透明人間は、人の目には見えねぇ化物だ。そいつと戦って生きびた奴はいねぇ…」

そして男はグラファーンをじろっと見て、
「ところでアンタ、泊まるとこあんのか?」
「いや、探してるところさ」
「じゃ、葡萄亭ぶどうていに行くといい」
「ブドウ亭?」
「ああ。町の真ん中あたりにある、二階建ての古い宿屋だ。冒険者向けのな。看板が出てるから、分かるぜ」
「ありがとう」
「あばよ」
今、得た金で酒場に飲みに行くつもりなのだろう、男はその場を去っていった。

グラファーンとイオリィもその場を去り、町の中央にあるという、その葡萄亭という宿屋を探しに行った。人に道を聞きながら、やがて二人は目当ての宿屋に着いた。 

グラファーンたちは宿屋に入り、入口で亭主ていしゅのいるカウンターに向かって話しかけた。亭主は中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの男だが、筋肉質で、短髪で、いかつい顔をしていた。亭主は無愛想ぶあいそうに応える。
「何だ、若いの。ここはアンタら向けの宿じゃねぇ」
「僕らは冒険者だ。この格好かっこうを見れば、分かるだろ」
亭主は、グラファーンとイオリィを素早く観察する。幸運にも、グラファーンとイオリィは、亭主に冒険者と認められ、葡萄亭に泊まることができた。


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