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続・語ることの欲望について

前哨戦

人と会話をする時、
自分は基本的に「聞き役」にまわる。
というか、"まわらされる"。

会話はターン制だとばかり思っていたが
どうもそうではないらしい。

アプローチ回数が多く、パワーが強い方が
次第に相手をコーナーに追い詰めていく
ボクシングみたいなものなんだなと
勝手に納得している。

それにしても、会話における私は
あまりにも防戦一方だと思う。
ずっとスウェーで避けている。
少しはこちらもパンチを出さないと
オーディエンスも退屈してしまう
(誰が観ているというのだ…)。

おっと、突然の"自分語り"を
してしまってすまない。

こんな経緯で、
私は「語る」ことに対して過敏であり、
これまで考える機会がしばしばあった。

大学時代の卒業論文でも
このnoteのタイトルである
「語ることの欲望」という題で執筆を考えたことがあったし、実際に数万字書いたことがある。

なぜ過去形かというと、
構想を白紙に戻して別のテーマで
考え直すことを余儀なくされたからだ。

そんなわけで、
このnoteはいわゆる雪辱戦でもある。

雪辱戦

前半戦

さて、本戦開始。

そもそも「語る」と一口に言っているが
これはどういうことだろうか。

「話す」や「喋る」とどう違うのか。

一般的な会話をベースに考えると、
「語る」という言葉はやや否定的に使われているのではないか。

例えば、自分が熱中しているものについて
一所懸命に説いている人間に向かって
「語ってるね〜」など言う人を見たことが
一度はあるだろう(もしかしたら、あなたがその声掛けをしたこともあるかもしれない?)。

常用される「語る」のニュアンスを整理すると
自分の考えを系統立てて話す
とすることができる。

※余談だが、この「語ってるね〜」という
 冷笑的な態度は極めて悪質である。
 自分自身が語れないからといって
 他人の足まで引っ張る大義はどこにもない。
 こういう輩が人間の進歩を止める。

閑話休題。
議論を展開するために
ここでは「語る」ということを
こう定義してみよう。

自らの体験や他人から聞いた出来事を
整理して他者に伝えること

幾許か抽象的かもしれないが、
許していただきたい。

先の一般的な例に立ち戻ってみても
この定義は適用できるかと思う。
上記定義から「伝達する」というニュアンスのみ抽出したのが先の例である。

哲学の分野において「語る」行為は「歴史」と抱き合わせにされることがしばしばだ。

語源とその作用が適当であるからだ。

「語る」の語源は「象る(カタドル)」とされる。
何を象るのかと言うと「経験」であると
考えるのが適当であろう。

我々は「語る」行為を通して
他人との共通言語のもとで個々人の経験を象り、
それを共同化している。

これを複数化してみると
「歴史」というものにつながっていく。
つまり、「語る」という記録行為により
実際に起きた出来事が人間の時間軸に配置され、
それらが連鎖的に伝承されていくのである。

ここに、歴史/過去の改変可能性が介在する。
記録係が人間である以上、そこには忘却もあれば破棄もあり、抹消もあるということだ。

後半戦

語ることの作用はよく分かったので
そもそも、なぜ語るのかを考えてみよう。

私は、「そうしないと人間は耐えることができない」と個人的に回答する。

語ることで何に耐えるのか。

思考・行為の保存による
「忘却」への耐久である。

「私(我々)はこういうことを考えた、
 こんなことをした」
これらを遺す行為が「語り」である。

我々は、自分たちで持ち込んだ時間軸に
自分たちの存在を刻み込むために語る。

経験というものが時間に支配されている以上、
それらを時系列順に整序する「語る」という
行為なしでは、経験というものはあり得ない。

野家啓一はこんなことを言っている。

人間は「物語る動物」あるいは
「物語る欲望に取り憑かれた存在」である。

野家啓一『物語の哲学』

まさしく。
これに尽きる。

人間は、物を語り続け、自分たちの営為を証明し続けることに駆り立てられた存在である。

個人間で会話しているときも
同様に、聞き手に向かって自分のことを刻み込んでいるのだろう。

そうしてカタルシス(浄化)作用を得ているのだと思う。

感想戦

……しかし、面白いのは、
「語る」ことについて展開することが頓挫した
私が最終的に卒業論文で持ち出したテーマは
「書くこと」についてであったことだ。

私自身、形式こそ違えど
カタルシスの作用を求めているわけだ。

いまこのようにして
書くという語る行為により
私の方から一方的な垂れ流しの作業が続いている。

そのことに対する責任というものも、
忘れてはならないのだと日々自戒している。

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