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小説『ヴァルキーザ』10章(1)

10. エルゴッド



レッド親衛隊長しんえいたいちょう引率いんそつされ、イリスタリアの都を発ったユニオン・シップは、エルゴッド城に向かい北へと道を進んだ。

隊長の説明によると、これから行くエルゴッドは、イリスタリアの誇る難攻不落なんこうふらくの巨大な城塞じょうさいなのだそうだ。そしてエルゴッドは国の北限ほくげんに位置して国境を守っており、オーガー(食人鬼)やワグル(妖鬼)をはじめ、イリスタリアの領域外の者たちが国へ侵入するのを防いでいるのだという。

レッド隊長はまた、エルゴッドは別名「三侯城塞さんこうじょうさい」とも言われており、それはイリスタリア国王に忠実な三人のこうすなわち大貴族が、城塞のリーダーとなっていることに由来しているとも語った。

道を行きながら隊長の語ることを聞いているうちに、周囲への警戒けいかいゆるんでいた。

突然、ユニオン・シップたちはかたわら灌木かんぼくの木立から、キャリオン・クローラーという、大人の牛よりも大きな体の巨大な芋虫いもむしのような怪物の奇襲攻撃きしゅうこうげきを受けた。

現れたのは一頭で、先頭にいたラフィアが気づいて皆にさけび知らせる。しかし怪物は突進してきて、冒険者たちは散開してかわすのがやっとだった。

後続のレッド隊長が剣をさやから抜きかけると、アム=ガルンはそれをさえぎるように手を差し出した。

貴方あなたの手をわずらわせるまでもありません」
アム=ガルンは落ち着いていた。

「グラファーンたちに任せましょう」

グラファーンたちは直ちに応じるかのように、迎撃げいげきのために武器をかまえ、キャリオン・クローラーにりかかってゆく。

「そうだな」
レッド隊長も、冷静に状況を見ていた。

敵の怪物は、見かけほど強くはない。

グラファーン、イオリィ、エルハンストが数太刀すうたち浴びせると、その巨大な怪物は苦痛に身をよじり、震えながらきびすを返して逃げていった。

グラファーンたちは、追撃はしなかった。

数日後、日の出の時に冒険者たちが先へと道を歩いてゆくと、帝王山という高山を背景に高くそびえ立つ、巨大な砦のような城が見えてきた。周囲の天然の地形を利用しつつ敵の侵入をふさぐような位置に建てられたその城は、荘厳そうごんなたたずまいで、とても堅固けんごに見える。

「あれが、エルゴッド城だ」
レッド隊長が皆に知らせる。

エルゴッドに入城したレッド親衛隊長とユニオン・シップは、その日のうちに、城の長である三人の侯と面会した。

三人の侯は、城内の応接室でレッド親衛隊長に敬礼し、レッドも三侯に挨拶あいさつを返した。

それから三人の侯は横一列に立ち並び、ユニオン・シップの一行と対面し、彼らに歓迎の挨拶を述べると、それぞれ自己紹介した。

中央の人物は、ダイエス。向かって左の人物は、ライザー。右の人物は、ドライヤーと名乗る。

ユニオン・シップの各人も、三侯に挨拶を返し、それぞれ彼らに自己紹介をした。

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