小説『ヴァルキーザ』10章(4)
グラファーンたちユニオン・シップ団は、新たにゼラを六人目の仲間として受け入れた。
彼女は組合としてのユニオン・シップについて興味を持った。とくにその規約についてグラファーンから説明を受けると、彼女は組合のために、それをきちんと文書化してはどうかと提案した。
そこで塔から少し離れた城内の会議室を借りて、グラファーンたちはゼラの助言のもと、互いに平等に話し合った。そして組合の自主性と組合員の自由を担保するための「組合規約」と組合役員の選挙規則を作り、明文化した。
さらに、ユニオン・シップの一団は、財宝探索者としての仕事の、労働条件にかかわる組合の規則を作成することにした。
まず、グラファーンが提起した、フォロスに古くから伝わる労働慣行でユニオン・シップの賛意を得た条項を書き起こした。つまり彼が母マックリュートから教わった、例の、
「各員の一日の労働時間の上限を六時間とし、日出から日没までの時間を越えて労働させない」
というものである。
また、アム=ガルンの提案により、ここに、
「安息日を休日とし、この日は労働してはならない」
の一文がつけ加えられた。
新しい羊皮紙にそれらを記し終えると、グラファーンはその紙を組合の全員に回覧させて全員の同意を得た。全員はその証拠として各々がその紙に署名をした。
このように最初の条項を確認すると、団員(組合員)たちは引き続いて、円卓を囲んで、各自の知恵と経験に基づき互いの意見を出しあって討議を進めた。そして次々と、追加の様々な条項を練り上げていった。
たとえば、
「日没後の見張り番には、女性と子どもは参加させない」
「子どもは酷使してはならない」
「組合員は組合に団結する権利を有する」
「組合は、組合員に危険な作業をさせることを極力回避する」
「組合は、一組合員に対して、必ず、生活に必要な最低限の分け前(賃金)を保障する」
「組合の仕事により怪我をし、また病にかかった一組合員は、組合から医療の手当て、または補償金を得る」
「一組合員は、組合の下で、意に反する苦役に服させられることを強制されない」
「組合員の除名(解雇)は、正当な理由と、その組合員を含む全組合員の同意が無ければ、組合がこれを行なうことはできない」
「この規則に定める労働条件以外の労働条件については、組合は随時組合員と協議し、その向上を図るものとする」
追加された条項は、ゼラの長年にわたる諸分野にわたる学問・研究から導き出された知恵に負うところが大きかった。
そしてこれらをまとめて文書化し、署名して承認したユニオン・シップの団員たちは、あらためて相互の結束を確認した。その後、団員たちはレッド隊長やダイエスたち三人の侯と別れ、防城用の数々の大型弩弓や投石器や長弓兵たちによって守り固められた城塞の大門を出て、国境の外の荒野へ旅立った。
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