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ドイツの失敗は再エネ推進なのか?より構造的なものなのか?


ドイツの失敗はエネルギー転換そのものなのか?

ドイツのエネルギー政策は現在非常に難しい問題に直面しています。問題は2つに分けられます。

1.ガス価格が高騰している
2.ガスが十分に調達できないかもしれない

ドイツがこうした自体に陥った理由については、色々な仮説があります。その中でも、「ドイツは不安定な再エネを増やしたためにバックアップとしてガス火力が必要になり、ロシアからのガス輸入に依存する構造を作ってしまった。再エネを推進したことは間違いである」という仮説が支持されています。

しかし、ドイツが推進してきたエネルギー転換は、現在のエネルギー危機の主要因である、という仮説以外にも、エネルギー転換をきちんとやらずに安価なガスに頼ったことが危機の原因であるという仮説もあります。

変動再エネと柔軟性の課題

再エネ、中でも太陽光と風力が成長すると再エネの変動に対応するために柔軟性の高い電源が必要となり、その大部分を柔軟性の高いガス火力が担うことになります。
しかし、電力供給のためにガス火力の容量が必要であることと、最終エネルギーにおける輸入化石燃料の比率が高いことは、同義ではありません

再エネ増強を強行したことがドイツの今のエネルギー危機の原因だという説は完全に否定はできないものの、これだけでは説明として不十分です。

ドイツの発電部門におけるガス消費は右肩上がりに増えているわけではなく、大量にガスを消費している部門は電力ではありません。電力と最終エネルギー消費は分けて考えるべきです。

問題の本質は1次エネルギー/最終エネルギー消費

ドイツの問題は電力における再エネ比率が高いことよりも、最終エネルギー消費に占める化石燃料の割合がとても高いことです。

ドイツのグロスの最終エネルギー消費自給率は29%、言い換えるとエネルギーの71%を輸入していることになります。
石油は98%、石炭は100%、天然ガスは95%が輸入です(原子力の燃料であるウランもドイツは輸入率100%と表示することが多いです)。

他方で、ロシアはガス、石油、石炭のすべてをEUに輸出しています。そのため、ドイツはロシア産ガスへの依存から脱却するだけでなく、すべてのロシア産化石燃料輸入を止めることが必要だと議論されています。

目下の問題である天然ガスの輸入削減のため、需要削減と調達先の多様化を進める必要があります。

ただ、ドイツがさらに急速に再エネ転換を進めることが、ロシアガス依存からの脱却の課題になるかどうかは慎重に見極めるべきだと思います。

再エネとガスの関係

容量kWと発電量kWhは別ものと考える

変動電源である太陽光や風力が増えると、これらの発電量が少ない時間帯に穴埋めをするための柔軟性電源が必要になります。ドイツであれば、天然ガス、そしてバイオマス、揚水、水力などが利用可能です。
つまり太陽光と風力以外の電源が重要なのですが、柔軟性電源が必要という時は容量kWと発電量kWhをわけて考える必要があります。

柔軟性を考える際にはkWとkWhは全くの別物です。それらを分けることでドイツの再エネ推進が抱える問題の別の側面が見えてきます。

ドイツに必要な柔軟性とガス

以下に2つのグラフを示します。

上のグラフ:統計が手に入る1995年から2019年までのドイツの系統ロスなどを含むグロスの電力消費に占める原子力、石炭・褐炭、天然ガス、再エネの推移
下のグラフ:ガスの発電量(kWh)を取り出したグラフ

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ドイツ国内の電源構成(抜粋)
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ガス発電量の推移

この2つの図を見ると、ガス発電の大きな伸びは2007年だったことがわかります。その後はリーマンショックや石炭の価格低迷などがあってガス発電量は大きく落ち込み、2007年頃の水準に戻ったのは2016年です。

そこで、この期間を前半と後半に分け、1995年から2007年と2008年から2019年までの天然ガスと再エネの発電量、天然ガスの発電量と粗電力消費についてエクセルで相関係数を求めました。

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天然ガス発電量と再エネ発電量、粗電力消費の相関

2008年以降は天然ガスの変動は再エネ発電量ともグロス電力消費ともほぼ無関係となっています。

ただし、2007年の再エネ比率(16%)であれば、技術的には柔軟性電源はそこまで必要ありません。2007年までの天然ガスと再エネの発電量の増加については、再エネが成長することでガス火力の発電量が増えたと言い切るのは難しく、相関があるという表現に留めるのが良いだろうと個人的には思います。

1次エネルギーに占めるガスと再エネ

ここまでは電気の話でしたが、今度は1次エネルギー消費における天然ガスと再エネの関係も示しておきます。
1次エネルギーでみると天然ガス消費は2000年以降はおおむね一定で推移し、再エネは2005年頃から伸びていることがわかります。

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このグラフには書かれていませんが、原発が1次エネルギーに占める割合が最も高いのは2000年の12.5%で、2019年は5.6%で、過去20年で7%ほど減りました。原発はドイツではほぼ電力としてしか使われていません。そして原発の発電量の減少分は再エネが代替してきました。

1次エネルギーで見れば、ドイツの天然ガス消費の増加は2000年代前半までのエネルギー政策によるところが大きく、2005年以降に大きく伸びた再エネとの関係は薄いといえると思います。

ついでに欧州主要国と日本のガス消費量の推移ですが、やはりドイツがEUで一番ガスを使っています。

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ドイツの電力政策の将来

もちろん、再エネは完璧な電源ではなく、風力と太陽光の発電量は天候しだいで変動します。

太陽光と風力の発電量をあわせて定格出力の10%を下回る時間帯をドイツ語でDunkelflaute(ドゥンケルフローテ)と言いますが、経験上、48時間以上続くケースが年に2回、2週間程度続くことが2年に1回程度発生します。そのため、太陽光と風力の変動に対応できる電源を残しておくことは必要です。

しかし柔軟性の低い石炭と原発ではこの変動を吸収する役割を果たすには不完全ですし、何より新設は大きなコストが掛かります。そのため、ドイツは石炭火力と原発は新設しない方向です。

ドイツは柔軟性の主力をガス火力と見ており、2050年頃にはガス火力を合計で50~80GW程度必要とみています(ピーク電力需要は80GW程度)。21年末時点でガスの設備容量が31GW程度なので、脱石炭達成までに20~50GW以上の新設が必要です。補足すると、ガス火力の新設は分散型のガスコジェネで将来的に水素に転換できるものが理想です。

石炭と原発の発電量であるkWhを代替するだけなら変動再エネだけでも可能です。ドイツの2040年代のビジョンは、脱原発と脱石炭で減っていくkWhを再エネで補いつつ、年間に少しだけ発生するドゥンケルフローテのためにガス火力のkWを確保することです。これはガスの発電量(kWh)はさほど増やさなくてもなんとかなることを意味します。

しかし、グラフを見ると2010年代前半ドイツはガス火力の発電量が落ち込んでいます。このとき、実は発電量が落ち込んだだけでなく、将来必要となるガス火力の容量が増えないという問題が起こっていました。つまり、ガス火力の新設が停滞したのです。

ドイツがタクソノミーにガス火力をいれたい理由はkWの確保です。

脱原発と脱石炭で今後発電容量が不足することは避けられません。そのため、タクソノミーでガス火力新設を認めさせることで、ガス火力の新設に補助金をいれる必要があります。

電力から1次エネルギーへ視野を広げる

再エネを増やす→バックアップ電源としてのガス需要が増える→ロシア産ガスへの依存が悪化する

という仮説は、そもそもドイツがなぜ大量にガスを消費するのか?という観点を十分には説明できません。ドイツで大量にガスを消費してきたのは電力ではないからです。

つまり、ガスはどこで消費され、その消費予測はどうなっているかを見ないと、ドイツは再エネ推進が原因でエネルギー危機に陥ったのかについて、十分に検討したとは言えません。鍵は1次エネルギー、なかでも暖房です。

ガス需要の予測

ドイツが今後脱石炭を進めれば、減っていくうエネルギーを補うエネルギー源が必要になります。これは、電力だけでなく熱や交通を含むエネルギーすべてについて言えることです。ドイツで天然ガスの重要性が高まるのは確実だと思います。

しかし、ガスが重要になることと、ガスの消費量が増えることは同義なのでしょうか?

この疑問に答える手がかりとして、ドイツのガス需要に関する予測調査を見ていきましょう。ドイツの将来のガス需要の伸びについてはいくつかの予測調査がありますが、その中でドイツのガス需要が大きく伸びるとしているのは、Exxon Mobilの予測です。

Exxon Mobilの評価

2018年のレポートではガス需要が2040年には338万PGまで伸びると予測しています。これまでの最大が2010年の317万PJだったので、20万PJの伸びです。

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PEVは1次エネルギー消費を意味します。次に、Exxon Mobilのシナリオでの再エネの成長を示します。

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1次エネルギー消費は30%削減する一方で、1次エネルギーに占めるガスの比率は今の25%から34%まで増えると予測しています。

次に電力ミックスを見てみると、天然ガスは今後20年間で53万PJから113万PJに成長します。

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このシナリオでの再エネ電力の成長です。

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個人的には、2020年以降の再エネ電力の成長予測が低すぎると思います。メルケル政権の政策は再エネに対して後ろ向きだったので、そのトレンドが続くと仮定したのだと思います。

再エネがExxon Mobilの予測以上に成長した場合、kWhは再エネがまかなうことができるので、天然ガスの発電量はExxon Mobilの予測をずっと下回ることになります。

他方で、ドイツのガス消費で大きなシェアを占めている暖房では、逆にガス消費は減っていきます。ドイツ国内のエネルギー消費合計が30%減るとなっているのも、この建物での暖房需要の低下が大きく効いています。これは、省エネ建築が普及することで、暖房需要が減っていくためです。

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最後にガスの用途別の消費量を示したグラフです。電力と産業用途が占める割合が大きく暖房需要減を相殺してしまっています。

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これは、2010年代後半までのように再エネが成長しないまま脱石炭を実行するとどうなるかを示したシナリオと言えます。また、天然ガスには水素などが含まれていますが、集計は分けていないようです。

その他の評価

Exxon Mobil以外にも、政府から2018年にガス需要予測のメタ分析が公開されています。これは、様々な機関による2030年のガス需要予測を分析したペーパーです。

あらかじめ言っておくと、メタ分析の問いは、「2050年の温室効果ガス排出80%、95%を達成するためにエネルギー転換に取り組んでいけば、ガス需要はどうなるのか?」というものでした。ここでは2030年と2050年の予測が示されていますが、2030年でも2018年のガス消費量を上回ることはないという結果になっています。

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次に、政府の依頼でPrognsが行った研究の結果(2020年)です。上のメタ分析では使われていない予測です。

こちらの予測も1次エネルギーに占めるガス需要が増えるのは2025年までで、その後は減り始めます。それでも2025年のガス需要は2000年に次いで2番目に多くなる程度で、将来消費量が今より増え続けることはないようです。

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同調査の最終エネルギー消費に占めるガスの消費量でみた場合は、2025年のガス消費は過去を上回ることはありません。

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電力における電源ごとの発電量の推移です。

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ガスは2025年に86TWhとなり、2020年の71TWhを上回り、2010年の87TWhと同水準になります。その後は減りますが、2038年の脱石炭を受けて2040年にはガスが91TWhで過去最高になります。しかし、2040年のガス火力には水素ガスも含まれるため、すべてが化石燃料由来ではありません。

もう1つ、ケルンエネルギー経済研究所の調査(2017年)です。
上のグラフ:最終エネルギー消費
下のグラフ:電源ミックス

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このシナリオでもガス消費量は全体では今後減っていくことが示されています。

PrognosとEWIは政府目標である、2050年のCO2排出80~95%削減(90年比)をベースとして作成されたものなので、これがすなわち将来予測となるわけではないですが、どちらのシナリオ分析も、ガス需要は今後減っていくことが示されており、過去の実績も再エネの増加にともなってガスの消費量が増えるとは限らないことを示しています。

もちろんExxon Mobileは間違いということではありません。2010年後半の再エネと省エネの停滞を前提とした現実的な試算と見ることも可能です。

ドイツのガス輸出入

これまでドイツ国内の話をしてきましたが、ドイツにとってガスは国内消費だけでなく、輸出入も関わってきます。

ドイツの2000~2018年のガスの輸入量を国別に並べたものです。ちなみにNordstream1の開通が2011年です。

赤がロシアからの輸入で2014年ころから増えています。また2014年から2018年にガス輸入量が31%増えたとも書かれています。ロシアからの輸入だけでなく、ドイツのガス輸入や輸出量も増えてきています。

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ドイツのガスの輸入量の推移を1975~2018年まで示したものです。

直近10年の推移です。

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ドイツは(2020年)で1555億m3、世界の輸出量の10.8%を占める最大の輸入国です。ちなみに日本は1073億m3で第3位だそうです。

すでに示した通り、ドイツ国内の天然ガス消費量は長期間ほぼ同じです。

そのため、ドイツの天然ガス輸入量増加は近年のガスの備蓄の推進と輸入増を進めていることが関係している可能性は高いです。

さらに、EUのガス消費に占めるドイツの割合の推移を示しておきます。EUのガス消費に占めるドイツの割合は1970年代からあまり変わらず、20-25%前後をウロウロしています。

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これまでのデータからグラフから(多分)言えること

流石に疲れたのと無料データでは限界が出てきました。以下では、私の考えを述べていきます。(数字のエビデンスだけでいいという人はここからは読まなくても大丈夫です)

まず、ドイツのエネルギーがロシアに依存している点は大きな問題だ、NS2は自体を悪化させるだろう、というのは正しいと思います。

事実、ドイツはロシアのガスに依存しており、(再エネ増強が進まない状況が続けば)NS2の開通で石炭からガスへ移行が進展し、ロシア以外からのガス輸入が減り、ロシア依存度がさらに上る可能性がありました。

他方で、ドイツのエネルギー政策のシナリオではドイツのガス消費量は長期的に増える見込みは高くはありませんでした。

仮に今後ロシアからのガス輸入が増加していたとすれば、より多くのガスがEU加盟国に転売されることになっていたでしょう。ドイツのやり方はEU全体のロシア依存を高める可能性があったと思います(最終的には各国の意思決定の問題だとも思いますが)。

ドイツはどこで何を失敗したのか?

今回のことで、ドイツの失敗を批判する声はあちこちにあります。そして、失敗したという指摘は当たっていると思います。

では、ドイツはどこで失敗したのか?

ドイツの最初の失敗は70年代のオイルショックで暖房を石油からガスに切り替えてきたことだ言えます。当時の判断として合理的だったとも思いますが、結果的には今回の事態の直接の原因となったと言えるでしょう。

ドイツはオイルショックの時に石油の安全保障を相当真剣に捉えていたことは色々な文献から伺えます。エネルギー転換という単語が初めて使われたのも1980年、省エネをしようという意味でした。

そのため、電力と暖房でガスの消費量が大きく増え、2000年ころまでに1次エネルギーの20~25%前後を占めるまで伸びました。

つまり、ドイツの失敗は気候政策が議論され始める前、2000年までの政策に起因するところが大きいと思います。

建築分野が1丁目1番地だった

2000年代に入ってから進めるべきだった政策は、暖房の天然ガス消費の削減、つまり省エネ建築の普及でした。安いガスを確保するのではなく、天然ガスを消費しない社会を作ることが最重要課題と認識すべきでした。

ドイツは建物は100年くらいは使います。なので古い建物の改修が難しいという課題はありますが、本来はお金をかけてもっと断熱性能の高い家を作ることができたはずです。しかし、ドイツはここでつまづきました。

次に、2010年代後半からは再エネの普及に失敗しました。風車を建てやすい場所での普及が一段落した時に、再エネ成長を加速させる政策を怠りました。具体的には、系統整備やガス火力などの柔軟性への投資が難しいといった課題を抱える当時の制度に手を付けなかったために、再エネ電気をうまく使うことができなくなってしまいました。

これまでは再エネの成長が原発、石炭を代替してきたのでドイツはなんとかなりました。他方で、減価償却の終わった安い原発と石炭を最新鋭の高いガス火力と「公平に」市場で競わせたためにガス火力を建設できず、ガス火力のkWを増やすことが出来ませんでした。本来取るべき手段はガスのkWを増やしつつ、kWhはできる限り増やさないことだったはずです。

2010年代後半には再エネの中でも特に風力の成長がとまり、再エネが成長しないことでkWh不足の問題は深刻化してました。再エネのkWもkWhも成長速度が不十分で発電量不足が顕著になりつつあり、間もなくドイツは電力輸入国に変わると言われます。

これまでのガス投資不足は石炭の残留、再エネの伸びでごまかしてこれましたが、それも限界です(なのでドイツが石炭を悪魔化してきたとか嫌ってきたというのは政府のアピールを信じているだけで、実際には間違っています)。さらに、ヒートポンプと電気自動車の普及で電力需要が増えることもわかっています。

電化自体は悪いことではないのですが本来はそれを見越して再エネを増やし、柔軟性と系統の近代化を進めておくべきでした。

改めて、ドイツのエネルギー関係者でもアカデミアでエネルギー転換を推進する人は、最も効果的な対策として省エネと熱の再エネ化で暖房でのガス消費を減らすことを重視していました。電力での天然ガス消費は限界があるからです。

紹介した天然ガス消費予測シナリオ(Exxon Mobil以外)はそうした前提で作られたものです。ですので地道に取り組めばドイツは脱原発、脱石炭がそのままガス消費量の大幅な増加やロシア依存の悪化につながらずにすんだはずだったのです。

とーこーろーがー

2013年から始まった中道右派と中道左派の大連立はこうした様々なエネルギー転換の芽を次々と摘んでいきました。

CDUは足元の経済を優先して安い褐炭と石炭の延命を図り、建物の省エネ改修が進んでいないのにテコ入れせず、SPDはシュレーダーの口利きによるロシアの安いガス依存に邁進し、本来最も力を入れるべき再エネをその場しのぎにすらならない政策でぶち壊してきました。

風力は現在建設許可を得るのに6~7年かかります。今後新政権が許認可を2年以内に短縮しても稼働を開始できるのは2026年とかです。

丁寧に省エネを進め、再エネを増やしていけば、ガス火力発電のkWを増やす必要はありますが、ガス消費量であるkWhやPJは増えないのです。ドイツのエネルギー政策は本来そういう目線で考えられていたはずなのです。

省エネを怠り、再エネと系統、柔軟性の整備を怠った結果、エネルギー源としてのガスの重要性が増してしまい、ロシアにつけ込まれる、という痛恨の結果になりました。

ただ、ドイツのガス消費がEUに占める比率は20~25%なので(もちろんとても大きいですが)、ドイツだけが頑張っても解決しないことも残念ながら事実です。ドイツは自らを犠牲にする覚悟でEUのために協調する必要があります。こう言うとドイツ擁護と言われますが、そうではありません。なんせ(ロシア産)ガスを広めたのはドイツと言う側面は事実ですから。ドイツはもっとできる限りのことを検討すべきだと思います。

最後に

ドイツが失敗したことは明らかとはいえ、失敗の根本は再エネ推進政策よりも1970年代から始まる住宅等の建築政策(ガス暖房推奨)によるところが大きいと思っています。

再エネ推進はこれまではどちらかといえばその悪影響を相殺する手段として機能してきたと言えるくらいです。

少なくとも過去10年、本来学術的に(経済的にも)実施可能な政策を丁寧に実行していれば、短中期でも1次エネルギーにおける天然ガス消費増や、さらにはロシア依存強化を避けてエネルギー転換を推進できていたはずなのです。電力においては天然ガスの発電量を2025年ころを目処にピークアウトできていた可能性はあったわけです。

今のエネルギー価格高騰を考慮すれば、同じくらいのコストで遥かに良い結果を出せていたはずです。(ドイツの家庭の電気代は今もヨーロッパで一番高いですが)

「ドイツは失敗した=ドイツの再エネイケイケは失敗した」と考える人が多いようですが、データを追う限りは別の見方もできます。それは、ドイツは省エネと再エネを進めるという本来のエネルギー転換を怠ったという失敗です。

「再エネを推進しすぎた」も「しなさすぎた」も、どちらも仮説として説得力があります。もちろん日本とドイツは違うので、日本は、本来ドイツが目指していた政策を実現すべきとは言いません

しかし、「ドイツから学べることは再エネを慎重に少しずつ増やす、または再エネは辞めることだ」は違う気がします。むしろドイツの2010年代後半はブレーキを踏みすぎたことが失敗の一因だからです。

エネルギー政策は電力だけでなく、あらゆる面に及びます。ドイツのエネルギー政策シナリオも、電力や産業、エネルギー以外の形で使う化石燃料の消費も分析しながら作られています。

こういうとドイツも原発を進めるべきだという意見もあると思います。私はこれに誰もが納得できるよう反論することはできません。さらに言えば、脱原発よりも脱石炭を先にやるべきという指摘はわかります。ただし原発を維持推進する困難さもわかっています

原発の課題は何十年に渡る構造的な課題

私は再エネを積極的に推進することが大事で、脱原発は再エネ推進の政治的なツールの1つになるし、ドイツは脱原発によって結果的にカーボンニュートラルが早くなれるチャンスのある国だったと思っています。チャンスは逃してしまったようですが。

それくらい原発の推進は難しいのです。

以下のグラフはEU27カ国の原発の容量と原子炉の数の推移です。

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フランスも含め、1900年にはピークを迎えて2000年ころには数も容量も減り始めています。
こちらは新設と停止した原子炉を1960年から示しています。

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EUは27カ国ありますが、原子力政策を持っているのは15カ国です(建設中の原発だけの国も含む)。
特に、西ヨーロッパの原子力の発電量は2000年をピークに減少比率は容量の減少幅よりも大きくなっています。つまり、西ヨーロッパの原子力の減少は福島第一原発事故の前から始まっている構造的な問題です。

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その結果、稼働開始後30年以上の原子炉が106基中89基となっています。

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これはドイツではなくEUの現状です。

つまり、原発は「建てたほうがいいと知っていても建たないもの」であるという現実を認めることが必要です。私はタクソノミーをもってしても、この30年前から始まった構造を変更することは容易ではないと思います。

そしてEUはタクソノミーでも原発を過渡的な電源と位置づけ、2045年までに計画が承認されているもの以外は投資を推奨しないとなっています。(あくまで投資の推奨なので、原発禁止ではないですけど)

ドイツも1990年代には原発の新設が非常に困難になっていました。

気候変動政策の実現手段として、現在ヨーロッパのどこを見ても建設が困難な原発の新設は諦め、再エネの推進をすることにしたのはそれなりに合理性があるのです。(ただし、既存原発の活用については政策は二転三転しますが)。

そして今、フランスは老朽化する原子炉で問題が起こって供給力に支障が出ています。(良いか悪いかは別として)ドイツは石炭の電気をフランスなどに10GW近く輸出し続けています。

もちろんフランスも老朽化した原発を修理し、フラマンビル3号機が稼働すれば危機は脱します。しかし、老朽化する原発を今後も維持するには、常に不具合発覚による計画外の長期停止のリスクと隣り合わせの安定供給を強いられます。だからフランスは洋上風力を50ヶ所、太陽光を100GWという目標も掲げているのです。

日本のエネルギーに関心を持ってこれを読んでくれた方に言いたいことは、結局「省エネ建築推進は最優先課題である」ということと、ドイツはそこで失敗したということです。

ここではあえて論点としなかった点も多くあります。市場メカニズムとエネルギーシステムの違いの話、スポットと先物の違い、系統対策の遅延、柔軟性の課題など、思いつくだけでも色々ありますがいずれ別の機会にでも。


ありがとうございます!