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それならそれでユートピア9(挫折と後悔と未練)

薄暗い部屋。
ベッドではない場所でナチョスは目を覚ました。
「どこやねん、ここは」

まだ酒が残っている。
目をこすりながら見渡すと、そこがホテルの部屋の床の上だということに気がついた。
薄暗いベッドの上から寝息が聞こえる。
誰かがいる。
訝しがってそーっとベッドを覗き込むと、、、寝ているのはサトシだった。

「なんや!お前かい!!」

見渡すとシーツの上には袋の空いた麻辣ピーナッツとあたりめ、未開封のコンソメのポテトチップス、赤いきつねが乱雑に置いてあり、床の上にはビールとチューハイの缶が散らばっていた。
阪本と根津と一緒に飲んだあと、サトシとホテルに戻ってきて、さらに2人で飲みながら2人とも気を失ったというのが、バカでもわかる状況だった。

「いやー、よー飲んだわ」

ナチョスはボーとしながら水を飲み、たばこに火をつけた。

しかしまぁ、なんというか、いつもいつも飽きもせずこんな感じを繰り返せるもんやなぁと思いつつ、昨晩の阪本の話をうっすら思い出した。

「ナチョスさんって挫折ってしたことあります??」
「ないない。そんなものない」

酔っ払いながら勢いで答えたものの、ナチョスの中では何かが引っかかっていた。

挫折・・・。

挫折とは一体なんなのだろうか?

ナチョスは若い頃、相撲部屋にいた。
たいした成績を残せず、またそもそも相撲というものが別に好きではなかったために早々に廃業したのだが、名力士になる夢などこれっぽっちももっていなかったためにバイトを辞める感覚での廃業だった。
だから彼の中では相撲を辞めたことは1ミリも挫折ではなかった。
その後の人生も似たような感じで現在に至っている。

『叶えたいものがあっての挫折や!叶えたいことがない場合はただの方向展開やろな!ワシに挫折があるならば、それは死ぬ前に面白い形で一攫千金を手に入れなれなかったことに気がつく時やろうな。それまではノー挫折やな』
ナチョスはたばこをふかしながら改めて思った。

仕事以外で後悔や未練がなかったわけではない。
もっとあーしていれば良かったと思うことの数々や恋人との別れ、、、そういった後悔や未練は挫折とは決定的に違っていた。
なぜなら後悔や未練はもう確実に実現しないことだからだ。

挫折は考えようによっては存在しない。
考え方の変換や方向展開でなんとでもなる。
相撲を辞めたことも人から見たら挫折に思われるかもしれないが、本人からしてみたらただのステップアップなのだ。

「挫折なんかやっぱりないなぁ。しょーもないな」

ナチョスは改めて思った。

ベッドから聞こえるサトシの寝息。
「こいつ、なんやねん・・・」

サトシは幸せな家庭を作るというのが夢なのであったならば、今こうして挫折の道を突き進んでいるのだろう。
しかも、この場合は残念ながら後悔と未練のセットになることだろう。

「サトシの場合は挫折に後悔と未練のセットやな、ヒヒ」

ナチョスは心の中で笑った。

ただこうして飲んで騒いで幸せそうに寝ているサトシは多分根っこの部分でそういう人なのだ。
それはそれで幸せなのかもしれない。

ナチョスはおもむろにポケットをまさぐるとカードキーが入っていた。

「あ、ここサトシの部屋やったか。自分の部屋に帰ってもう一回寝よ」

ナチョスは部屋を出ていった。

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