青春生き残りゲーム(9)

 3つ離れた弟の運動会が9月4週目の土曜日あり、ウナギ少年は応援にこっそり行っていました。弟は多少無鉄砲なところがあり、兄である少年以上に運動神経や頭の回転が良く、外面も良いので、どんな相手でも好かれている印象がありました。俗に言う陽キャの部類でした。

 当時の彼らは、最高に仲が良く、共に両親の肉体言語を聴いて育った仲でした。両親に対する愚痴をこぼしあったり、対戦ゲームで競いあったり、近くのお寺でサッカーをしたりしていました。

 そんな弟の小学校最後の運動会。当然、見に行きました。しかし、当時の少年は受験生という立場です。親に見つかれば、家に帰ったあとでグダグダと言われることは間違いありません。少年は、「駅前の図書館へ行く」と嘘を吐き、小学校へ出かけたのです。

 雲一つなく清々しいほど青い秋晴れの下、弟の運動会は閉会式を迎えました。少年は親にバレないようにこっそりと、校庭に置いた自転車に乗って校門を後にしようとしました。そのときです。

 「弟?」

 どこかで聞き覚えのある声がしたのです。声のした方へ振り向くと、あの転校生が立っていたのです。

 少年は、女の子に不意に話しかけられたため、低い声で「うん。」と返すことで精一杯でした。それが、あまり話したことのない子ならなおさらです。

 「私も弟の運動会なんだ。」

 その転校生は世間話のつもりで言ったのかもしれません。しかし、コミュニケーション力に乏しく、かつ、女性恐怖症を拭い切れていないウナギ少年にとっては、会話を続けるスキルやMP(Mental Point:精神力)がありません。そして、今まで解いてきたどんな問題よりも難しいものだったのです。

 少年は、「ふーん...そうなんだね!じゃあね!」とだけ残して、そそくさと立ち去りました。

 あの時どう返せば良かったのだろうか?変なやつだと思われなかっただろうか?多分、思われただろうけど...

 少年は突然やってきた後悔を払い除けながら、全力で風を切って家に帰ったのです。



今回はここまでです。

読んでいただきありがとうございました。

 

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