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世界の水産養殖業の最新状況: 新型コロナウィルス感染症 (COVID-19)の影響について

概要

水産業界は、現在進行中の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)に対応するため、予測困難な変化が日々起きています。ロックダウンの状況下でも食事を続ける必要があるにも関わらず、世界各国の消費者の習慣と要求は劇的に変化しました。水産物は世界のタンパク質供給源として重要な役割をになっており、これらの前例のない新しい消費者要求に対応するため、業界全体が適応を図っています。新型コロナウィルスによるビジネスへの影響は、パンデミック収束後も長く続く可能性があり、世界的な危機からどのようにポジティブな変化がもたらされるかを考えることが重要です。

水産業界は、新型コロナウィルスにより、大きくは次の3点で影響を受けています。第一に、設備が閉鎖し移動が制約されたことで、生産、加工労働が制限されました。第二に、航空貨物減便によるグローバルでの物流に影響を受けました。第三に、消費者の食生活が劇的に変化し、一部の食品が好まれるようになった一方で、他の食品が市場に出回らない現象が起きました。この3つの要素が結びつき、販売可能な水産物の価格と量に影響を与えています。

ウイルスの感染拡大を抑えるために、国を挙げて政府が経済封鎖をしたことで、水産物の生産と加工の経済活動に大きな混乱が生じています。多くの食品関連ビジネスが必要不可欠とみなされているため、営業を継続することを許可されてきたものの、依然として多くの課題が残っています。例えば、労働者が病気に感染する可能性を恐れて働くことができない、また働きたくないケースもあり、職場は存続のために人員を減らして操業せざるを得ない状況になっています。アメリカのBornstein Seafood社のような一部の加工施設においては、既に感染爆発が起こりました。漁場では、定期的に乗組員を交代、配置するのではなく、決まった労働者が現場で長く働くことが求められており、漁場への行き来も、より少ない人員によって行われることが要求されています。小規模な生産業者の場合、最初から人員が少ないため、回復も早いと見られていますが、売り上げの減少、物流の課題により企業収益の影響を受けています。

また、国際貨物輸送が減少し、伝統的な貿易ルートは劇的に変化しました。生鮮品を他国に販売することに依存していた生産者は、物流業者の数や、利用可能な代替輸送手段が限られていることから、新たな市場を探す必要に迫られています。これは、加工品を販売したり、市場の状況の改善を見込んで冷凍製品を備蓄することを意味しています。また一部の航空会社は、輸出入の需要を満たすために、旅客機を貨物用として利用開始しています。

さらに、ロックダウンが続く間、消費者の習慣は劇的に変化しました。レストランからのテイクアウトはまだ続いていますが、ほとんどの食事が家庭へと移行しました。消費者は小売店で多くの食品を購入しており、当初はほとんどが棚にあるものや、冷凍品でしたが、現在は生鮮品も消費されています。米国などの多くの市場では、新鮮な生鮮魚介類の大部分がレストランで消費されているため、サプライチェーンはレストランへの卸売販売から、小売販売への移行を試みています。例えば、新鮮なロブスターは消費が大幅に減少したため、価格が急落しました。水産物加工の中心地であるベトナムでは、生産者が輸出契約を35〜50%削減しました。
活きたロブスター、生鮮カキ、トラウト類など、一部の魚種は深刻な影響を受けています。一方で、エビやサーモンなどの魚種は影響を受けていないように見えます。それは個々の市場の消費者の習慣に依存しているためだと考えられます。


これらの混乱により、企業は労働者を一時解雇や休職などの対応に追われています。米国で最大のトラウトサーモン生産者であるRiverence社は、スタッフの約半数を解雇しなければなりませんでした。アフリカでは水産業に5億人が直接関与しているため、価格が低下し消費が冷え込むことで、彼らの生計にも深刻な影響を与える懸念があります。

各国政府は、売上減少や価格低下の被害から回復させるため、産業に対して支援を行っています。 EUは生産者に助成金を提供しており、多くの国が自国の一次産業保護のために水産業界に向けた特別なプログラムを導入しています。これらの資金は、コロナの影響によって失われた価値のうち、ほんの一部を補うにすぎないと思われますが、貸付や支援を行うことが、救済措置が施されない場合よりも業界を安定させ、より早く元の状態に回復させることができるでしょう。

現在、各国がさまざまな速度で経済を再開しています。水産業界に影響を与え可能性のある食品サプライチェーンの他の部分でも問題が発生しています。これには、米国の食肉加工工場で起きた新型コロナウィルス感染爆発の事象も含まれます。中国、韓国、ニュージーランド、オーストラリアは、最初に経済を開放し、レストランの再開を許可してきました。これらの国の国内生産者は、通常の売上量にまで早期に回復することができるでしょう。米国、中南米、EUの一部地域など感染爆発が生じた国では、生産者だけでなく経済全体が引き続き苦戦を強いられる可能性があります。

将来的には、パンデミックの結果として原材料費が変動する可能性があります。サプライチェーンの回復し再編成が始まったとしても、長引くパンデミックの影響や数十年続くであろう永続的な変化により、消費者の行動に長期的な変化が生じる可能性があります。生産者と加工業者は、この新しい世界に適応するための準備が必要です。ソーシャルディスタンスを確保した安全性とバイオセキュリティを加味した運用が、生産現場と工場で実装されるべきです。航空輸送が長期的に不況に落ち込む可能性を鑑みて、乗客便の代わりに水産食品をはじめとした食品の輸送を増やす必要があります。そして、誰しもが消費者の新しい好みに応えるために準備する必要があります。水産食品業界と養殖産業は非常に多様であり、いくつかの分野はこの新しい世界秩序の中で苦戦することとなるでしょうが、回復力と柔軟性こそが、今後数ヶ月のうちに発生する新たな課題に対しての価値ある特性となるでしょう。


サーモン養殖

サーモン市場は多様化しているため、影響を受けていますが、壊滅的ではありません。サーモン生産者は、さまざまな国に供給を行っているだけではなく、小売業者や卸売業者にも供給を行っています。一般的に欧米諸国では、消費者は家庭料理のためにサーモンを購入しています。また、スモークサーモンや塩漬けサーモンなどの加工製品も購入しています。需要の減少や物流の問題により、生産者が収穫を遅らせている場合もあります。概して、サプライチェーンは米国、EU、日本、その他の国でのロックダウンによる消費者行動の劇的な変化に対応しています。

3月の危機発生以降、価格の下落は緩やかでしたが、5月になり概ね下落価格が続いています。ノルウェーでは、サーモン1尾の価格が、今年の第2週に1キロあたり80ノルウェークローネ(NOK)近くありましたが、17週目には約53 ノルウェークローネ(NOK)にまで落ち込みました。ノルウェーでは世代交代により供給が減少していましたが価格が5月下旬に戻り始め多くの買い手と売り手を驚かせました。米国向けチリ産のサーモンフィレも同様に価格が下落しており、その価格は回復の兆しを見せておらず、20週目に突入しています。

上場企業のサーモン生産者の株価は下落しており、直近の第1四半期には投資家に対し、第2四半期の売上高は減少傾向と報告しています。武漢での新型コロナウィルスの発生に関するニュースがまだ一部に限られていた2020年1月1日から比較すると、10%から30%の値で株価が下落しています。多くの企業は、ロックダウンの売上への影響を十分に査定するべく、2019年の投資家への配当金の分配を遅らせています。

オーストラリアとニュージーランドの生産者達は、四半期毎の財務情報とともに発行された声明によると、目標収穫量を減らしています。タスマニアにあるアトランティックサーモンの養殖業者Huon社は、25,000トンの年間計画漁獲量が2021年まで5〜10%減少すると予測していると投資家にアドバイスしています。ニュージーランドのKing Salmon社も、対レストランでの売上額が75%を占めることから、漁獲量の減少を報告しています。現在、両国の経済は5月中旬に再開され、他の多くの国と比較して、サーモン養殖業者は比較的早く通常の取引量に戻る可能性があります。

ノルウェーでは、輸出量は2%しか減少していませんが、生鮮や冷凍のフィレが好まれ、冷凍での丸ごと1尾の人気は落ちていることで輸出品の構成に傾斜が見受けられています。航空輸送の減少により、極東と米国の市場に到達するための物流上の課題がいくつかありますが、ノルウェー最大の顧客であるEU市場には、依然として陸上輸送で届ける事ができています。

チリでは、航空輸送が不足していたため、当初、製品を米国とブラジルに届けることが困難でした。この問題は、追加の貨物便のスペースを見つけることで解決しましたが、米国とブラジルの消費者の習慣の変化、需要の減少により、価格は非常に低下しています。日本向けの銀鮭は、5月下旬にチリで冷凍在庫に置かれています。収穫量は減少しておらず、製品はまだ最終消費者に行き届いていると報告されています。

サーモン 市場価格

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図表1. ノルウェー アトランティックサーモン1尾 週平均価格 (引用元: Fishpool)

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図表 2. アメリカ向け チリ産アトランティックサーモン トリムD 週平均価格(引用元: Datasalmon)

サーモン養殖会社 株価

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図表 3. オーストラリアのサーモン会社 株価(12月初旬から現在)

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図表4. ノルウェーのサーモン会社 株価(12月初旬から現在)

サーモン価格と株価の相関関係

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図表5. 2020年のMOWIの株価とアトランティックサーモン価格の相関関係

エビ養殖

新型ウィルス感染症が世界中に感染拡大し始めて、エビ業界は過去数か月にわたっていくつかの高値と安値を経験しました。養殖エビの最大の市場の1つである中国では、2019年12月下旬のウイルスの感染爆発により、旧正月の準備が中断され、その後、全国のロックダウンにより中止となりました。これは、2020年の第1四半期のレストランやホテルの売上の大幅な減少、そして輸出国からの需要が減少に転じることを意味しました。現在、ロックダウンの緩和と貿易ルートの再開により状況は改善しましたが、通常3月から4月にシーズンが始まるアジアの生産者達にとって、このロックダウン状態の中、今年いっぱいの中国の需要を満たすための漁獲高を算定することは、依然として困難である可能性があります。

中南米では、エビのシーズンが2月末に始まるのが一般的ですが、製品の最大60%が毎年中国に輸出されるエクアドルは、主要市場である中国が閉鎖されたにもかかわらず、当初は影響を受けていませんでした。サプライヤーは、米国への輸出量を増やす取り組みに成功しました(2019年と比較して売上高が6%増加)。しかし、4月に起きたウイルス流行の震源地となった主要な生産地域の1つグアヤキルや、政府からの財政援助不足により、多くのエクアドルの生産者が今にも破産の瀬戸際に追い込まれています。本稿執筆時点では、出荷価格が他の生産地域に比べて史上最安値に下がっており(図表6を参照)、輸出業者は状況の改善を見越して冷凍製品を備蓄し、代替案として米国とヨーロッパ向けの新しい市場と物流パートナーを探しています。

アジアの生産者もグローバルサプライチェーンへの影響や、輸入国からの不確実な需要から逃れられていません。いくつか挙げると、ベトナム、インドネシア、インド、タイなどの主要な生産国は今年初めから封鎖されており、一部の国ではごく最近、規制が緩和されています。さらに、この地域の孵化場の最大50%が、稚エビ(PL)の出荷を中止し閉鎖しました。これは、企業が軌道に戻り始めた際に、販売面だけでなく将来の出荷に向けたエビの確保も、課題となることを意味します。物流に制限があるため、生産施設と加工施設間の輸送もますます困難になっています。企業が軌道に乗るための取り組みをしている中、生産量は25%減少すると予測されています。

ホテルやレストラン業界からの需要不足を克服するために小売業者が試みてきた1つの方法は、消費者に直接小売販売するためのパッケージ化された製品に変更することです。ただこれらも加工業者が低い労働力で稼働し続ける場合、長期的に持続可能ではないかもしれません。

ロックダウンから解放されて需要が再び回復する国が増えるにつれ、タイなどの東南アジアでは、相場が回復してきています。グローバルでの価格設定と需給はゆっくりと改善する可能性がありますが、エビ産業が正常に戻るには間違いなくしばらく時間がかかります。依然として見通しが立たないことは特に資金援助が少なく、流動資産の問題に直面している生産者が、市場が回復した際に、参入できるよう生き残ることができるかどうかです。

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図表 6. 主要市場におけるエビのキログラムあたりの価格 (尾頭付き60尾)

ヨーロッパへダイ、ヨーロッパスズキ養殖

地中海と黒海地域の鯛とスズキの生産者は、各国政府が実施した対策の範囲に応じて、さまざまな影響を受けていますが、ほとんどの国の生産者が、生産量を最大75%削減する対応を行いました。生産現場はスタッフを減員し通常通り稼働していますが、ホテル、レストラン、観光業界からの需要の不足と輸出ルートへのアクセスの制限により、収穫量は減少しています。流通業者や加工業者は、旅行制限、限られた人的資源、および増大する物流コストの中で、食品サプライチェーンを円滑に運営し続けるのに奮闘しています。

ギリシャでは、小売およびスーパーマーケットの販路を介した消費者への継続的な安定供給によって、損失が部分的に軽減されたものの、へダイの販売において1週間あたり推定200万ドルの収益が失われました。

売上が80%減少した後、ヘダイとスズキの生産者は、スーパーマーケット向けのパック商品に事業をシフトすることを決定しました。他のEU諸国でも同様に、企業は保存期間の短い生鮮海産品を販売するのではなく、小売部門向けのパック商品、既製食品、および冷凍品等の生産に注力しています。

ヘダイとスズキの生産量が上位3カ国から、これまで同魚種の過剰供給が続いており、2019年に価格の急落がありました。新型コロナウィルス感染症の発生により、ヘダイの価格はさらに下落しましたが、一方でスズキは人気があり、特に米国などにおいては需要に基づき価格が上昇しました。

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図表 7. ヘダイとスズキ(400-600g)の週平均価格 2019年から現在まで(引用元: Mercamadrid)

日本国内の真鯛養殖

日本の真鯛市場は2018年12月以降悪化しており、この市場危機は新型コロナウィルス感染症の問題により深刻化しています。

問題に詳しい関係者によると、2018年12月からの市場価格の下落は複数の要因が関係しており、2020年以降は生産量が増加する見通しだったことや税制改正など日本の経済状況によるインパクトが含まれるとしています。このうち生産量については、東京オリンピックに向けて多くの生産者が生産量を増やそうと準備していたものの、関係者の間では需要に対して過剰増産との見方があったとのことです。また、日本の真鯛市場は、毎年3月と12月に活発になります。これは、年末年始と新年度における催事向け需要のためです。しかし、2019年12月の需要は、小売店の高値、10月の消費税増税などいくつかの影響を受けて伸び悩みました。 さらに新型コロナウィルス感染症の危機が3月中旬頃に集中し、日本政府が4月7日に緊急事態を宣言した後、ほぼ全てのレストランが閉鎖されました。そのため、日本の真鯛養殖業者は、2019年12月からピークシーズンを2回失いました。

現在も真鯛の価格は下落していますが、市場がまだ冷え込んでいるにも関わらず、生産者は次の繁殖サイクルを開始するため生簀から収穫し、生簀を空ける必要があります。この状況は、近い将来魚の価格下落を加速するかもしれません。

一方、長期的には、収穫を抑え新しい稚魚入れが遅れることで1〜2年後には真鯛生産量の落ち込む可能性があり、その場合は真鯛価格が値上がりするかもしれません。しかし、その前にこの状況が半年以上続く場合、多くの生産者は深刻な被害を受ける可能性があります。

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図表 8. 日本における真鯛の市場価格と小売価格の遷移 (引用元:東京都、日本総務省)

政府/ NGOの緩和対応

世界的な危機に対応して政府は、企業がこの危機を乗り越え経済を維持するために、企業への支援提供に取り組みました。これは主に資金援助と貸付条件の緩和という形で行われましたが、代替となる新しい消費者市場への参入を支援するために、調査およびマーケティングキャンペーンの分野など、他の形態での支援も見られました。

今回の感染爆発の引き金となった中国は、ロックダウンによる生産の課題と供給の問題を見越して、地方自治体に食料安全確保のために可能な限り生産物の備蓄を開始するよう促しました。水産物の生産者は、税制優遇や財政支援なども利用できるようになりました。また融資機関は、生産者が拡大防止政策の影響を乗り切るのを支援するために、融資の返済期間の繰延や組み直しを提案しています。

過去数ヶ月の間に、欧州委員会はイタリア、ギリシャ、ベルギー、スペインなどの国々で、一時的な救援策の承認を開始し、生産者はこの危機を乗り越えるため資金援助を申請することができるようになっています。スコットランド、オーストラリア、米国でも同様の政策が立ち上がり、政府が資格のある生産者に財政援助と賃金補助金を提供しています。

米国の水産業の経済を後押しするために、新たに形成された水産加工業連合は、アメリカ人が地元で生産された水産物を食べることを奨励する3か月のキャンペーンを打ち出しました。レストランの閉鎖が家庭での消費をより促したことに伴い、米国食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウィルス感染パンデミック時には、食品供給の流通を早めるため、小売業者に対して食品表示規則を一時的に緩和しました。

発展途上国では、パンデミックによって地域社会がさらに貧困に陥る恐れがある中で、途上国を支援するために非営利団体も介入しています。これらの脆弱な人々への食糧供給の混乱を減らすため何らかの措置を講じなければ、5億人以上の人々が危険にさらされると予想されます。東ティモールでは、養殖活動を監視するのに役立つ技術が導入されており、この期間中、地元のパートナー達が孵化場の安全な運営を支援しています。その他の取組としては養殖業を行う地元のコミュニティに、リスク管理ガイドラインや勧告を普及するためのデータ収集があります。

物流に関して

国際航空輸送の劇的な減少のため、鮮魚を扱う生産者は問題に直面しています。生産をしているほとんどの国が、大部分の輸出貨物を国際旅客便の貨物庫で輸送しています。減便、運休により、多くの生産者が主要な市場に製品を届けることができませんでした。

アイスランドやニュージーランドなどの孤立した国々は、サーモンを中国などの主要市場に輸出できるように特別な措置を講じています。アイスランドでは、5月中に1日に約1便、20〜25トンのサーモンを中国に向けて飛行する計画を立てています。サーモンは、通常乗客が座る場所に貨物が置けるよう転用された旅客機で輸送される予定です。ニュージーランドでは、政府は航空会社と契約して国外への貨物便の数を増やしています。

ノルウェーは、新鮮なサーモンがロシアの空域に入ることを禁止されているため、東アジア市場に空輸することに課題を抱えてきました。これは、EUとロシアの間で進行中の貿易紛争が原因です。代わりに、ロシアを迂回しながらもより近いルートで、中国、日本、韓国、台湾へサーモンを空輸する代替ルートを見つける必要があります。

チリのサーモン生産者は、チリ南部から多くの消費者がいる米国への輸送に課題を抱えています。ノルウェー、フェロー諸島、スコットランドは、既存の陸上輸送インフラに依存することで、EU市場に供給することができ、これらの陸路輸送への被害が限定的です。

国際便の運行状況の回復が遅れるにつれ、これらの物流の課題は継続する可能性があります。物流会社は、飛行機と同様利用可能な他の航空輸送の手段で、状況を改善することを期待されています。

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図表 9. 航空貨物輸送量の年次推移  (引用元: Clive Data Services)

外食 対 内食の水産物消費

ここ数ヶ月の広範囲にわたる新型コロナウィルスによるロックダウンの間、ほとんどすべての国で消費傾向が劇的に変化しました。レストランの多くは店内での食事サービスを停止し、テイクアウト用に営業をしていました。しかしながら、外出の大幅減少と予算の引き締めから、ほとんどの家庭が内食へと移行しました。西洋諸国の多くは水産物を家庭以外で食しているため、鮮魚に大きな影響を与えました。米国では、鮮魚の約3分の2がレストラン利用者の消費によるものです。ニュージーランドの地元のサーモン生産者である、ニュージーランドキングサーモン社は、生産量の約4分の3をレストランに販売、残りを小売店に販売しており、ニュージーランド全てのレストランが7週間閉鎖された状態では、製品のマーケティング方法と流通方法を迅速に変更する必要性が生じました。

一方、米国では、冷凍および常温保存可能な水産物の売れ行きが前年比37%増でした。小売店での鮮魚の売上高は前年比13%増と好調でしたが、米国の多くの鮮魚カウンターがロックダウン中に閉鎖されたため、スーパーマーケット各社は他の食品にリソースを集中させました。 3月の米国でのマグロ缶詰の売上高は、昨年のこの時期と1か月前の2月の売上高と比較して200%増加しています。

すべての魚種が同様の影響を受けるわけではありません。米国では冷凍エビの大部分が家庭で消費されており、ロックダウン最中においても販売が堅調に推移しました。しかし、生鮮のカキはそのほとんどがレストランでのみ消費されており、生産者にとって売上が見込まれませんでした。サーモンなどの人気のある魚種は依然として家庭で消費されており、流通業者は新しい現況に迅速に適応し、家庭用製品としての梱包など対応をしています。

日本では米国とEUとは対照的に、水産食品の83%は家庭で、また85%は夕食時に消費されています。特にレストランで消費されることが多い魚種を扱う流通業者は、日本においても環境変化への適応が必要となりました。

中国やニュージーランドなどの経済が再開し始めると、消費者がどのように反応し、再びレストランを訪れ始めるのか注目されます。一部の人々は、この危機により消費者の行動に根本的な変化があると推察しており、食事の選択肢として魚が伝統的に見過ごされてきた国々では、家庭料理としてより一般的になる可能性があります。例えば、タイではロックダウン以前と比較し、内食の割合が増加し、家庭での水産物の消費量が増えています。

主に生鮮食品やレストランで販売される水産物は、収益の回復に時間がかかるでしょう。これは、相対的により多くの消費者が家庭で魚を食べる機会を増やし、近い将来、消費習慣に興味深い変化をもたらす可能性があります。

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図表10. 中国の消費者を対象にロックダウンの期間中、通常の買い物習慣と比較して購買し量が増減した食品統計結果  (引用元: オリバーワイマン調査)

業界予測

2020年の向こう6か月に何が起こるかを予測することは非常に難しいと言えます。中国や韓国などの国々は、大規模な集団感染発生の後に通常に戻ることが可能であることを示しています。ニュージーランドとオーストラリアは、早期のロックダウンがいかにウイルス感染を収縮し、経済活動の再開を可能にするかを示しています。米国、EU、日本などの大規模な水産物消費市場が再開に向けて動いているため、水産物の販売は回復すると予測できます。エビやサーモンなどの人気のある魚種は大量に販売し続けることができますが、多くの生産者が供給過剰を行うため、生産コストに近い価格まで下がり続ける可​​能性があります。どちらの業界も近年、力強い成長を遂げており、需要は依然として供給を上回っています。この傾向により、早期に回復することが見込まれます。ただし、今回の危機は多くの生産者にとって初めての危機ではありません。生産者は、通常の活動過程において養殖魚の病気や環境問題に対処することに慣れています。小売、医療、製造などの他の経済部門は、深刻な被害に左右される条件下に置かれていませんが、生産者の利益は往々にして良い年と悪い年の間で変動します。この回復力こそが2020年に非常に貴重なものとなるでしょう。

業界の回復が遅い場合、今後数年間は成長への投資が不足する可能性があり、公的支援が重要になります。対照的に、状況が早期に通常に戻る場合、水産養殖は、大きな変化に強い魅力的な投資機会であることを証明するかもしれません。マクロで見ると、養殖業は他の動物性タンパク質と比較して新規産業で、天然資源保護やプロテイン需要の観点から、今後も成長が見込めます。直近の課題を乗り越えることで、年々より多くの魚が食卓で見られることになるでしょう。

産業を支えるウミトロン

ウミトロンは、世界のタンパク質生産を確保するために、養殖業が重要な基幹産業となると考えています。また、今回の新型コロナウィルスの被害が大きかったのは都心部であるのに対して、養殖の生産現場は地方となります。今後の地方創生の観点では、この困難な時期においても、コロナ下における労働集約を減らすため、また地方の人材不足を補って安定した経営を行うためにリモート化や自動化が重要です。ウミトロンはデータやAI技術を提供することにより、コロナ下でも一次産業を支え続ける生産者をサポートし続けます。市場データに関する情報をさらに詳しく知りたい場合、また人的資源への負荷を軽減するためにAI技術の導入を検討されている生産者様はinfo@umitron.comまでお気軽にお問い合わせください。

ウミトロンについて

ウミトロンは、成長を続ける水産養殖にテクノロジーを用いることで、将来人類が直面する食料問題と環境問題の解決に取り組むスタートアップ企業です。シンガポールと日本に拠点を持ち、IoT、衛星リモートセンシング、機械学習をはじめとした技術を用い、持続可能な水産養殖のコンピュータモデルを開発しています。私たちは世界中の養殖ノウハウを集積したコンピュータモデルを開発・提供することで、より安全で、人と自然に優しい「持続可能な水産養殖を地球に実装する」ことを目指しています。

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