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小説『ヴァルキーザ』5章(3)


よく見ると、右の方へびる通路は、すぐに、閉まった大扉おおとびらのあるかべに突き当たり行き止まりとなっている。左の方の通路は、さえぎるものもなくずっと先へ延びていて、奥はランタンの灯りがおよばない暗がりで、様子は分からない。

グラファーンたちは手短に話し合って、右の方へ進むことにした。大扉の前に立つと、力持ちのエルハンストがそれを開けにかかった。

扉はかぎがかかっておらず、すっと開いた。中は部屋のようだ。エルハンストは不注意で、入るさいに先の様子をよく確かめるのを忘れていた。彼はそのまま足をみ入れてしまった。突然、床の方から何かがね上がってきてエルハンストの足に当たり、彼は転んで倒れた。

「うおっ!」

「エルハンスト! 大丈夫か」

エルハンストは足に軽いけがをした。
彼の足に当たったのは、侵入者しんにゅうしゃに打撃を与えるために床に仕掛けられていた、トゲのついた小型の板だった。

「大丈夫だ! ちくしょう」

「これは…」

わなだ」
エルハンストはぶつぶつ言いながら立ち上がる。大したきずではないらしい。

グラファーンたちは、その部屋の中に他に何も無いのを確かめると、部屋を出て通路を引き返した。
丁字ていじ交差点まで戻ると、冒険者たち三人は、その三叉路さんさろを、今度は反対側の方の、暗がりで先が見えない通路を進んだ。

足元を注意しつつ歩いてゆくと、ランプの光の先に、左側の壁にやはり大きな扉があり、その扉を二人の山賊が衛士えいしのように守っている姿が浮かび上がる。

彼らは、グラファーンたちを見かけると、短剣をかまえておそいかかってきた。グラファーンたちはその二人を難なく退けた。

そしてグラファーンは扉に向かい、
「開けてみるか、エルハンスト」

「よせよ、さっきのでりてるんだ」
エルハンストは顔をしかめる。

「お願い、エルハンスト」
イオリィが頼む。

「しょうがねぇな」
エルハンストは扉を開けにかかった。
今度は、慎重しんちょうに。

しかし扉は鍵がかかっているらしく、今度は開かない。倒した衛士たちの持ち物を調べてみたが、鍵らしきものは見つからなかった。
仕方なく、あきらめて、グラファーンたちは先へと進んだ。

ほどなくして、正面が大きな開口部かいこうぶとなっている場所に出た。その先は、たいまつのあかりのついた大部屋らしい。
その灯りが、少し通路までれてきている。
中に、人々のいる気配がする。

三人は、その大部屋へ飛び込んだ。中には、合わせて五人の人影ひとかげが見える。みな横一列に並んでいる。ゴルクたち山賊だ!

壁にかけられたたいまつの灯りが、五人の賊たちの残忍ざんにんな笑みを浮かび上がらせる。グラファーンは恐怖におののいた。

中央の男ゴルクは、侵入者らを見て、
れ!」と叫ぶ。
他の手下らしき四人が奇声きせいを上げながら、短剣で打ちかかってきた。
たちまち大部屋の中は、敵味方てきみかたの八人が入り乱れる乱闘状態らんとうじょうたいになった。

はげしいり合いの末、腹心ふくしんの部下ギトを含むゴルクの手下四人は倒され、ゴルクとグラファーンの一騎打いっきうちの形となったなった。

傷を負いながらも、グラファーンは着実にゴルクに短剣で打撃を与えてゆき、ついにゴルクを倒した。

ゴルクは、
「ぐふっ…も…もはやこれまでか。相棒バディよ、わがかたきを打ってくれ!」
うめき、
絶命ぜつめいのまぎわに隠し部屋の入口を開けた。


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