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匙投げ小説執筆法 11.ネーミング

ネーミング



⑴題名とペンネーム

キャラの名前よりも重要なのが、題名とあなたのペンネームです。書店やECショップで、まず読者が目にし、購入の判断材料にするものです。

題名をテキトーにつけてしまう人がほとんどです。新人賞の選考の段階で題名の良し悪しが加味されることはほぼありませんが、いったん書籍化(あるいはWeb発表)した場合、題名はあなたの名刺がわりになり、それがデビュー作や代表作となれば、あなたの作家人生に一生ついてまわります。いえ、あなたの死後にも残るかもしれません。真剣に考えてください(作家の石田衣良氏は、題名に最低1ヶ月はかけろとおっしゃっています。至言です)。

小説の題名は、本編の何をクローズアップするかという作者自身の指針であり、どこに注目してほしいかという読者への標識、そして読者がふれる真の「最初の一文」です。あなたにとって作品のどの要素が重要か考えましょう。重要なのがキャラならばキャラの名前や属性を、モチーフならばモチーフを活かした措辞や修辞を、舞台ならばその舞台を統括する地名・施設名などを用います。頭のなかでぐるぐる考えるよりも、メモに一覧で書きだすとよいです。時間をおいてから冷静に再検討できますし、そのときに意外な化学反応が起きることもあります。百パターンほど考えて、最良のものを選びましょう。脳を使うな、手を使え。

誰でも思いつくようなシンプルすぎる題名(例:「初恋」「告白」「約束」「スイートホーム」etc……)は、賞の選考においても書店に並ぶ際においてもその他大勢に埋もれてしまいます。あなたがネームバリューだけで売れるようになるまでは(できればそのあとも)、きちんと頭を捻ってください。

既存作品を文字っただけの題名はよしましょう。してやったり、とほくそ笑んでいるのは作者ばかり。オリジナリティもセンスもない作家だと読者に腐されるのがオチです。

なお、題名の具体例は、12.題名の基本形、をご覧ください。

ペンネームでこだわるべき点は、以下の7つです。

①字面がいい。
②語感がいい。
③説明しやすい。
④サインしやすい。
⑤検索しやすい。
⑥人とかぶらなそう。
⑦素顔をさらして名乗っても恥ずかしくない。

意外と見落としがちなのは⑦です。あなたが編集者や作家仲間に面と向かって呼ばれたとき、違和感なく恥ずかしくない名前にしてください。まあ、あなたが大御所になってしまえば、どんな名前でも様になるかもしれませんが。


⑵キャラ名

活字作品において、名前はキャラの「顔」です。ある意味、名が体を表すといえます。親戚の子に対するほどの愛着とこだわりを持って名付けてほしいものです。

こだわる作者ならば、命名に姓名判断を用いる人も決して珍しくはありません。画数など読者には関係なく無意味とも思えますが、こだわり抜いて一定の納得感を持つことで、あなたの執筆パフォーマンスが上がるならみっけもんです。どうせなら好きな「顔」を見ながら仕事をするほうがいいですからね。

姓名判断サイト(例:いい名前ネット)や、名前をつくってくれる便利なサイト(例:すごい名前生成器)を頼るのも良いですが、その場合はそのサイトを使っている他のユーザーとキャラの名前がかぶるリスクが出てきます。

キャラの名付けのさいは、思いついた名前を一度は検索してみて、有名人や先行作品のキャラとバッティングがないよう確かめたいものです。たとえ偶然でも、芸能人や人気キャラの名前とかぶった場合、作者の独創性の無さと受け止められてしまい、損です。万が一、名前を拝借した有名人が不祥事を起こしでもしたら、あなたのキャラのイメージまで悪くなるかも? もし有名人や先行キャラの名前を使いたい場合は、本家とは能力や性格や性別や職業を変えるなどの一捻りを。

林や南、出口や丹田など、一般名詞とややこしい名前も注意しましょう。たとえば渚という名前のキャラを臨海学校に行かせると、読者の頭はまちがいなく混乱します。

なんらかの狙いがない限り、同じ作品内で似た名前を使うのは避けましょう。タカ、タク、タケ。ミツルとミツグ。ツカサとツバサ。ナツコとアツコ。リオとリョウ。筒井と堤。たとえ遠藤と遠山のように読みが異なったとしても、なるべく漢字の重複も避けたい。読者の混乱を招くだけです。登場人物は少ないに越したことはありませんが、たくさんの名前を必要とする場合は、アルファベットと漢字による名簿をつくれば偏りは防げるでしょう。

主人公や主要キャラに華麗な名付けをする作者は多いです。あなたに狙いがあるなら構いません。しかし、そうでないなら華美だったり奇抜だったりする名は避けるべきです。たとえば伊集院、西園寺、綾小路、御子柴、小鳥遊、冷泉……こんな名前ばかり並んだら作品世界が嘘くさくなってしまいます。私見をいわせてもらうなら、変わった名は端役に使ったほうがリアリティが出ます(端役の名が鈴木、佐藤、山田では手抜きがモロバレです)。逆に主要キャラは平凡な名であっても、他の要素で個性や特別さをアピールできます(例:『ドカベン』の山田太郎、『名探偵コナン』の佐藤美和子、『池袋ウエストゲートパーク』シリーズの安藤崇)。


⑶固有名詞(地名・店名・社名・サイト名・商品名etc……)

創作のなかで架空の固有名詞を使う機会も出てくるでしょう。

ファンタジーなどの地名・店名は考えるだけで楽しいものです。魅力的な響きのものを創作してください。中国語・英語・ラテン語・エスペラント・サンスクリットなど、他言語を参考にするのも良いでしょう(Google翻訳などのアプリを駆使するのがオススメです)。

社会悪をえぐるミステリーなどで社名や商品名を使う場合は、実在の団体・企業とかぶらないようにするのが礼儀です(もちろん、事実を下敷きにした告発的な作品であれば別ですが)。企業から訴えられることはまずないでしょうが(訴えたら逆に作中の悪い企業のモデルという印象を強くしてしまいますから)、やはり実在の暴力団の名前などは使わないのが無難です。

とにかく、名前を思いついたら検索してみるという手間を惜しまないでください。有名な先行例があったり、あなたが思いもよらない使われ方をしているリスクがありますので。

次、12.題名の基本形

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