見出し画像

群雄割拠の戦国時代!ドラッグストア業界を#マーケティングトレース

ドラッグストアと言えばどの会社の名前が真っ先に思い浮かびますか?
北海道に住んでいる方は「ツルハ」、九州に住んでいる方は「コスモス」と、全然違った名前が思い浮かぶのではないでしょうか。

日本チェーンドラッグストア協会によると、2018年度の業界市場規模は約7兆2,744億円と、成長が続いているドラッグストア業界。

そんなドラッグストア業界の代表3社

・業界首位のツルハHD
・業界2位のウエルシアHD
・業界5位のマツモトキヨシHD

について、4P分析を行いましたが、各社の戦略の違いが表れていて、とても興味深い結果となりました!

ちなみにこちらの分析内容、会計クイズのコミュニティ、ファイナンスラボの「業界地図勉強会」で発表させていただいたのですが、面白かった」と言っていただいてうれしかったです^^
(なんと120名もの方が参加されていたようです驚)

ウォーミングアップ問題(会計クイズ)

スライド1

会計クイズの勉強会用ということで、会計クイズを2問用意しました。
もしよろしければ挑戦してみてください!
(2問目は難易度高すぎかもしれません・・・)

まず前提知識として業界の背景から。
冒頭でも記載したとおり、ドラッグストア業界は市場が成長している業界ですが、一方、多数の企業が進出しているレッドオーシャンの市場でもあり、群雄割拠の戦国時代にあります。

スライド2

今回の問題に登場するのはこの3社

スライド3

スライド4

それぞれの企業の特徴をポジショニングマップに表すと、このようになります。

スライド5

ツルハHDは、北海道が地盤のツルハドラッグを筆頭に、くすりの福太郎や四国のレディ薬局などを傘下にもつ売上高業界トップの会社です。

医薬品から食品、雑貨まで、なんでも揃う品揃えが特徴です。

スライド1

スライド5

ウエルシアHDは、元は「グリーンクロス」、「コア」という会社からスタート。後にウエルシア関東株式会社となり、静岡が地盤の高田薬局やイオン系のCFSコーポレーションと統合して規模を拡大してきた会社です。

実は、2018年度にツルハHDに抜かれるまでは業界トップでした。
医薬品、調剤に力を入れています。

スライド1

スライド3

マツモトキヨシHDは、都市型ドラッグストアの草分け的な存在で、関東を中心に店舗展開しています。
配下には「どらっぐぱぱす」などがあります。

近年は「美と健康」に力を入れた経営を展開しています。

スライド3

スライド5

さて、ここからが問題です。

スライド6

3社のバランスシートが並んでいます。
ウエルシアHDのバランスシートはどれでしょうか?

スライド7

続けて2問目

スライド10

今度は3社のPLの問題となります。
「美と健康」に力を入れている、マツモトキヨシHDのPLはどれでしょうか?
(ヒント:マツモトキヨシのオリジナル商品が最近話題になっています)

スライド11

下にスクロールすると正解発表です。
準備はよいでしょうか?







スライド8

問題①の正解は「②ウエルシアHD」でした!

スライド9

続いて問題②の解答です。

スライド13

問題②の正解は「①マツモトキヨシHD」でした!

ここから3社の4P分析に沿って、問題の解説をしていきます。

3社の特徴(Place)

スライド16

市場シェアの獲得が業績拡大に寄与するため、3社ともにドミナント戦略を採用しています。

スライド17

ドミナント戦略は小売業界でよく使われる戦略で、同一エリア内に集中して出店することで、競争優位性を確保する戦略となります。

セブンイレブンなどの大手コンビニチェーン、スーパーなどでも、このドミナント戦略が使われています。

スライド18

ドミナント戦略を成功させるための方法として、自前で出店するのもありますが、出店先の候補を調べ、物件を確保し、店内を改装してと、自前での出店には手間と時間がかかります。

そこで有効なのが、M&Aで「時間を買う」方法です。
相手側との交渉が必要なため、ハードルは高いですが、合意できれば一気に陣地を広げることができます。

3社とも、自前での出店とM&Aを有効に使って陣地を拡大してきています。
グループ配下には、買収した会社がつらなっています。
買収先は地元で知名度が高い会社も多いため、ブランドは変更せず、元の知名度を活かす戦略をとっています。

スライド19

ウエルシアHDのドミナント戦略を例にとってみてみます。

ウエルシアHDは、市場に対して自社グループがどれだけシェアを確保しているのかを公表しています。これを見ると、強い地域、弱い地域が一目瞭然です。
この中でひときわ目をひくのが、静岡県での同社のシェアです。なんと、静岡県の約半分がウエルシアHDの店舗となっています。

スライド20

実際、静岡駅前を検索してみると、駅前にウエルシアが密集しています。
ファイナンスラボの勉強会でも、静岡県民の方から、

「静岡県民ですがウエルシアしかないです笑」

とのコメントをいただきました笑

スライド21

なぜ静岡県にこんなにウエルシアが多いのか?
ツイートしたところ、スギヘーさんに教えていただきました。
静岡県が地盤の高田薬局やCFSコーポレーションを買収した結果、ウエルシアだらけになったようです。

では、このドミナント戦略が各社のバランスシートにどのように表れてくるのでしょうか?

店舗関連の資産として、固定資産の「有形固定資産」、「差入保証金(敷金及び保証金)」に特徴として表れています。

スライド22

まずツルハHDです。

ツルハHDでは基本的に、店舗は賃貸物件を借りて出店を行う方針をとっています。
そのため、有形固定資産の割合が少なく、差入保証金の割合が多くなっています。

スライド23

次にウエルシアHDです。

自社保有か賃貸かの明確な記載は見つけられませんでしたが、有報の設備の状況をみると、関東や中部地方の建物や土地の帳簿価格が大きいのがわかります。

このことから、過去にM&Aした企業が土地建物を保有していたなどの理由で、ウエルシアHDは多くの店舗を自社で保有していると考えられます。

スライド24

最後にマツモトキヨシHDです。

マツモトキヨシHDは郊外型の店舗もありますが、首都圏の駅前や駅やSCなどの施設内に多くの店舗を展開しています。

こうした店舗は賃貸契約で借りているため、ツルハHDと同様、有形固定資産の割合は大きくならず、敷金・保証金が大きくなる特徴が出ています。

スライド25

3社の特徴(Product)

スライド26

続いて3社の主力商品をみていきます。

一般的にドラッグストアは、食品や雑貨で客寄せをし、医薬品や化粧品を合わせて買ってもらうことで利益を出すと言われています。
出店戦略はドミナント戦略で3社共通でしたが、主力商品も同様なのでしょうか?

実は3社はそれぞれ異なる商品が主力商品となっています。
順に見ていきます。

スライド27

まずはツルハHD

こちらは先ほどお伝えした、ドラッグストアの王道の稼ぎ方をしています。
雑貨や食品で客寄せし、利益率の高い医薬品、化粧品をついで買いしてもらうことで利益を稼いでいます。

スライド28

ツルハHDの特徴は、なんといってもその品揃えの豊富さです。
なんと、野菜やお肉まで売っています。
こうしてみると、ツルハHDの競合はスーパーと言ってもいいかもしれません。

スライド29

スライド12

次にウエルシアHD

こちらはドラッグストアの名の通り、医薬品や調剤などの薬で稼いでいます。

スライド30

ウエルシアの利用者には高齢者が多く、ウエルシアは「地域の薬局」を目指しています。

店舗の一部を地域住民にコミュニティスペースとして貸し出すなど、食品や雑貨ではなく、暮らしや健康の困りごとを解決する場として店に来てもらうことで、売上につなげる戦略です。

スライド31

スライド33

最後にマツモトキヨシHDです。

マツモトキヨシHDの特徴は、化粧品の割合の多さです。

スライド34

マツモトキヨシは近年「美と健康」に注力しています。

女性の間では、手頃な価格で高品質な「プチプラコスメ」が大人気のようです。メーカー品だけでなくPBブランドも手頃な価格で品質がよく人気になっており、記事や動画で絶賛されています。

2017年には、美容に特化した「BeautyU」を銀座にオープンさせるなど、美容分野にかなり力を入れているようです。

スライド35

3社の特徴(Price)

スライド36

商品の特徴の次は、上記であげた主力商品の違いが各社の利益にどのような影響を与えているのかみていきます。

まず基本的に3社ともに、基本的には仕入れてきた商品を消費者に売る小売業です。
付加価値がつけづらい薄利多売のビジネスモデルのため、営業利益率はいずれも1桁と低めです。

スライド37

まず、売上原価から見ていきます。
3社の売上原価率を比較すると、ツルハHDは高く、マツモトキヨシHDは低くなっています。

スライド38

ツルハHDの主力商品は雑貨、食品でした。
これらの商品はスーパー、コンビニ、ホームセンターなどでも買える場所も多く、店舗に来てもらうために値段を安くする必要があります。
そのため、医薬品や化粧品と比べると粗利率が低く、売上ベースでは雑貨・食品で売上高の50%もありましたが、粗利ベースでは35%と低くなります。

粗利率が低い商品の割合が多いため、原価率は高めになります。

スライド41

ウエルシアHDの主力商品は医薬品・調剤でした。これらは粗利率も高いため、利益ベースでは半分近くを占めてきます。
そのため、ツルハHDと比べると、原価率は低くなります。

スライド42

マツモトキヨシHDの主力商品は化粧品です。化粧品は粗利率の高い商品であり、さらに粗利率の高い医薬品の売上割合も多いため、この2つで粗利の8割を占めています。

さらに特徴なのがプライベートブランドの割合の多さです。
ツルハHD、ウエルシアHDの2倍近い10%を超える割合となっています。

以上の結果、売上原価率が3社で最も低い値となっています。

スライド42

スライド43

次に販管費率です。
こちらは3社でほとんど差がありません。

スライド44

販管費の内訳をみると、ウエルシアHDの賃料が低いのがわかります。

これは場所(Place)の特徴で述べた通り、ツルハHD、マツモトキヨシHDは賃貸ベースで店舗展開しているのに対し、ウエルシアHDは自社保有店舗の割合が多いためです。

スライド45

勉強会のあと、Knightさんが他の会社についても調べてくださいました!!
これをみると、マツモトキヨシHDの粗利率や営業利益率の高さは業界の中でも際立っていますね。

3社の特徴(Promotion)

最後に3社の広告宣伝の特徴です。

スライド46

顧客囲い込み戦略の1つに「ポイントカード」があります。
3社ともにポイントカードを発行していますが、ウエルシアHDのみ自社のポイントカードではなく、Tポイントカードとの提携を選択しています。
その理由について、同社の顧客層から推察します。

スライド47

ウエルシアHDのコア顧客は「30~40代の女性(主婦層)」と「高齢者」です。
この客層は「お得さに敏感」であり、そのお店でしか使えない自社ポイントカードより、スーパー、コンビニなど様々な所で使うことのできるTポイントカードの方が好まれると考えられます。

スライド48

ウエルシアHDは、そのお得さを示すため、大胆な販売促進策を打っています。それが「Tポイントで1.5倍の買い物ができるキャンペーン」です。
このキャンペーン、実質33%オフで買い物ができるとあって、「ウエル活」という言葉で呼ばれるほどに節約術として有名になっています。
(インスタでは#ウエル活で約21万件も投稿がありました笑)

スライド49

ちなみに自社でポイント発行している2社は、バランスシートの流動負債のに「ポイント引当金」が計上されているという特徴があります。
(ウエルシアのTポイントは販管費として費用計上)

スライド50

ドラッグストア業界の業界再編

スライド51

最後にドラッグストア業界の業界再編について説明します。
先日、マツモトキヨシHDとココカラファインの経営統合が話題になりました。

スライド52

この経営統合により、業界の順位がまた入れ替わることになります。
具体的には、マツモトキヨシHD+ココカラファインが業界売上高トップとなります。

スライド53

この経営統合により、マツモトキヨシHDとココカラファインの経営戦略はどう変化するのでしょうか?
4Pを使って推測してみました。

まず何度も出ていたとおり、マツモトキヨシHDは化粧品に強みがあります。

スライド55

一方のココカラファインは、医薬品・調剤に強みがあります。

スライド56

2018年度の両社の商品別売上高から統合後した結果が以下のグラフです。

「化粧品」と「医薬品」というお互いの強みが相互補完しあう形となり、より利益の出せる体質になると考えられます。

スライド57

また、商圏という点においても、都市型のマツモトキヨシHDと住宅地や郊外に店舗数の多いココカラファインが統合するため、カニバリは少なく、お互いに手薄な商圏を補完する形となります。

スライド58

ここまでの分析結果から、両社の経営統合後の戦略を考えてみます。

スライド59

経営統合後1年程度は「ゆるやかな統合」になると考えられます。
PBの共同開発やアプリを使った相互送客など、本部や現場が混乱しないように配慮した施策に留まると考えられます。
一方、業務プロセスの統合に向けた検討や、顧客データの統合など、将来に向けた下準備を並行して行います。

そうして十分な準備を整えた後、3年程度先で本格的な打ち手が実行されます。
例えば販管費削減のための店舗運営や配送の共通化、ブランドの統廃合なども進むかもしれません。

個人的に注目しているのは「データ活用」です。
両社はすでに顧客のデータを使ったプロモーションやサービス開発に力を入れています。
特にココカラファインには医薬品や調剤の販売データが大量に蓄積されています。こうした医療データにマツモトキヨシの商品開発力や広告配信における強みをかけ合わせると、一人ひとりの健康状態に合わせた化粧品の開発・販売など、個人に最適化した商品やサービスを提供することが可能になるかもしれません。
こうしたデータをさらに活用するため、ヘルステックのスタートアップと組むなど、ドラッグストアの枠を超えていくことも考えられます。

両社の今後に注目していきたいと思います。

スライド60

スライド61

ちなみに今後、業界トップの座を明け渡すことになるツルハHDですが、実はウエルシアHDと同じイオン系だったりします。

イオン主導でハピコムというドラッグストアグループを形成しており、今回のマツモトキヨシHDとココカラファインの統合を呼び水として、今後、さらなる業界再編に発展していく可能性があり、こちらも注目です。

スライド62

スライド63

おわりに

いかがだったでしょうか。
同じドラッグ業界でも掘り下げてみていくと、各社の戦略に違いがあること、その戦略の違いが財務諸表に表れていることがわかります。

今回の分析、主催者の大手町のランダムウォーカーさん業界地図副編集長の中山さん、そして発案者のおしばさんのおかげで「業界地図勉強会」という形で発表させていただきましたが、お三方や120名近くの参加者の方からコメントをいただき、とても学びが深かったです。

ファイナンスラボではこうした勉強会をどんどん開催していくそうなので、このnoteを読んで興味が湧いた方はぜひご参加お待ちしております!


いいなと思ったら応援しよう!

いごはち@学びの実践家
いつも支えてくれている嫁と息子に、感謝の気持ちとして美味しいお菓子を買ってあげたいと思います^^