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小説『ヴァルキーザ』2章(3)

その日、アルビアスは赤子のグラファーンを背負い、いつものように大イチョウカルシュニールの木の実をるために弓矢を手に取り、出かけていった。

いつもと違う採り場へ行くと、彼は魔女のキルカに出くわした。
「やあ、キルカ」
アルビアスは、陽気に声をかける。
「久しぶりじゃないか、元気にしてたかい?」「おはよう、アルビアス」魔女の老婆は挨拶あいさつを返し、近寄ってきた。

「私は元気さ。おや、今日はお子さんを連れておいでかね」
「ああ。妻が熱を出してしまってね。今日は私が世話をしなけりゃならないんだ」
「可愛い子じゃないか。お前さんに似ているよ」キルカはにやっと笑う。
「ありがとう」アルビアスは、キルカもまた機嫌がいいのだろうと思い、彼女に頼み事をしようと思いついた。

「キルカ、頼みがあるんだが、私が木の実採りをする間、息子を預かってもらえないだろうか」
「まあ…! いいのかい? 私なんかに」
キルカは驚いたが、
「もちろん構わないよ、アルビアス」
「ありがとう、すぐに帰ってくるから」そう言うとアルビアスは彼女に赤子を渡し、そして木々の間に分け入った。

少しばかりの時間で彼は、木の実を4、5個採って戻ってきた。
「やあ、キルカ。すまない、今、戻ってきたよ」
キルカは黙ってうつむき、グラファーンを抱いている。
「キルカ、お礼に実を分けてあげよう」

そのときグラファーンが泣いた。普段とは様子の違う泣き方だ。魔女キルカは、かすかな笑みとともに、子を差し出した。赤子を受け取ったアルビアスは、大きな声で泣いているわが子の姿を見て、ぎょっとした。赤子は血色けっしょくが悪くなり、体は冷たくなっている。
「キルカ、これは!」

魔女はゆっくりと手鏡をローブのそでの中から取り出し、アルビアスに見せる。
「そうさ、魔法だよ」
キルカは蛇のような眼で赤子をにらむ。

「お前の子は恵まれた出生を贈られた。私とは正反対にな。だから私はそれをねたみ、この子に死を贈ってやろう」
「何⁉︎」
「お前たち村の者は、今まで、私が何もしていないのに、私をさげすみ、害をした。お前たちは私をいじめぬき、私がこのようにわが身を守るため魔法を覚えざるを得ないところにまで追い込んだ。だから私は、復讐ふくしゅうとして、この子に死の呪いをかけた。お前の子は大人になる前に世を去る運命となろう」

「キルカ…おのれ!」
アルビアスは我を忘れ、剣を抜き、老婆を打ちえた。
その一撃で彼女はあっけなく死んでしまった。

父アルビアスは道に倒れ伏す息子に駆け寄り、必死で介抱かいほうする。
「グラファーン! グラファーン!」
赤子は青ざめた顔で身じろぎもせず、声ひとつ出さない。父は子を抱え、急ぎ家に向かい走った。


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