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可愛くてごめん

随分と、昔の話である。
恋人だと思って付き合っていた男性に、実は本命の彼女がいると気付いたことがあった。
簡単に言えば、二股をかけられていることがわかって、私は超絶、激怒し、大いに責めたてた!(これって、普通の反応ですよね?)

するとその男性は、さも、やれやれといった表情で、
「……ちえは案外、嫉妬深いんだなぁ……」
と、言い放ったのだ。

嫉妬、とな?
その一言に私は、より一層、激怒した。
なぜなら、その言葉の裏に

——そりゃあ二股は褒められることじゃないけど、そんなに激怒するって、ちょっとどうなの? そういう嫉妬深い女に当たっちゃって、俺の方がかわいそうじゃね?

という本音が、透けて見えてしまったからだ。

自分の非を決して認めず、相手を貶めることで自分の優位性を保つ。
思えば若い頃の私は、こういうタイプの人にばかり振り回されてきたのだった。


嫉妬(しっと)とは、自分より他人の方が優れている、あるいは自分より他人の方に愛情が向けられている、といった認識に伴って生じるネガティブな感情のことである。
一般的には、羨望と悪が含まれる攻撃的な感情と捉えられる。

Weblio辞書より引用

自分より他人の方が優れていることに、嫉妬心が芽生えることはある。また、自分より他人の方に愛情が向けられているケースだってざらにあるし、どちらの場合も、冷静にジャッジして「あぁ、この人には敵わないなぁ」と認めざるを得ない時には、素直に受け入れるより外はない。

そうしてせめて、その優れた人の、良いところを積極的に真似したり、あるいは自分自身の能力を、少しでも高めようと努力することでしか、嫉妬心を超えていく解決策はないのだ。

いたずらに僻んだり妬んだりして、自分より優れた人を、不当に貶めたり虐めたりすることは厳に慎むべきだ。
——それが、私のささやかな矜持でもあった。


恋愛における「二股」は、これらとは違う。
それぞれに知らせることなく、複数人と同時並行で交際することは、裏切りでしかない。
大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、尊厳が傷付けられるのだ。

尊厳とは、人間が持つ生命や人格を尊重し、その価値を認める態度を指す言葉である。
これは、人間が生まれながらにして持つ権利であり、他人による侵害や侮辱から保護されるべき存在である。
尊厳は、個々の人間が自己を尊重し、他者を尊重することで実現される。

Weblio辞書より引用

大切にされない。
尊重されない。
ぞんざいに扱われる。
軽んじられる。

心理学によると、それは外ならぬ自分自身が、自分を大切に思っていないことの現れなのだそうだ。
なので必然的に、そういう相手を引き寄せてしまっていたらしい。


あれから、長い長い年月が流れた。
何度も転んでは、立ち上がり、いくらか大人になった私は、その度に多くのことを学んできた。

——自分の尊厳は、自分で守らなければならない。
——そのためにはまず、自分自身を不当に貶めることはやめる。
——そうして、過大でも過少でもない、等身大の自分を受け入れる。

「自分で自分を大切にする」ことは、難しそうに見えて、意外と簡単だったりする。
あと少しだけ、自分を好きになってやればいいんだ。

新しい私のために、
新しい夏物のワンピースを買いに行こう。
夏本番は、もうすぐそこまで来ている。


自分の味方は自分でありたい
一番大切にしてあげたい
理不尽な我慢はさせたくない
それが私

可愛くてごめん / HoneyWorks


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