母系の裔 50句
かあさんはよそゆきのこゑ春日傘
水筒の甘茶すくなし孤りじめ
仏生会が予定日だつた母の角
隣客のあたまおもたき目借時
駅遠の家路まつすぐ春夕焼
春宵の電子決済子規句集
始末書もペーパーレス化つばくらめ
春風はまたビル風やピルエット
わが母に思春期ありき花曇
春愁やバームクーヘン穴でかし
いなりずしは三角がよし南吉忌
昭和の日祖母の遺品の夥し
藤の房ウォーターフォールめく青さ
箱に箱つめて八十八夜かな
愛憎や修司忌の母こどもぶる
すれつからしのアイスコーヒー罵るべし
海のない区から海まで笹の舟
夜の蟬わめきて中途半端な街
火曜日の街ごとノイズキャンセリング
猛暑日や恐竜皺むシャツの腹
偏頭痛きざす車窓に晩夏光
ウォッシャブルスーツの皺に夕立を
政治家や薄さを競ふテレビジョン
見たいもののみ見ては花とべら消す
ガーベラの水切り釣瓶落しの日
賢治忌の林檎の皮の螺旋かな
恋の詩に更正記号アスチルベ
恋といふほどでもなくて公孫樹の黄
暗き道ばかり選んで星月夜
母といふ大人になれず誕生日
横須賀線遅れやすくて希死念慮
年の瀬のバスを逃して青い空
ビー玉のなかのさかさま冬銀河
出来の良い娘ではなく福笑ひ
ただ母の一語に尽きる去年今年
たんぽぽの白い血父性は信じない
レタス剝ぐ母系家族の裔として
京太郎忌満員電車といふ密室
花冷や夜勤の鬼の置き手紙
桜月夜わるい上司の陣地取り
今はただの不良中年春満月
微苦笑を覆ふマスクよ春寒し
くちびるの皮剝ぎとりぬ飛花落花
人生は折返されて千羽鶴
肩書のなき春休み猫おもし
春眠の猫によりそふ吾も猫
さやうなら寺の躑躅の真っ赤っか
桜蘂さかさまつげの痛みあり
死に顔に皺多かりき八重桜
垂乳根や満天星の鈴の黙
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