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小説『ヴァルキーザ』 11章(5)
次に入った小部屋の主は、ソボルという名の、小さな子供のワグル(妖鬼と呼ばれる精霊)だった。ソボルは気さくな性格だった。
「ボクね、パパとママの帰るのを待っているんだ」
ソボルは言う。
イオリィが膝を屈めてソボルに訊く。
「パパとママはいつ帰ってくるの?」
「わかんない。いつも遅いんだ。それに、いつも決まった時間じゃないし」
「そう…」
イオリィたち冒険者は、子供には悪い気が起きなかったので、そのままさよならの挨拶をして、ソボルと別れようとした。
「待って!」
ソボルは言った。
「ボク、退屈なんだ。話し相手になってよ」
そこでイオリィが話し相手になって、ワグルの子供のおもりをすることになった。
話してみると、ソボルはなかなかの話し手で、子供にしては世間のことをよく知っていた。
イオリィはすっかり、ソボルのことが気に入った。
「ソボルのパパとママはどこにいるの?」
「1階のほうにいるよ」
「この上かしら?」
「うん。工事で働いているんだ」
「ソボルは、さみしくないの?」
「大丈夫だよ。パパたち、明日は休みなんだ」
「まあ、良かったわね!」
イオリィは微笑んだ。
「じゃあ、明日は家族で遊べるのね」
「うん。パパはよく、ママにはプレゼントをあげるんだけど、ボクにはなかなかプレゼントを買ってくれないんだ」
「それはきっと、しつけのためよ」
「うん。明日、パパはボクにおもちゃを買ってきてくれるんだって」
「そう? おもちゃを? よかったじゃない」
「うん。そうだよ。だって、ボクだって幸せになりたいんだもの。ほら、よく言うじゃない…」
ソボルはにっと笑った。
「ボクにだって、幸せになる、…そう、ケンリっていうんだ。それがあるんだもの」
その後、ソボルと別れた一団は、また別の部屋で人に会った。今度はボルケックという名のけちんぼうだった。
彼は成り上がりの小金持ちで、今は大きなテーブルについて、そこにうず高く積み上げられた貨幣の枚数を数えていた。
「また勘定が合わん。誰か、くすねていったな…」
ボルケックは気難しい顔でつぶやいた。
今度はラフィアが彼に話しかけたのだが、金にがめつい彼は、少年に対しても警戒を解かない。
ラフィアは金を出して、引き換えに彼から情報を得ようかと考えたが、控えて、団員たちに相談した。
そこで、一団のなかで一番まともそうな外見のアム=ガルンがおもに話をして、彼の人柄が醸し出す魅力のおかげで、ボルケックから、ある情報を引き出すことができた。
それは、カイトハーパーが有している金庫のある場所だ。ボルケックは金庫の管理人だった。その金庫はこの同じ階の一隅の奥まった場所にあり、厳重に施錠されている。
したがって、ボルケックと別れたあとで、その金庫の中の宝物が、ラフィアの「鍵開け」の腕前によって「収得」されたのは、やむを得ない成り行きだった…
まとまった量の金品を手に入れたユニオン・シップの一団は、次に、カイトハーパーのいる地下3階に向かって階段を降りていった。
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