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匙投げ小説執筆法 10.文章と文体

文章と文体



⑴文章作法

あなたの書く文章は、読者にとっての楽譜だと思ってください。読者は文章を初めに音として再生し、次に映像として立ちあげ、物語の世界へ没入します。まず音としての文章を意識しましょう。音楽のように長短の文を織り交ぜたほうが、リズムが生まれやすいです。

自分の文章を音読してみましょう。音読が苦手な方は「文章読み上げ」機能を使用してください。文章のひっかかりやまどろっこしさが浮き彫りになります。

副詞(ふと、ちょっと、とても、少し)と形容詞(美しく、激しく、悪魔的に)は、削減できるだけすべきです。修飾語がなくても通用する、適切な言葉を選ぶことで、文章の強度が増します。修飾語はどうしても必要な場合のみの使用にとどめてください。

基本的に、1つのセンテンスのなかに、動詞は4個以下。どんなに増えても5個までです。動詞は少なければ少ないほどベター。動詞を減らすと描写が不足になる場合は、2つのセンテンスに分けてしまいましょう。しかし、最強なのは動詞0個の体言止めの文。以下に例をあげましょう。

〝夏の暗闇で母親がいびきをかいている〟

もしくは、

〝夏の暗闇に母親のいびきがきこえる〟

が普通の文ですよね。それをただ、

“夏の暗闇に母親のいびき〟

と動詞なしで表現することも可能なわけです。無駄ゼロです。もちろん体言止めばかりではリズムが悪いので、動詞で終わる終止形の文も織り交ぜてください。強調したい部分だけを体言止めにするというテクもありです(文章そのものを磨きたい方は、俳句や短歌などの短詩を極めると良いでしょう。短詩に無駄な語はあってはなりません)。

動きのあるシーンなどで、文章のテンポを上げたければ、動詞が0〜2個の短文を多用しましょう。短文を重ねて登場人物の動作や体感や心理をきっちり描写すれば、緊迫感が出ます。

物語が終盤に近づいたら、文章のテンポを上げましょう。長ったらしい描写を避け、アクションに重点を置きます。名詞と動詞と目的語だけでいいのです。最後の十数ページを息もつかせず読ませてこそ、読者は満足します。

比喩(〜のような、まるで〜だ)は、1つのセクションに詰めこみすぎてはいけません。セクションの長さにもよりますが、1ページに比喩が5つ以上もあったら多すぎます。1つの段落に比喩は1つ、多くても2つ。2つの比喩を並べる場合、比喩の内容に統一感を持たせることです。

段落ごとに比喩を用いるのも考えもの。各比喩の効果が薄まってしまいます。比喩を使ったということだけで自己満足に陥ってはなりません。何かに喩えたくなったら、ぐっとこらえて。その比喩は物語に奉仕していますか? ここぞというとき、ここ一番の比喩を使いましょう。


⑵文体について

文体とは、です・ます調とか、だ・である調とかの表面的なものではありません(それも狭義の文体ですが)。

小説における文体とは、物語の着眼点・切取り方・見せ方のことであり、その作家に独特の持ち味です。

漫画を例にしましょう。各漫画家が、独自の構図とコマ割りのスタイルを持っています。文体はそれと同じものです。

どんな物語も、どんな題材も、どんな背景も、何度となく語られ、使い古されてきました。作家に残されたフロンティアは、作品に反映される作家自身の独自の視点のみです。作家の態度・人生観・夢・希望・おそれ・憎しみ・徳・欠点……これらの全てが文体を豊かにします。今や作家の売りこめる唯一のものが文体なのです。

次、11.ネーミング

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