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同じ「地図ビジネス」でも違いがはっきり!ゼンリンと昭文社HDを分析!

最近外出する機会が減り、目にする機会が減ってしまった地図。
とはいえ、初めての場所に行くときに欠かせないものですよね。

今回は「地図ビジネス」を扱っている2社に注目し、分析しました!
分析内容は、毎月恒例、ファイナンスラボの業界地図勉強会で発表させていただきました(^^)

「ファイナンスラボ」は会計クイズのオンラインコミュニティです。
(メンバー800人近くに増えていますね。スゴイ・・・!)

業界地図の元編集長中山さんを中心に、今回は

・大手町のランダムウォーカーさん
・おしばさん
・いごはち

で発表させていただきました^^

おしばさんのテーマは文房具業界!
「パイロット」、「三菱鉛筆」について詳しくなれますので、お時間ある方はぜひ読んでみてください。

今回の業界地図勉強会も100名を超える方々にご参加いただきました!
久しぶりの発表でしたが、初めての方にも、いつもお付き合いいただけている方にも楽しんでいただけてうれしいです^^

今回の登場企業はゼンリンと昭文社HD

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今回は地図ビジネスを展開する

・ゼンリン
・昭文社HD

について分析を行いました!
業界地図では「出版・書店」に登場していましたが、2021年版から「地図・ナビ」としても特集が組まれています!

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これまで「地図」の活用シーンとして、本、カーナビ、アプリが中心でしたが、最近、自動運転、スマートシティといった分野で「地図」が注目されています!

私が「地図ビジネス」に着目したのも、本業のデータ活用の仕事で、GIS(地理情報システム)に関わる機会が増えたからです。

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両社の共通点ですが、ゼンリン、昭文社HDともに地図をビジネスにしている会社です。

ゼンリンは住宅地図やブルーマップが有名です。
昭文社HDは企業名ではピンとこないかもしれませんが、旅行ガイドブックの「まっぷる」や道路地図の「スーパーマップル」はご存知の方も多いのではないでしょうか。

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では、ここから各社の特徴を詳しくみていきたいと思います。

ゼンリンの特徴

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ゼンリンは、先ほどお伝えしたように住宅地図をはじめとする、地図関連商品や地図データを活用したマーケティングなどを手がけている会社です。

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ゼンリンといえば住宅地図とブルーマップ。
主にビジネス用途で使われる地図で、運送業や不動産業などで「なくてはならない」と言われています。

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では、住宅地図やブルーマップは、普通の地図と何が違うのでしょうか?

一般に地図といえば、GoogleマップYahoo!地図、iPhoneの地図アプリなどがよく使われています。
こうした地図を使った場合、比較的大きな建物については、建物名が表示されますが、小さい建物は建物名が表示されず、近くに来たはいいものの、建物が見つからずに困ったという経験がある方も多いのではないでしょうか。

ゼンリンの住宅地図は、そうした小さな建物の名称や、戸建てであれば居住者名まで表示するなど、他の地図にはない詳細な情報が掲載されているのが特徴です。

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他の地図にはない詳細な情報を載せているため、値段も他の地図より高く設定されており、製本されたものは1万円から3万円程度で販売されています。

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次にブルーマップですが、ブルーマップは「公図に関する情報を青字で追記した住宅地図」のことです。
青で追記しているので「ブルーマップ」と言う名称がついたようです。

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ちなみに公図というのは、土地の形状や土地と土地との境目を表した法的な図面のことです。

・住所から地番を参照し、法務局に備え付けられている公図を取得する
・土地の用途を確認する

など、主に不動産関係の業務でよく使われるようです。

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ちなみに皆さんは、住所と地番の違いをご存知でしょうか?

正直なところ、私は今回調べるまでよくわかっていなかったのですが、簡単に説明すると、以下のとおりです。

・住所:住居(建物)単位で付けられる番号
・地番:土地単位で付けられる番号

建物がある土地は住所と地番の両方がありますが、更地の駐車場など建物がない場合は、住所がなく地番だけ存在することになります。
なお、住所と地番が同じ場合もあります。

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このように、ブルーマップには住宅地図よりさらに詳しい情報が掲載されています。
そのため、価格も住宅地図より高く、1冊あたり3万円~7万円程度で販売されています。

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このように、住宅地図、ブルーマップには一般の地図にはない詳細な情報が載っていることから、主にビジネス用途で使用されています。

冒頭でお伝えした運送業、不動産業のほか、建設業などの民間企業に加え、自治体でも利用されています。
自治体では、防災計画や空き家の特定をする際などで使われているようですね。

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またゼンリンは、住宅地図を冊子以外にDVDメディアや、オンラインサービスの形でも提供しています。

コンビニのプリントサービスを使えば、1枚400円でゼンリンの住宅地図が取得できます。
もし住宅地図に興味を持たれた方は、自宅や職場の近くの住宅地図を取得してみると、新たな気づきがあるかもしれません!

ちなみに私は職場の近くの住宅地図を取得してみましたが、なかなか面白かったです^^

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昭文社HDの特徴

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昭文社HDは、旅行ガイドブックのまっぷるやことりっぷ、道路地図のスーパーマップルなど、地図、旅行雑誌・ガイドブックの出版や広告事業などを手がける会社です。

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昭文社HDは知らなくても、りんごのマークの「MAPPLE」は知っているという方も多いのではないでしょうか。

このMAPPLEですが、地図のMAPとりんごのAPPLEを組み合わせてつくられた造語とのことです。

フィールドワークとして、都内のある書店の地図コーナーに行ってみたところ、棚のほとんどが「MAPPLE」の本で占められていました!

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特に有名なのが「まっぷる」、「ことりっぷ」ですが、旅行の際、これらの本を買って持っていったという経験のある方も多いのではないでしょうか。

私も観光地の主要な見どころを把握したい時は「まっぷる」を、少し穴場的なところを探したいときに「ことりっぷ」を買って持っていった経験があります。

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他に昭文社HDでは、まっぷるやことりっぷへの広告掲載を行う広告事業、カーナビメーカーへの地図データの販売などの事業も展開しています。
最近では地図や旅行に関するノウハウを活かし、グアムにマリンアクティビティー施設をオープンさせるなど、旅行事業も展開しています。

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以上、両社の特徴まとめます。

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ゼンリンは、住宅地図をベースに、オンラインの地図情報サービスなどを展開しています。

昭文社HDは地図や観光地に強いという特徴を活かし、地図だけでなく、旅行ガイドブック・雑誌の出版や、旅行事業などの展開を行っています。

#会計クイズ 「BS比較問題」

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ではここで会計クイズ!今回はBSの比較問題です。

登場企業は地図ビジネスを展開している

・ゼンリン
・昭文社HD

の2社。

この2つのBSのうち、

ゼンリンのBSはどちらでしょう?

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(ヒント)
今回、それぞれの会社が展開しているビジネスの特徴がBSの科目として表れています!

参加者の方の回答です。

今回は①をゼンリンとされた方が多かったですね^^

それでは解答です!

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正解は①がゼンリンでした!

地図情報を事業基盤としているゼンリンは「無形固定資産」にその特徴が表れていました。

一方、出版を主な事業としている昭文社HDは「返品調整引当金」にその特徴が表れていました。

では、ここから解説です。

ゼンリンの事業内容

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まずはゼンリンの事業内容を改めて確認します。

これまでもお伝えした通り、ゼンリンは住宅地図をベースに、ブルーマップなどの関連商品や、その地図情報を活かした地理情報システム(GIS)の提供など、地図データを活用した事業を展開しています。

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ちなみに地理情報システム(GIS)というのは、地図の上に他のデータを重ね合わせて表示することで、高度な分析や迅速な判断などができるようにしたシステムのことです。

例えば下の例では、地図の上に契約情報(成約済、失注等)を表示することで、次の営業先を判断したり、失注先に地理的な共通点を見出したりといったことができるようになります。

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地理情報システム(GIS)の具体的な活用例を1つご紹介します。

コロナによって、配達サービスを利用する機会が増えたと思いますが、配達業務を効率化させる「配達アプリ」というサービスで、地理情報システム(GIS)が使われています。

この配達アプリ、ゼンリンが提供するアプリですが、住宅地図上に配達先や配達スケジュールを重ね合わせることで、土地勘がなく、配達業務に不慣れな人でも素早く配達できるようになるのが特徴です。

この配達アプリ、なんと有料会員比率が8割超となっているそうで、配達ドライバーにとって御用達とのことです。

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ではここからゼンリンの業績を確認します。

こちらはゼンリンのセグメント別の売り上げ構成です。
地図データベース関連事業が売上の8割以上を占めています。

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最初にゼンリンのセグメント情報を見た時、「一般印刷関連事業」というセグメントがあったので、住宅地図やブルーマップなどの出版物はこちらに含まれていると思いましたが、こちら展開されているのはランチパスポートなどの企画地図やオリジナル地図の製造販売事業で、住宅地図の販売は地図データベース関連事業に含まれます。

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次に売上高の推移です。
昨年度は減収でしたが、この10年間、上昇トレンドで推移してきています。

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ゼンリンの地図データベース

ではここからゼンリンの特徴を詳しくみていきます。

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これまで何度もお伝えしているとおり、ゼンリンの大きな特徴は住宅地図に代表される地図情報です。

小さい建物の名称や、戸建て1件1件の居住者の名前がわかるなど、他社を寄せ付けない圧倒的な地図の情報量がゼンリンの強みです。

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無料の地図サービスでもゼンリンの情報量の多さを確認することができます。

こちらはゼンリンが提供している「いつもNAVI」と「Googleマップ」を比較したものです。

都内の場合はそれほど違いは感じませんが、地方の場合はゼンリンの方が詳しい情報が載っています。

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実はGoogleマップも以前はゼンリンの地図を使っていました。
しかしながら、2019年3月に自社のマップへの切り替えを行っています。
この時、「Googleマップが劣化した!」と話題になったので、覚えておられる方も多いのではないでしょうか。

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ファイナンスラボの方が当時の記事を見つけてくれましたので、ご興味のある方はぜひ!

このように、「地図情報」に絶対の自信を持つゼンリンですが、どのようにして情報を集めているのでしょうか?

なんと、ゼンリンは「人力」で情報を集めています!
年間延べ28万人、1日あたり1千人の調査員が街を歩き、情報収集を行っています!!!
「ZENRIN」のロゴが入った青いパーカーを着て調査しているようなので、もしかすると、見かけたことがある方もいらっしゃるかも知れません。
(私はまだないです。。。)

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年間延べ28万人も動員して情報を収集しているとわかると、一体、どれだけの費用がかかっているのか気になりますよね。

ゼンリンは地図データベースの整備にかなり費用をかけています!
直近のIR資料では見つけられなかったのですが、2013年度の損益計算書で「地図データベース整備費用」と言う科目を見つけました。

その額、なんと120億円!!!
これは連結売上高の約2割に相当する金額です。ゼンリンが地図情報を非常に重要視してることがわかります。

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ゼンリンが地図情報を非常に重要視していることは、「地図の複製利用の厳しさ」からもわかります。

住宅地図など、ゼンリンの地図を複製して利用したい場合、対象の商品の購入は当然ながら、事前の利用手続きを求めるなど、厳しく複製利用を制限しています。

ゼンリンの住宅地図は図書館で閲覧することもできるのですが、自宅近くの図書館では、

・見開きの両面ページのコピーはNG
・片面のみコピー可

と、住宅地図だけの制限事項が掲示されていました。

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それだけ地図情報を重要視するのも、他社を圧倒する地図データがゼンリンの事業基盤そのものだからです。
そのため、毎年多額の費用をかけてデータを整備、地図情報関連システムを強化することで強みを維持しています。

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こちらのグラフはゼンリンの地図データベース関連事業への設備投資額の推移を表したものですが、毎年売上高の約1割をデータベースやデータ連携基盤の整備などの設備投資に充てています。

毎年行われる地図データベース関連事業への設備投資は、無形固定資産としてBS上に積み上がっており、2019年度のBSでは、ソフトウェア関連の科目がゼンリンの資産の約2割を占めています。

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以上まとめると、

・ゼンリンの強みは地図データベースを中心とした情報システム
・強みを維持し続けるため、情報システムに毎年売上高の約1割を投資

その結果、「無形固定資産の割合が大きくなっている」というのがゼンリンの特徴です!

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ゼンリンのストック型ビジネス

次に、ゼンリンの特徴の2つ目です。

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ゼンリンはこれまで、

・住宅地図やブルーマップの販売
・カーナビメーカーへの地図データ販売

など、フロー型のビジネスを中心に行ってきていましたが、近年はオンラインサービスの提供など、「ストック型ビジネスへの移行」を進めています。

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携帯の位置情報データや、IoTのセンサーデータなど、「データ活用」に注目が集まっていますが、先ほどお伝えしたとおり、「自社のデータを地図に重ね合わせてビジネスに活かす」という取り組みが増えてきています。

ゼンリンはそうした地理情報システム(GIS)の分野で、詳細な地図データという強みを活かし、売上を伸ばしてきています。
民間企業向けだけでなく、自治体向けの地図情報システムの売上も拡大しているようです。

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ゼンリンはGISのオンラインサービスを「ライセンス型」で提供していますが、企業や自治体がライセンス型のサービスを提供する場合、基本的には利用料を年間一括で支払います。

年間一括で支払われた利用料は、その月に収益化されるのではなく、一旦、前受金として計上され、各月ごとに収益として認識されていきます。
そのため、ライセンス型の売上が増えるほど、前受金の額も大きくなっていきます。

ゼンリンの場合、2015年度までは前受金の記載がありませんでしたが、2016年度から「金額的重要性が増した」ということで、前受金を区分掲記しており、ライセンス型の売上が増えていることが推測できます。

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下は総資産に占める前受金の割合の推移を表したグラフですが、前受金の割合が年々増加しており、ゼンリンのストック型ビジネスの売上が拡大していることが読み取れます。

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中期経営計画でもストック型ビジネスへの移行が宣言されており、今後、さらにストック型ビジネスの割合が増えていく見通しです。

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以上、

・ゼンリンではフロー型からストック型ビジネスへのシストを進めている
・ライセンス型のGISの売上が拡大している
・BtoBのライセンス型サービスの場合、利用料は年間一括で支払われることが多い

その結果、BSで「前受金の割合が増えてきている」特徴を確認することができます!

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昭文社HDの事業内容

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次に昭文社HDの特徴を見ていきます。

昭文社HDの事業内容ですが、こちらは地図・観光に関するデータを中心として、旅行など様々な事業を展開しています

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セグメント別の売上構成を見てみると、地図・雑誌などの出版物による売上が約6割を占めています。
このことから、出版事業が昭文社HDの中心事業であることがわかります。

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昭文社HDの出版物について、カテゴリーごとの売上が開示されていたので確認してみます。

最も売れているのは地図、、、と思いきや、地図は2番目で、最も売れているのは雑誌で売上の半分を占めています。

ちなみに旅行ガイドブックの「まっぷる」はまっぷるマガジンとして、雑誌カテゴリーに入るようです。

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続いて業績です。

「出版不況」という言葉を聞かれた方も多いと思いますが、今、出版業界は業界全体が厳しい状況にあります。
本や雑誌などの出版物の販売額は、1996年をピークとして年々減少しており、「現在はピークの半分」と言われています。
(以前、書店の分析を行っていますので、興味のある方はこちらもどうぞ)

昭文社HDも例に漏れず厳しい状況にあり、主力の雑誌、地図、ガイドブックは全て売上が減少してきています。

主力事業である出版事業の不振により、昭文社HD全体の業績も低迷しており、過去10年間では2011年度をピークに売上高の減少が続いており、2019年度はピークの半分程度まで落ち込んでしまっています。

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昭文社HDの委託販売制度

ではここから、昭文社HDの特徴をみていきます!

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昭文社HDのように、出版を主な事業としている会社の特徴として、「委託販売制度を採用している」という点があります。

まず一般的な販売形態について説明します。
食品や電化製品などの商品の場合、一般的には「買取販売」という形態がとられます。
仕入先から商品を仕入れ、仕入れた商品を販売する仕組みです。

買取販売の場合、卸売会社や小売店は商品を仕入先から買い取っているため、商品が売れ残っても仕入先に返品することはできません。

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次に「委託販売制度」を説明します。
出版物の販売では、この委託販売制度をとることが一般的です。

どういう制度かというと、簡単に言うと、書店は「売れ残った出版物を仕入先に返品ができる」という制度です。

書店は出版社(取次会社)から出版物を買い取っているのではなく、販売を委託されています。
出版社に対し、書店は「本を売るためのスペースを提供している」というイメージです。
書店のスペースには当然限りがあるため、一定期間売れなかった出版物は売り場から取り除かれ、出版社に返品されます。
返品された出版物についての代金は、出版社から返金されるという仕組みです。

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こちらは出版物の取次会社最大手の日本出版販売株式会社(以下、日販)が開示している、出版物の返品率を表したグラフです。
(ちなみに昭文社HDの販売先のトップも日販です。)

雑誌は5割近く、書籍は3割程度の返品率となっており、出版物全体では返品率は約4割となっています。
書店に10冊本を置いた場合、「売れるのは6冊だけで4冊は返品される」というイメージです。

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こちらは昭文社HDの返品率のグラフです。
日販のグラフで出版物全体の返品率が約4割でしたが、昭文社HDも同程度の返品率で推移しています。

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そのため昭文社HDでは、本の返品に備え、返品調整引当金を流動負債に計上しています。

返品調整引当金は期末の売上債権をベースに見込み額が計上されており、概ね売上債権の2割が返品調整引当金として計上されています。

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このように、出版社では「本が売れても後日返品される」ということが起きるため、損益計算書でも売上総利益に対し、

・前期に引当金計上していたが、返品が発生しなかった額を戻り入れ(返品調整引当金戻入額)
・今期の販売分に対し、来期以降の返品見込額を繰り入れ(返品調整引当金繰入額)

の処理を行い、「差引売上総利益を算出する」という特徴があります。
分析の際、売上総利益だけを見るのではなく、差引売上総利益を確認する必要がありますね。

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以上、昭文社HDの特徴をまとめると、

・昭文社HDは出版が主な事業である(売上高の約6割を占める)
・出版事業では販売委託制度を採用しているため、将来の返品に備えて返品調整引当金を計上している

その結果、BSで「返品調整引当金」という出版事業をメインとする会社特有の科目を確認できます!

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ちなみにこの返品調整引当金ですが、今後廃止が予定されています。

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平成30年度税制改正で「収益認識に関する会計基準」が示され、その中で「返品調整引当金制度の廃止」が明示されています。

返品調整引当金の廃止により、これまでは販売額の全額を収益認識し、返品が見込まれる額を返品調整引当金で計上していましたが、今後は返品が見込まれる額を収益から控除して表示することが求められます。

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昭文社HDでは、2021年度から「収益認識に関する会計基準」を適用する予定です。

そのため、2021年度のBSからは返品調整引当金の記載がなくなり、代わりに「返品資産」や「返品負債」がBSに表示されると思われます。

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まとめ

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同じ「地図」に関するビジネスを展開する2社ですが、

ビジネスの内容がそれぞれ異なり、その違いがBSに表れてくる

というのが、今回の論点でした!

地図データを価値の源泉としているゼンリンは、

・地図データベースを中心とした情報システムに投資しており「無形固定資産」の割合が多い
・BtoBのストック型サービスの売上が拡大し「前受金」が増加

という特徴がBSに表れていました。

一方、出版がメイン事業の昭文社HDは、

・出版物の返品に備えて「返品調整引当金」を計上
・なお、返品調整引当金は「収益認識に関する会計基準」により、2021年度以降廃止される見通し

という特徴がBSに表れていました。

同じ「地図」を商材にしている2社ですが、持っている強みの違いがビジネスモデルの違いとなり、ビジネスモデルの違いがBSに表れているという点が、調べていて面白かったです^^
(そして業績にも大きな差が・・・)

今後、スマートシティや自動運転等、Society5.0実現に向けた動きの中で、「地図」は重要な役割を果たすと考えられますので、引き続き「地図ビジネス」に注目していきます!



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