鏡よ 鏡、
今度の街は
落ち着いた人通りで
奇抜ではないけれど
意思のある佇まいの店が
粛々と生きていると感じられるところだった。
お昼休みは どこに出掛けよう?
駅から店までの道のりを
カフェや 定食屋さんなどを探しながら歩く。
これから2週間。
いろいろな店を楽しんでもいいし
気に入ったならば
期間限定の常連を楽しんでみてもいい。
気候もいいし
パン屋さんでパンを買って
公園で過ごすのも悪くない。
昼の休憩を取る時間は
その日の流れを見ながら決めるのだけれど
1時間半 きっちりと外出することにしている。
あの空間に居続けるのは 負担が大きい。
ランチの時間帯に間に合えば
肉豆腐や焼魚が美味しそうな定食屋さん。
時間帯がズレるようならば
角の喫茶店にしようかな と考えているうちに
今回の店となるギャラリーに到着した。
期間で出展者の変わる
レンタルスペースのようなところを転々としながら
わたしは 鏡屋を営んでいる。
借りた鍵で扉を開ける。
一昨日、昨日とかけて設えた店内に光が入る。
しばらく空気を入れて 店内を見渡しチェックをする。
大丈夫。
みんな 諍いを起こすことなく 並んでいる。
奥の一角に
ベージュの布を天蓋のように垂らし
小さなテーブルセットを置いているのが
わたしの場所。
扉にベルをつけたので来客の際は
コロンコロンと知らせてくれる。
その時はドレープのように布を束ねて
店内を見渡せるようにするのだ。
鏡というのは
本来とても強い力を持っているので
このように 同じ空間に たくさんの鏡を置くには
非常に気を遣わなくてはならない。
いくつかは布を被せておいたりもするけれど
それでは お客様との出会いを妨げてしまうので
極力並べ方などを工夫する。
鏡同士が喧嘩してしまうと
割れてしまうこともあるのだ。
それを感じとることのできる私にとって
この仕事は天職ではあるけれど
自分の心身の健康には十分気をつけなければ
すぐさま参ってしまうだろう。
そんな力を持った鏡が
ここには いくつもあるのだ。
大きなアンティークの姿見を入り口に出す。
開店だ。
この鏡は非売品。
必要としているお客様を呼び込んでくれる。
店の扉のような役割の鏡なのだ。
お客様が来るまでは
販売した鏡のアフターフォローなどの事務仕事
鏡作家さんやアンティーク業者との連絡
鏡の手入れなどをして過ごす。
さて。
今日は どんな出会いがあるのだろう。
そして。
お昼には 何を食べよう。
朝の光の中で
鏡たちが きらりと艶めいている。