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小説『ヴァルキーザ』5章(1)

5.無法者の洞窟



グラファーンたちは、おたずね者のゴルクどもを討伐とうばつするため葡萄亭ぶどうていを発ち、「無法者むほうもの洞窟どうくつ」へと向かった。

探してみると、たしかに、ジェイクをはじめカルマンタの町の人々から聞き込んだ話を総合そうごうして見当をつけた場所に、洞窟のありそうな森があった。

それはカルマンタからイリスタリアへびる道を数日ほど歩いた後に道を少しはずれ、わきにある沼のふちを通り過ぎてしばらく歩いていった所だった。

見通しの悪い森の木々の中を進んでいく。グラファーンは木のフォノン精霊なので、森にくわしく、中に人の住んでいそうな場所を見出すことができた。グラファーンは木を押し分けるようにして立つ、岩の小山を見つけた。

それは石をんだ造りの墳墓ふんぼのようにも見え、その表の面には、地上に接して開いている、人がやっと二人並んで通れるくらいのはばの穴がある。これは明らかに、その小山が人工の構築物こうちくぶつであることを示していた。

これが、「無法者の洞窟」のようだ。

洞窟とは言えない代物しろものだが、それは長い箱型で、開口部かいこうぶから先はかなり奥まで伸びているらしい。
グラファーンたちはまだ、洞窟には十分に接近していない。
洞窟の中に人がいても気づかれないよう、草むらに隠れ、少し遠くから洞窟の様子をうかがっているだけだ。
グラファーンたちはしかし、もう恐ろしさを感じていた。

遠目には、見張りのような者の姿は、表にはいなかったが、グラファーンは直感で、穴のすぐ入口に人間がひそんでいて、外を監視かんししていると察した。

「グラファーン」
イオリィが思わず声をもらす。
「しっ!」
グラファーンは彼女にすかさず口止めする。
「あの中に、誰かいるな」
エルハンストがひそめた声でグラファーンの耳元にささやく。
「ああ」
グラファーンも、ささやいてこたえる。
「どうする、今、突入するか?」

ちょうどそのとき、一人の男がほら穴の中から出てきた。山賊バンディットだ。

しかしその男は、警戒けいかいする気配もなく、ぶらぶらと歩いている。そして辺りをうろついていたかと思うと、今度はこちらの方へ向けて歩き出した。

「まずいな…」
まかせろ」
グラファーンはそっと他の二人を片手で制し、手早く音を立てずに弓矢を取り出し、矢を弓につがえて、草むらの間から矢を射た。

矢は山賊の胸に命中し、男は大声を立てる間もなく、うっと地に倒れた。

「行こう!」
「よし、突入だ!」
「分かったわ!」
グラファーンたち三人は、洞窟の入口へ駆け込んだ。

入口を通ってすぐ右側に木の扉があり、間髪かんぱつを入れずそれを開けて入ると、そこは小部屋で、警備役をしているらしい山賊が四人いた。
山賊たちは驚いて、すぐに反応できない。

すかさずエルハンストが小さな手斧で賊の一人に打ちかかり、グラファーンも短剣で別の賊を攻撃する。せまい部屋はすぐに、血生臭ちなまぐさ修羅場しゅらばと化したが、不意打ちが功をそうして、四人の賊はすぐに倒された。

そのとき部屋の扉の外で、通路の奥側に向かって利き手に戦鎚せんついを持ち、もう片方の手に灯火のついたランタンをかかげて通路を見張っていたイオリィが、他の二人の仲間に知らせる。

「来るわよ!」
戦慄せんりつして彼女が言う。

ほぼ同時に、誰か別の者たちが、こちらへ駆けてくる足音が聞こえてくる。

イオリィはすぐ、足下の床にランタンを置いて、両手で戦鎚を構え、駆け足の音の主と戦うため、通路の奥の方へ向かっていった。

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