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川の楽しさとリスク、その両方を知る大切さを伝え続ける河川財団・子どもの水辺サポートセンターとは?

水辺に関わる場所といえば、海以外にも、川、湖、プールなどのさまざまな場所があります。今回は、海…ではなく、川の水辺の安全を実現するために活動をし続ける河川財団・子どもの水辺サポートセンターさんにインタビューをさせていただきました! 現在おこなっている取り組みや河川での水辺の事故に関する現況などを教えていただくとともに、私達、海のそなえとも重なる水辺の安全に対する想いについて、河川財団・子どもの水辺サポートセンターの研究員である菅原一成さんと泉井宏美さんに伺いました。

(プロフィール)

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菅原一成
公益財団法人河川財団 子どもの水辺サポートセンター 主任研究員。水辺体験活動の普及推進事業や河川・水教育の普及等に取り組んでいる。

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泉井宏美
公益財団法人 河川財団 子どもの水辺サポートセンター研究員。現在、事業に携わりながら、河川について日々勉強中。

創立46年! 川にまつわる調査研究、教育活動等をおこなう川の専門組織「河川財団」

―河川財団は、いつ創設されたのですか。

菅原:
河川財団は、もともと河川環境管理財団として1975年に創設され、河川環境の保全という観点からいろいろな活動をおこなってきました。2013年に河川財団という名称となり、現在では河川に関する調査・研究、助成、河川教育の推進など、川についてのさまざまな活動に取り組んでいます。現在、財団には東京本部の他、名古屋事務所と近畿事務所の3拠点があり、約70名の職員が在籍しています。

河川の環境に関する大きな変化は1997年です。この年に河川法が改正され、これまでの「治水」「利水」に加え「河川環境の整備と保全」が目的に加えられました。このような、河川環境の改善や市民に川に親しんでもらおうという動きが世の中に出てきた時、「川に学ぶ社会を目指して」という方針を国が打ち出したんです。そんな時流を背景に、2002年に情報提供や指導者の育成等を行う「子どもの水辺サポートセンター」が河川財団内に設置されました。

―現在、「子どもの水辺サポートセンター」では具体的にはどのような事業を行っているのでしょうか。

菅原:
2021年5月の中期計画では「河川・水教育の充実と推進」「普及・啓発」「水辺における安全の促進」の3項目を挙げています。学校教育でもっと川や水の内容を取り扱いやすくなるような教材・ツールやカリキュラムの開発、大学等と連携した河川・水教育に関する研究とその支援、教育機関等とのネットワークの構築をはじめとした活動を行っています。その他にも、水難事故防止対策等の調査研究やライフジャケット着用に向けた取り組みの推進等があり、河川に関するいろいろな研究、あるいは事業を幅広く行っています。

―世間の河川に対する意識や関わり方は、子どもの水辺サポートセンター設立当初からどのように変化してきていると感じますか。

菅原:
都市化とともに生じた水質悪化等の様々な要因で、川に親しむような活動が鈍化した時代が長らく続いていました。平成の時代になり、年々川の水質が良くなってきたこともあり、当センターが設立した頃は、地域のNPO団体の方達が、かつて自分が体験した川での楽しい経験を今の子ども達にもさせたいという想いで活動されていた時代でした。ところが近年では、活動の中心となっていた地域の方々の高齢化が進み、活動継続が難しいという状況が出てきたんです。そんな中で、河川財団としては特に学校教育を中心とした展開を検討しはじめ、河川にまつわるカリキュラム開発や教材の作成、学校との連携等を進めてきました。また今日では、新しい水辺の活用の可能性を切り開くための官民一体の協働プロジェクト「ミズベリング」など、地域の団体から国までさまざまな取り組みが行われていますし、昔とだいぶ変わってきたと感じますね。

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「川遊び・川に入る活動」が事故要因の6割! 陸域でも油断できない水難事故

―近年の水難事故状況については、いかがですか。

菅原:
2003年頃から河川・湖沼池での事故死亡事故数はずっと横ばいで、2017年には一度減少したものの、昨年にはまた増えました。ただ、子どもの事故については、近年少し減ってきている状況ですね。この背景の一つには、ライフジャケットの認知向上と着用人口の増加があるのではないかと思います。近年、ホームセンター等でもライフジャケットが販売されるなど、購入できる場所も広がっていますし、販売数も増えているようです。ただし、毎年のように子どもが川で流される事故は発生しています。さらに踏み込んで、一つでも多くの事故を防ぐにはどうしたらよいか、関係団体や省庁をはじめ様々な取組の強化・連携がさらに重要になってきています。

一方、川辺のキャンプ場でも着用する子どもを見かけるようになりましたが、大人がライフジャケットを着用するのは、カヌーをする人などを除きまだまだ着用率が低いのが現状です。そのため、大人の事故数や死者行方不明者数がなかなか減っていかない。これについては課題であると感じています。

―水難事故の中でも特に多いのは、どのような事故なんでしょうか。

菅原:
我々の調査分析では、「川遊び・川に入る活動」が事故の6割を占めていることがわかっています。残りの3割ちかくは、河川敷付近での転落など陸域での事故です。川の中でのリスクの高さは認識している方も多いと思いますが、陸域だから安心という訳ではないんですね。

それからもう一つ、事故要因として注意していただきたいのが、川の中にはいろいろな自然の障害物や人工的な構造物があるということです。このような川の流れを遮る障害物等があると、その周囲には複雑な流れが起きやすくなります。そこは当然事故が起きやすい場所でもあるので、もしそんな場所を見つけたら、原則、近寄らず、遊ばないようにしてください。

―事故予防のためには、他にどんなことをしたらよいでしょうか。

菅原:
まずは、(ライフジャケット等の)装備、知識、情報を備えることだと思います。例えば知識として意外と知られていないのが、流域の概念です。雨が降ると、水は一つの川に集まって最終的には海に流れていくので、上流で雨が降れば、その水はやがて下流に到達します。巨大な質量と運動エネルギーを持った水が流れてくることにより土地を変化させ複雑な地形が生まれます。深いところ浅いところ、流れのはやいところ緩やかなところなど多様な顔を見せる川は、生物が憩う場にもなりますが、一方で、こうした強大な力を持った「流れ」は水難事故を起こす危険な状況を生み出す力にもなりえます。

このように、ひとえに川と言っても、いろいろな地形、流れ、深さがあり、川それぞれのリスクが必ずあります。それを理解した上で、周辺にある注意喚起の看板をチェックしたり、川に入る・近づく際はライフジャケットを着用するなど、遊びに行く前と当日のリスク確認をしっかり行っておくのが重要だと思います。中には、水難事故が多発している河川というもあります。我々財団は、水難事故が起きた場所に関する知りえた限りの情報をGooglemapにプロットしているので、ぜひチェックしてもらいたいです。

(「全国の水難事故マップ2003-2020」http://www.kasen.or.jp/mizube/tabid118.html

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大人自身の体験や知識を通して、川のリスクを子どもに伝えることが大切

―一般の方が、流域などの河川の知識を得るのに役立つ、おすすめの情報はありますか。

菅原:
2017年に学習指導要領が変わり、小学校の理科に「雨水の行方と地面のようす」という新しい単元ができました。この単元では、水が高いところから低いところへと流れて集まるという概念を学びます。これはまさに「流域」の概念につながる考え方です。流域という言葉は、ニュースなどで昨今耳にすることが増えてきた言葉ですが、小学校からこういった概念を学ぶことは、水害、水難事故から身を守ることにもつながります。だから我々もこうした学習の理解が進むようなアニメーション動画制作をはじめ、学校教育に対して河川のメカニズムを知っていただくための活動を積極的に行っています。

―河川財団では、小学生向けの動画も作られていましたね。かわいくて観ていて楽しいし、川について学ぶのにとてもよい内容だと思いました。

菅原:
国土交通省で作成した動画も含めて、小学校4年生から6年生向けに、流域の話や川の高低差が生まれた背景、日本の土地の起源やプレートとの関係などを学べる動画が一連で公開されています。先程ご紹介した流域の概念についても、5年生向け動画で紹介しています。

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「4年理科 雨水の行方と地面の様子」(河川財団)
https://www.youtube.com/watch?v=NI-Nt97da7o
「5年理科動画「流れる水の働きと土地の変化」」(国土交通省)
https://www.youtube.com/watch?v=tyD19IM8fZk
「6年理科動画「土地のつくりと変化」(国土交通省)
https://www.youtube.com/watch?v=KQNwTVVJymw

―保護者の方がお子さんへ川の安全について伝えるにあたって、どんなことが有効だと思いますか。

最近は、ご自身も川へ入ったことがないという親御さんも多くいらっしゃるかと思います。我々が以前とったアンケートによると、親御さんに川の体験があるほどライフジャケット所有率が高い傾向にありました。自身が川の流れの強さを体感したことがあれば、それに対する意識や身の守り方を子どもに伝えやすいですが、そうした体験がない場合はなかなかむずかしいかもしれませんよね。だからこそ、川のリスクを自ら学ぶということが大切だと思います。

国土交通省の事業の一貫で小学生向け動画「リバーアドベンチャー ~川に魅せられし者たち~」という動画を作成しました。幼稚園から小学校低学年向けに、川のメカニズムや川でどういった危険が起こるかを知り、装備や対処法を学べる動画になっています。こういった動画を親子で一緒に見るだけでも、川の安全に対しての理解を深めることができるのではないでしょうか。

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川を理解し、リスクにそなえることが、川での楽しい思い出づくりにつながる

―お二人が感じる、川の楽しさや魅力を教えてください。

泉井:
最近、長瀞でラフティングを体験したのですが、豊かな自然や景色、その川にまつわる地層や歴史をガイドの方から教えてもらい、川での水遊びから文化的なことまで知ることができてとても面白かったです。泳ぎが得意な方ではないので水に慣れない恐怖もあったのですが、それ以上に癒されましたし、ライフジャケットを着て浮いているだけでも楽しかったですね。今度は自分のライフジャケットを持つなどの装備を整えて、甥っ子や姪っ子を連れて行きたいなと思っています。

菅原:
川の流れは時にリスクを伴いますが、例えばラフティングなどのように流れを利用した遊びなどを通じて味わえる楽しさやスリルもあります。ただそこで、何も装備がない状態で挑んでしまうと事故に遭う確率が格段に高くなってしまうので、装備を調えて知識を得て、さらに天候などの情報を確認するなどのそなえをしっかり行った上で川遊びに親しむのが良いと思います。この行動の繰り返しが、川での経験を可能にし、楽しい思い出を作ることにもつながるのだと思います。

―川の特性を学んでもらうために、河川財団では学べる場づくりにも力を入れているそうですね。

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泉井:
はい。財団では活動の一つとして毎年、職員向けに川の指導者講習会を開催しています。私も先日参加しましたが、実際に川を横断したり、スローロープを投げる救助体験を行いました。救助しようとする側のリスクもあるため、こうした日頃の鍛錬の必要性をとても感じましたね。

実体験の他にも、アメリカで開発された水教育のプログラムで、財団でも学校等へ活用を推進している「プロジェクトWET」というガイドブックを教本に、川や海、生活用水を含めた水の循環等を座学で学ぶことができる内容になっています。例えば、水の分子となって、地球上の水循環を体験する「驚異の旅」というアクティビティがあります。すごろくのように、サイコロの出た目に応じて、海、川、雲、植物、土などのフィールドに移動し、川の水は海に流れる、海の水は蒸発して雲になるなど、水の循環をゲーム形式で学ぶことができる体験型のプログラムです。

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「プロジェクトWET」のプログラムの中にはこうした約60種類のアクティビティがあり、それらを学ぶ指導者養成講習会では水とのつながりや川と海の関係性等を楽しく学ぶことができます。18歳以上であれば誰でも受けられる講習会なので、興味のある方は、河川財団のWEBサイトに掲載されている講習会情報(「project WET」https://www.kasen.or.jp/wet/tabid121.html)をぜひチェックしていただきたいです。

―最後に、河川財団・子どもの水辺サポートセンターの今後について想いをお聞かせください。

我々は「川は危険」をアピールするのではなく、「川にはこんなリスクがあって、こういった対処法がある。楽しむためにも川を理解して、川に親しんでいきましょう」というメッセージを発信する公益法人です。これからも、川の持つ災いと恵みの両方の部分を伝えながら、たくさんの方に川を知り、川に親しんでいただけるような取り組みを行っていきたいと思っています。

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菅原さん、泉井さん、ありがとうございました! 川と海。管轄は違えど、同朋ともいえる河川財団さんのことを知ることができて嬉しかったですし、とても勉強になりました。水辺の安全を願う気持ちは、川も海も一緒だと改めて強く実感できたインタビューでした! 河川財団さんのWEBサイトや動画には水辺の安全に役立つ情報が満載なので、この機会に皆さん、ぜひ見てみてくださいね。

■インタビューに出てきた情報やその他の関連情報はこちら!
・国土交通省「リバーアドベンチャー」の動画 
https://www.youtube.com/watch?v=IrIkZCm11l0
・「小学校4年理科 雨水の行方と地面の様子」
https://www.youtube.com/watch?v=NI-Nt97da7o
・「5年理科動画「流れる水の働きと土地の変化」」
https://www.youtube.com/watch?v=tyD19IM8fZk
・「6年理科動画「土地のつくりと変化」
https://www.youtube.com/watch?v=KQNwTVVJymw
・「project WET」
(WEBサイト)
https://www.kasen.or.jp/wet/tabid121.html
(パンフレット)
https://www.kasen.or.jp/Portals/0/images/project_wet/membersite/wetpanfu.pdf
・水辺の安全ハンドブック
https://www.kasen.or.jp/mizube/tabid129.html
・水難事故防止に関するデータ「No More水難事故」
https://www.kasen.or.jp/mizube/tabid324.html