グラフィティ 50句
荊刺線を絡みつかせてゐる孤独
戦争よ春の苺の値あがりよ
ナウシカの乳房やさしも聖五月
琥珀色の水割り甘し新樹光
詩を捨てに青岬までオートバイ
いとけなき馬の眸の青野かな
青芝に寝転び空になる心
紫陽花の毬幸うすき女めく
言の葉やTLといふ瀑布
統制や向日葵はみな東向く
草城も茅舎も知らず蟄居かな
愛猫の寝相おそろし熱帯夜
裏路地にうなぎの夢を見るか猫
逝きし父なほ憎む夜の蟻地獄
根無草めけり夜宮を浮游して
喀血のごと掌に金魚濃し
七夕の安いワインや恋に酔ふ
晩夏光すなはち孤悲の亡者の眼
自転車の死神ゆけり夜の秋
風死して満身創痍のオートバイ
仏法僧ギプス淫語にまみれけり
露伴忌の傘が未だに濡れてをり
無花果の花 人生に意味ありや
朝焼のスキャット最も若き今
波走るビニールシート海とほく
光太郎より玄師へと檸檬の香
腹筋を割つて残暑の部屋にほふ
捨ておかれ光る榠樝の嚙み跡が
鏡花忌のハッブル宇宙望遠鏡
わが脊髄回転軸に大銀河
長き夜やコーヒーミルを軋ませて
教室を流るるひかり天使祭
月光に濡れたるオートバイを抱く
廃駅や秋の仔猫を懐に
人恋はば遠きくちびる新煙草
凩や啄木の肺思ほゆる
寒浅きハードボイルドエッグ食ふ
試験期の学生食堂冬灯
千枚の皿あかぎれの親指よ
悴んだ思想いくつかマッチ売り
静電気冬毛の猫に愛されて
粉雪は積もらざるまま夜明けまで
嚔くしやみ花粉まじりの孤独にて
デイジーや恋をしてゐるわけぢやない
ラーメンを啜る眼鏡や花曇
目に春塵こぼしてしまひたる本音
執心や飛花の扉のグラフィティ
花冷の窓、窓、窓を射る月よ
月光が砕けて尾崎豊の忌
キャンパスにさやぐ葉桜 恋だつた
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