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ケモノの医者の体験談 vol.8 B動物病院の話 その③

B動物病院で働いていて少し不思議なことがありました。

B院長が代診時代に勤務していたM動物病院(vol.4)は、動物に漢方治療を取り入れていて地域では人気の動物病院だったので、当然そこで修行したB院長も漢方を扱っていました。

就職してしばらくは既に決まった漢方薬が処方されていた患者さんばかりで、指示されたお薬を分包する作業はあったものの、新たに処方するところは見たことがありませんでした。

処方のノウハウについてはきちんと東洋医学を学ぶべきだとは思いつつ、必ずしも教科書通りに動物で虚や実などの証を見分けられるわけではないので、臨床現場で実際にどのように漢方を選ぶのか学びたいと思っていました。

ある時、食欲が低下した猫が来院しました。

聴診、視診、触診などを行ったのち血液検査をして腎臓が悪いことがわかりました。

腎臓の病気の治療やケアのためにできることはいくつかありますが、B動物病院では漢方治療が基本なので、B院長は3つの漢方をピックアップしてどれが良いかを決めることにしました。

すると、処方する3つの候補の漢方薬のうちまず1つ手に持ち、その手を猫の体に当ててもう片方の手でオッケーのような輪をつくります。おそらくご存知の方もいると思いますが、ある一定の医師、獣医師、セラピストなどが用いている感覚的な手法で、これにより処方薬を決定していたのです。

この手法は必ず2人で行うのでB院長と動物看護師のBさんとペアで行っていました。1つ目がダメだと判断すると2つ目、3つ目と順に同じ方法で動物に触りながら確かめていき、その子に合っているサインが出た漢方を選びました。

こんな方法で処方する漢方薬を決めているのか、これはB院長が勤めていたM動物病院でも行っていたのか、漢方薬を動物に処方するにはこの不思議な手法を習得しなければならないのか。

子供のころにおまじないや魔法に憧れつつもそれらを成功させたことがない自分には到底できないと思いました。

師匠に聞く

そもそも最初にどうやって3つの漢方を選んだのかもわからないですが、それを1つに絞るためにあの手法をもちいるのが常識なのかどうなのか。

どうしても納得がいかなかった私は、B院長の恩師であるM動物病院の院長に会いにいきました。M動物病院は私が就活をしに行ったとき(vol.4)にお世話になったところで、そこで勤めることは叶わなかったけど、B動物病院を紹介してくれたのはM院長です。

もし同じことをしていたらこんなことを聞くのは失礼にあたるかもしれないし、気を悪くされるかもしれません。

質問するのにすごく悩みながらも、これからずっとB動物病院で頑張れる自信がなかったので、勇気をだしてM院長に聞きました。

「B院長は漢方薬を処方するときにこういう手法を使っているのですが、これは一般的なことですか?」と。

するとM院長はとてもびっくりして即行で否定しました。

漢方薬はパズルのようなものだけど科学的根拠に基づいているので、きちんと学べば必ず処方は1つに決まる、と。

そもそも3つも候補があがるわけはないし、ましてや動物に手をあててどれが良いか決めるなんてことはあり得ないと仰っていました。

色々あって苦労して、どうかしちゃったのかしら…と心配そうでしたが、同時に「B動物病院は辞めたほうが良いわね」と私に言いました。

M院長の言葉を聞いて私はすごく救われたような、ほっとしたような気持ちになりました。

そして新たにM院長は別の卒業生の先生を紹介してくれましたが、その先生は今は獣医を雇う余裕がない、同級生のところで募集しているけれど欲しがっているのは男性獣医師だからダメかもしれない、でも行くだけ行ってみてということで、Y動物病院へ面接へ行かせてもらえることになりました。

B動物病院には、働きだしたものの夫の理解を得られず…ということで夫を悪者にし、円満に退職しました。

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