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医師⇔家庭の本音をつないで子どもの命を守る、オンライン医療相談サービス

子どもの命を守る。
広く「そなえ」を捉えたときに、子どもの事故全般について「そなえ」の活動をされている方に話をお聞きすることが、結果的に海や水辺の事故防止につながると考えています。

今回は、株式会社Kids Public代表で、遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」などを運営、インターネットを介した医療サービスを提供している橋本直也先生に、オンライン医療相談の現状や、小児科医の目線からの事故予防の観点でお話を伺いました。

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(プロフィール)
株式会社Kids Public 代表取締役 小児科専門医 公衆衛生修士
橋本直也先生

2009年日本大学医学部を卒業、聖路加国際病院にて初期研修修了。
2011年より、国立成育医療研究センターにて小児科研修。その後、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修士課程修了、2015年に株式会社Kids Publicを設立、遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」や「産婦人科オンライン」、医療メディア「小児科オンラインジャーナル」「産婦人科オンラインジャーナル」「Kids Public Journal」など、インターネットを介した成育医療に関わる事業を提供している。


新型コロナウイルス感染症が広まる今、注目すべきオンライン医療相談

「産婦人科オンライン」、「小児科オンライン」とは?
株式会社Kids Publicでは、2020年5月1日から経済産業省より委託を受け、「産婦人科オンライン」、「小児科オンライン」を全国民に無償で提供してきました。

全国民への無償提供は2020年6月26日に終了予定でしたが、この度、新型コロナウイルス感染症流行の社会への影響が残る現状を踏まえ、2020年8月31日までの延長が決定しています。


―インターネットを介して医療相談をはじめたきっかけを教えてください。

橋本:
あるとき、お母さんが子どもに暴力をふるい、子どもの足の骨を折ってしまったケースに救急外来で出会いました。3歳児の子どもの足の骨を折るのは相当な力です。あってはならないことですが、お母さんも、すごいストレスだったんでしょう。お母さんを責めることが正しい対応ではないことは自明でした。

病院で治療することはもちろん大事ですが、こういうケースが起こらない環境を作るために、働きかけることが重要だと思ったんです。

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小児科や産婦人科を利用する方は、圧倒的に若い世代です。その若い世代とコミュニケーションしやすい方法は何か、働きかける方法とはなんだろうと考えたときに、誰の手にもあるスマホじゃないかなと思いました。


―スマホを使ってできる「小児科オンライン」は具体的にどのようなサービスでしょう。

橋本:
LINEのビデオ通話やチャットを通して小児科医と直接やりとりする「夜間相談」と、専用フォームからメッセージを送っていただいて24時間以内に返信する「いつでも相談」を実施しています。

夕方から夜間にかけて直接小児科医に相談ができる夜間相談をおこなっており、昼間は仕事で通院がむずかしい方も利用ができます。また、オンラインなので家から出なくても、相談ごとが出てきたときに相談をおこなえるのも特徴です。

利用の割合は、チャットが半分、ビデオ通話が1/4、音声通話が1/4ずつほど。チャットは履歴も残るので、外来であれば一緒に行くことができないお父さんもあとから確認しやすかったり、ビデオ通話も家族で参加してもらいやすいと特に好評です。

オンライン医療相談は家族間の理解につながりやすいんですね。


―オンラインの医療相談ならではの特徴やメリットはありますか?

橋本:
「オンラインだから、言える」ことが結構あるんですね。例えば、対面で順序よく話すのって意外と難しいんですよ。でも、チャットなら話せるという方がいらっしゃいます

また「子育てがちょっとしんどい」、「発達が遅れているかも」など、ひとりごとのようなつぶやきやママ友には相談しづらい疑問も、話しやすいんですね。

あるお母さんは、「この子が低体重で生まれたのは、自分のせいなのでは」という自責の気持ちがずっと引っかかっていました。そのことはなかなか面と向かって主治医に聞きづらかったそうです。

けれど、非対面のチャットでは打ち明けてくださいました。そのかたには、妊娠中の状況やお子様の現状についてヒアリングを行った上で、「低体重は一定の割合で生まれますので、お母さんのせいではないですよ」とお伝えしました。

悩みの内容については、対面での外来診療で聞かせてもらえない事も多いので、オンライン医療相談に参加してくれている小児科医側にとっても気づきが多いです。

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子どもの事故を取り巻く環境で行うべき予防とは

―子どもの事故の現状について教えてください。

橋本:
今の時代、身体的には健康な子どもがほとんどです。数字で言えば95%は身体的には健康。命に関わる先天性の病気ももちろんありますが、現在は、予防接種も広く実施されていますし、栄養不足や生まれてすぐに感染症にかかることも激減しました。

小さな子どもの死因として、不慮の事故は常に上位なんです。つまり、不慮の事故を防ぐことは子どもの命を守ることに直結するんです。

先進国では不慮の事故による死亡数は減少傾向にありますが、日本ではその減りがゆるやかだと言われているため、もっと情報を伝えようと模索中です。

子どもの命を守るためにも、事故は予防できるものだと伝えたいですね。
例えば、日本では母子手帳に月齢ごと、年齢ごとに気をつけるべき事故予防の項目が一覧で書かれています。しかし、なかなかその表記にしっかり目を通す方はいらっしゃらないかもしれません。

ですから、私は健診の際にはそのページを開いて必ず説明をするようにしています。オンライン医療相談でもケガの相談の際は今後どのように予防できうるかを合わせてお伝えするようにしています。

事故が起きてから相談をもらうのではなく、できるだけ事故が起きないよう、事前にパターンを抑えて情報を発信することが大事です。


―具体的には、相談者にどのようなアドバイスをしていますか?

橋本:
事故予防は、子どもの発達に応じて前もってイメージを膨らませておくことが大事です。

例えば1〜2カ月のお子さんですと寝返りはうたないですが、もぞもぞ移動してベッドから落ちてしまうことがあります。寝返りをうたないから置きっ放しにしてもよいだろう、は間違いです。6カ月ごろに寝返りをうつようになればなおさら注意が必要です。

10カ月ごろつかまり立ちできるようになるとテーブルクロスを引っ張って、上に置いていたポットのお湯がかかるケースがあるため、子どもがいる家ではテーブルクロスを設置しないようにしないといけません。そういった子どもの「できる」を予想して、早めに手をうつ必要があります

海や川でも、子どもの様子を見る大人を必ず1人置いてくださいと伝えています。人は音もなく静かに溺れますからね。他のことに集中していると、なかなか気づけません。

健診や外来で疾患を見つけることも当然重要ですが、多くの子どもたちが身体的には健康な今の世の中では、大事なのはその健康を守り続けること、生まれてきた命を守ることです。

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法律は手段であり、目的は子どもの安全を守ることができる社会の実現

―最後に、これからの展望について教えてください。

橋本:
私は、成育基本法(※1)の協議会委員をつとめさせていただいています。
成育基本法は成立しましたが、基本方針は今まさに議論をしている最中です。法律は手段で、目的は子どもの安全が守られることです。

例えば、子どもの事故に関して政府が警告を発することがゴールではなく、その情報が子育て中のお父さん、お母さんに届き、行動が変わることが必要です。

また、チャイルドシートをつけないと道路交通法違反であるように、無関心でもやらざるをえない環境も作っていきたいですね。子どもに対して特別な知識を持っていなくても、行動の中に要素を組み込んで、無意識で安全な状況を作りだせるような状況を増やしたい

ライフジャケットも同様だと思います。着ける着けないを考える前に、その場に日常的にあることが重要なのです。遊び場にライフジャケットのレンタルが必ずある、それだけでも違うのではないでしょうか。

成育基本法が、概念の提示だけで終わってしまう法律になってはいけないと思っています。本当に不慮の事故による死亡数は減ったのか、子どもの命は守られたのかが重要で、達成されたかを見届けなければいけないと思っています。

※1 成長過程にある子どもおよび、その保護者、ならびに妊産婦に対して、必要な成育医療を切れ目なく提供するための施策を総合的に推進することを目的とする理念法。
正式名称「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」。2018年12月14に公布、2019年12月1日に施行。
引用:公益財団法人日本小児保険協会 2019.12.4お知らせ「成育基本法」(略称)施行 https://www.jschild.or.jp/archives/1380/

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橋本先生、貴重なお話ありがとうございました!
新型コロナウイルス感染症の影響下において、オンライン医療相談がますます注目されてきている今日。オンラインだからこそできるコミュニケーションがあり、アプローチできる人がいる。新しい医療現場のつながりを感じられたインタビューでした。

そして、今後さらに子どもたちを取り巻く環境や、社会が変わる必要があり、私たち海のそなえプロジェクトでも人々の行動を変える一助になりたいと改めて思いました。

橋本先生が運営する、オンライン医療相談サービスはこちら!

小児科オンライン
https://syounika.jp/

産婦人科オンライン
https://obstetrics.jp/

※「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」ともに、2020年8月31日までどなたでも何度でも無料で利用可能とのことです。ぜひお試しください。無料利用には合言葉「てをあらおう」を会員登録時にご入力いただくことが必要です。

小児科オンライン・産婦人科オンライン_延長告知01

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