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Netflix 名作クライム映画の技術解説|Ozark

アメリカの田舎町オザークを舞台に、麻薬犯罪の資金洗浄に巻き込まれる一家を描いた『オザークへようこそ』の技術解説を通して、SONY VENICE の Dual Base ISO 機能と Leica R で作り出す低照度なライティングの技術、HDR の標準規格 “Dolby Vision” の制作環境について情報をまとめていきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン 『UMU TOKYO』で公開されたものです。限定公開を目的に有料化しています。公開日:2022.3.27
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393

1. 製作費と撮影スタイルに関して

2017 年に配信を開始した Netflix の人気ドラマシリーズ『オザークへようこそOzark)』は、アメリカの田舎町オザークを舞台に、麻薬組織の資金洗浄に巻き込まれる一家を描いたクライム映画です。主演のジェイソン・ベイトマン(Jason Bateman)氏が監督・製作総指揮も務めるなど、その独特の制作スタイルも話題となっています。

撮影地はアメリカ東部の ジョージア州 にて、美術セットはあまり使わず、撮影は実際のロケーションを中心に行われているようです。このジョージア州は、製作費 5,500 万円以上の映像作品に対して最大 30% の税制優遇措置を提供するなど、映像制作に前向きな地域として知られています。

ネット上に製作費に関する情報は見当たりませんが、Season 3 の撮影では、照明部・特機部・録音部への支出がおよそ 2.9 億円($2.6M)、美術装飾・小道具への支出がおよそ 1.7 億円($1.5M)とされているので、全体の製作費は Netflix のヒット作品の相場である 1 話あたり 2〜3億円 と推測されます。

またこの作品は、派手なカメラワークも少なく、固定カメラによる会話劇を中心にストーリーが淡々と進んでいきますが、特徴的なのが 映像全体をシアン色に染めた暗い色調のルック です。その独特なルックは、2016 年公開の豪州ドラマ『Animal Kingdom』や David Fintcher 監督作品を参考にしているという話です。

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Ozark|Official Trailar|Netflix

2. Panasonic VARICAM 35 × Cooke S4

全 44 話の超大作である『オザークへようこそ』はその製作期間も長く、撮影は 4 年にもおよびますが、デジタルシネマ業界の技術の進化とともに、撮影機材の構成も少しずつ変化をしています。

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2017 年公開の Season 1,2 では、カメラは Panasonic VARICAM 35、レンズは Cooke S4ZEISS Super Speed が使われています。VARICAM 35 は、2014 年に発売された Super 35 規格の 4K デジタルシネマ・カメラですが、撮影を担当した撮影監督ベン・カチンス(Ben Kutchins)氏は、VARICAM 35 を選んだ理由として “低照度での性能” を挙げています。

Cooke S4 は、1995 年発売の開放付近(T2)で高い性能を発揮する  Super 35 規格の単焦点レンズですが、本作ではおもに 27mm32mm が使われているようです。また ZEISS Super Speed T1.4 は、被写界深度をより浅くしたいような場面で使われる予備レンズという扱いとなっています。

下の画像右端が撮影監督の Ben Kutchins 氏、中央が監督の Jason Bateman 氏ですが、撮影監督とは別にカメラオペレーターがいることがわかります。

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Shooting Netflix's Ozark on VariCam 35s|Panasonic North America

記録フォーマットに関しては、テスト段階で RAW 収録も検討されたようですが、最終的には V-Log ガンマに LUT を適応した状態での H.264AVC-Intra)収録が採用されています。撮影監督カチンス氏によると、LUT は黒を持ち上げ、中間域にコントラストを加え、ハイライトを下げ、シャドウ部に深いシアン、ハイライト部に温かみを出すことで、FUJIFILM の古いフィルムの質感を目指したという話です。

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Ozark|Official Trailar|Netflix

▶︎ Ozark Season 1 のカメラ設定
4K 17:9(4096x2160)23.98P / 12-bit 4:4:4 AVC-Intra / V-Log


Season 4 の撮影を担当した撮影監督ショーン・キム(Shawn Kim)氏によると、この深いシアン色に染まった独特のルックは、LUT と合わせてカメラの WB を低く設定することで、映像全体にカラーフィルターをかけたような “ワントーン” な色調を作り出しているようです。

またカラーグレーディングは、世界的に有名な編集スタジオ『Company 3』の所属カラリストであるティム・スティパン氏(Tim Stipan)が担当しています。

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