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この指標を見ればビジネス戦略の変化がわかる!中古車販売のIDOM(ガリバー)を分析

今回のテーマは「中古車ビジネス」
「IDOM Inc.(イドム)」という会社を分析しました!

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「IDOM Inc.(イドム)」という会社、みなさんはご存知でしょうか?
知らない方もいらっしゃるかも知れませんが、「中古車買取専門店のガリバー」ならどうでしょう?
ご存知の方も多いのではないでしょうか。

「IDOM Inc.」は中古車買取専門店のガリバーなど、中古車販売を手がける会社です。

私も「ガリバー」は知っていたのですが、社名が「IDOM Inc.」であることを今回初めて知りました。

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調べてみると、元々の社名は「ガリバーインターナショナル」だったのですが、2016年に「IDOM Inc.」に変更したようですね。

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社名を変更した理由ですが、元々はガリバーブランド1本だったのですが、近年、ガリバー以外のブランドの展開、海外事業の立ち上げなど、多角化経営を進めている中で、「ガリバーという一つの事業の名前を社名にしているのはふさわしくないのではないか?」という判断で、社名変更に至ったようです。

「IDOM Inc.(イドム)」には、

この先の未来に挑み続ける

という気持ちが込められているそうです。

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IDOMの小ネタ

ちなみに、社名変更に合わせ、なんと社長も名前を変えています!

元は「羽鳥 裕介」という表記だったのが、2016年から「羽鳥 由宇介」に変更になっています。

漢字だけとはいえ、名前って変えられるんですね。びっくりしました。

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さらにこの会社、まだ変わった点がありまして、社長が2人います!!!

現在、ガリバー創業者の羽鳥兼一氏の2人の息子が社長を勤めているのですが、上場企業で社長が2人いるって聞いたことありませんよね?
社長って1人しかなれないと思っていたので、社長の改名と合わせ、こちらも驚きでした。

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なぜ、社長2人体制にしたのかですが、羽鳥兼市氏は2人の息子のどちらかを社長にしようと考えていたようなのですが、2人の息子から羽鳥兼一氏に対し、「社長2人体制でやらせて欲しい」と懇願したようです。

「社長が2人いることで誤った経営判断をする可能性を少なくできる」、「意見が対立した時は徹底的に議論して結論を1つにする」と、2人の息子が羽鳥兼一氏を説得し、最終的にOKとなったようです。

個人的には持ち株比率の違いが気になるところですが。。。

今回の分析のキッカケ

さて、今回IDOMを分析しようと思ったキッカケですが、

「ストーリーとしての競争戦略」

という本を読んだのがキッカケです。

こちらの本では、

「優れた戦略には人に話したくなるような面白いストーリーがある」

というテーマで書かれているのですが、私が一番刺さったのは、

「戦略とは動画である」
「市場環境、トレンド、ターゲットについて、どれだけ詳細に分析・アクションが考えられていても、繋がりがないとそれは項目ごとのアクションリスト(静止画)にすぎず、面白みがない」
「全体として、それらがどう動き、結びつき、その結果、何が起こるのか、戦略全体に動きや流れがある」
戦略とは儲け話という面白いお話をつくることだ

という点です。特に正に今、事業戦略を考える仕事をしていることもあり、

「戦略=人が聞いて面白い儲け話をつくること」という点が刺さりました。

今回のIDOM(ガリバー)をはじめ、スターバックスやアスクルなどの企業も取り上げられていますので、興味を持たれた方はぜひ一度読んでみてください。

そして、今回の分析内容については、いつものファイナンスラボの業界地図勉強会で発表させていただきました!

業界地図勉強会は、会計クイズのオンラインコミュニティ「ファイナンスラボ」で毎月行っている勉強会です。

プレゼンターは安定のいつものメンバーです。

アイスブレーカーのにしけいさん
実はギャンブル大好き?おしばさん
これからはウマ娘の時代?の大手町さん

おしばさんのプレゼン内容はnoteで公表されています。
パチンコ業界にめちゃくちゃ詳しくなれる内容なので、ぜひ読んでみてください!!!(業界の人からお墨付きついてました^^)

IDOMの事業内容

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ここから本題です。
まずはIDOMの事業内容を確認します。

IDOMは、中古車買取専門店No1のガリバーを中心に、低価格車のガリバーアウトレット、高級中古外車専門のLIBERALAなど、複数ブランドで中古車販売を展開しています。

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IDOMのビジネスは「中古車販売」です。

・車を売りたい人から車を買い取り
・買い取った車を中古車が欲しい人に売る

と、シンプルなビジネスモデルをしています。

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次に業績を確認します。
以下の図は売上高の推移ですが、2008年以降は下降トレンドでしたが、2012年から反転し、以降、右肩上がりで成長してきています。

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以下は直営店での販売先(卸売、小売)の台数を表したグラフです。

2005年度は卸売台数が約17万台、小売台数が約3万台と、卸売販売が中心でしたが、直近の2020年度は卸売台数が約8万台、小売台数が約14万台と、近年は小売販売が中心となっています。

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会計クイズ 「指標当て問題」

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ここで会計クイズです!

以下に効率性を表す指標

①売上債権回転期間
②仕入債務回転期間
③棚卸資産(在庫)回転期間

を示した3つのグラフ(青色、オレンジ色、灰色)があります。

この3つのグラフのうち、青色の線は①~③のどの指標でしょうか?
(ヒント:主要な販売先が変わることで、長くなる指標は?)

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各指標の意味については、大手町さんが運営するアプリ(Funda)から説明を引用させていただいています。

①売上債権回転期間

②仕入債務回転期間

③棚卸資産回転期間

Fundaはビジネスで使える実践的な会計知識を、わかりやすく、楽しく学べるアプリとなっていますので、ビジネスに強くなりたい方は要チェックです!

さて、参加者の方の回答コメントです。
今回も100人近い方にご参加いただきました。いつもお付き合いいただき、ありがとうございます!


では、解答です!

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正解は「③棚卸資産回転期間」でした!

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3つの線ですが、それぞれ以下の指標を時系列で表してします。

青色 :棚卸資産回転期間
灰色 :仕入債務回転期間
オレンジ :売上債権回転期間

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この中で、青色の棚卸資産回転期間は右肩上がりで長くなっており、2005年度は9日だったのが、2018年には11倍の98日となっています。

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この棚卸資産回転期間に、「買取・卸売⇒小売」へというIDOMのビジネス戦略の変化が表れているのです。

次の章から詳しく解説していきます!

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中古車販売のビジネスモデル

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IDOMのビジネスモデルでお伝えしたとおり、中古車販売のビジネスモデルは基本的に、

・車を売りたい人から車を買い取り
・買い取った車を中古車が欲しい人に売る

と、シンプルです。

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みなさんは、中古車販売店といえば、どういったイメージを持っていますか?
店頭にズラッと中古車が並んでいるイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。

新車販売を行うディーラーとは異なり、中古車は一点物です。来店客が気にいる車がないと、車を買ってもらえません。
そのため、中古車販売店では、出来るだけ多くの中古車を店頭に並べ、来店客が気になる中古車と出会う確率を高める販売戦略をとります。

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ただ、多くの中古車を持つことによって、販売機会を増やすメリットがある一方、在庫リスクというデメリットもあります。

ご存知のとおり、車は定期的にモデルチェンジが行われます。モデルチェンジが行われると、基本的に旧モデルの価格は下がります。
また、車の部品は劣化していきますし、車検の有効期限も短くなります。

このように、中古車の価値は時間とともに低下しますので、当然、販売価格も時間とともに下がっていきます。
また、保管のためのスペースや整備のコストもかかりますので、在庫として中古車を抱え続けると、店に損が発生してしまいます。

そのため、なかなか売れない中古車は思い切った値下げを行うなど、損が出る前に売り切る必要があるのです。

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このように、中古車販売ビジネスでは、

・出来るだけ売れ筋の中古車を買い取りたい =高価買取
・損が出る前に中古車を売り切りたい =安売り

と、相反するアピールを同時に行うのが、業界の常識でした。

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中古車業界の常識を変えたガリバー創業者

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先ほどお伝えしたとおり、中古車販売ビジネスでは、

・高価買取
・安売り

を同時にアピールをするのが常識でした。

高価買取と言いつつ、実際は在庫リスクがあることから、店側が利益を出せる価格を提示するのが当然。さらに、インターネットが普及する前は、車を売りに来た客が価格の妥当性を調べる手段がありません。そのため、相場より安い価格を提示する店もあったようです。

そんな中古車業界に「おかしい!」と異を唱え、業界の常識を変えようと行動する人物が現れました。
それが、ガリバー創業者の羽鳥兼市氏です。

羽鳥兼市氏自身も過去に車を安く買い叩かれたことがあり、そういった経験も業界を変えようと行動する動機になったようです。

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業界の常識を変えるため、羽鳥氏は2つの戦略を考えます。それが、

・買取特化
・本部一括査定

です。

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まず「買取特化」から説明します。

ガリバーの戦略①(買取特化)

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中古車の販売先として、一般消費者への「小売」と事業者への「卸売」があります。
卸売の場合、卸売業者の利益を考慮した値付けになるため、基本的には小売の方が粗利が多くなります。そのため、買い取った中古車は出来るだけ「小売」に回し、売れ残りそうな場合等に中古車オークション等で「卸売」するというのが、当時の業界の常識でした。

そんな中、羽鳥氏は

「小売をするから在庫が必要」
「店舗は買取に特化し、すべてオークション(卸売)で売れば在庫リスクはない」

と考え、「中古車買取専門店ガリバー」を立ち上げます。
店舗では車の買い取りのみを行い、買い取った車はすべて中古車オークションで販売するというビジネスモデルです。

小売で売れる見込みがあり、しかもそっちの方が粗利が大きいと分かっている中、オークションでしか売らないことを徹底するのは、最初は非常にしんどかったようです。

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ガリバーでは、全国各地のオークション会場で、どんな車がいくらで売れたのか情報を集め、その情報にもとづいて店舗で買い取った車を最も高く売れる可能性のあるオークション会場に運び、売り切る戦略をとっていました。

在庫リスクを限りなく小さくするため、

「買い取り後、2週間以内で売り切る」

ことを、当時のガリバーでは鉄の掟としていました。

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また、羽鳥市は「もっと在庫リスクを減らせないか?」と考え、オークション会場への輸送中に衛星通信を使って画像販売することを思いつきます。

今でこそ中古車をネットで買うことに違和感はないと思いますが、当時はまだインターネットの普及前。
「画像だけでクルマが売れるわけがない。ましてや中古車なんて」と、周囲から猛反対されたそうです。

ただ、羽鳥氏は、「現物を見る客も細かな所までチェックしているわけではない。むしろ、細かいキズや整備状況まですべて情報として開示した方が安心して買っていただける。」という信念のもと、画像販売(ドルフィネット)をスタートさせます。

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羽鳥氏の思惑どおり、全く売れないのではないか?と考えられた画像販売ですが、小さなキズまで細かく丁寧に車の状態を開示したことが信頼され、オークション会場に輸送中でも車が売れるようになりました。

高速道路を使ってオークション会場へ輸送中の車も売れたため、ガリバーでは「うちは高速道路も車の展示場だ」と言っていたようです。

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このようにガリバーは、「買取・卸売特化」、「輸送中も販売」することにより、平均7~10日という棚卸(在庫)回転期間を実現します。

小売中心の一般的な中古車販売店の棚卸(在庫)回転期間が平均2~3ヶ月なので、それと比較すると、ガリバーの棚卸(在庫)回転期間が驚異的に短いことがわかりますね。

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ガリバーの戦略②(本部一括査定)

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ガリバーの戦略の特徴、2つ目は「本部一括査定」です。

まず、一般的な中古車店の買取方法から確認していきましょう。

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一般的な中古車店では通常、店で担当者が査定(買取価格の設定)を行います。

順を追って説明すると、まず、車を売りたい人が中古車店に車を持込みます。
店側では、持ち込まれた車について、担当者が車の状態を確認し、査定を行います。

査定を行う担当者は、「その車がいくらで売れそうか」、「店の利益をいくら見込むか」、「在庫リスクはどの程度か」などを考え、車の買取価格を決定します。

その地域で人気の車種や色で状態が良ければ、高い買取価格がつく可能性がありますが、逆に人気のない車種や色だった場合は、思っていた以上に安い買取価格となってしまう。
というのが、一般的な中古車店での買取プロセスです。

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次にガリバーの買取方法を確認します。

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ガリバーでは、店で担当者による査定を行わず、本部が一括して査定するのが特徴です。

まず、車を売りたい人がガリバーに車を持込み、店側では、持ち込まれた車について、担当者が車の状態を確認します。
ここまでは他の中古車店と同じです。

この後、他の中古車店では、店の担当者が査定を行いますが、ガリバーでは店で査定は行いません。店の担当者は、持ち込まれた車の車種や色、状態などの情報を本部に送ります。

本部では、全国のカーオークション会場でどのような車がいくらで売れたかという情報をデータベースで管理しており、例えば、「東京で人気のない車種や色だが、北海道では人気があり先週40万円で売れた」といったことがわかります。

そのため、ガリバーでは、店に持ち込まれた車に対し、全国の直近の相場に基づいた、適切な買取価格を設定することができます。

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ちなみにこのガリバーの「本部一括査定」、実は外食業の「セントラルキッチン方式」を参考にしています。

セントラルキッチンは、外食チェーンの各店舗で提供する料理をセントラルキッチン(工場)で一括してつくり、各店舗に届ける仕組みのことです。
各店舗では、加熱等の仕上げや盛り付けのみ行い、お客に提供する点が特徴です。
セントラルキッチン方式をとることで、各店舗で提供する料理の質を担保でき、店舗スタッフは接客に集中することができるメリットがあります。

ガリバーの「本部一括査定」でも同じように、各店舗から送られた車の情報をもとに、本部で全国の中古車相場を網羅したデータベースを調べ、適切な買取価格の設定を行います。
本部で一括して買取価格の設定を行うため、どの店でもバラツキのない買取価格をお客に提示でき、査定の質を担保できます。
また、査定を行う必要がないため、店の担当者は接客に集中することができます。
店に査定できる経験者を配置する必要がないため、中古車販売の未経験者でもフランチャイズですぐに店が開けるという点もメリットです。

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このようにガリバーは、

「買取特化」
「本部一括査定」

という、それまでの中古車業界になかった戦略を武器に急成長。1994年の会社設立から5年後の1999年には500店舗に到達し、2000年には当時の史上最短で東証2部に上場を果たすなど、中古車業界の中で買取No1のポジションを確立していきました。

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戦略の転換(小売強化へ)

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2006年に過去最高益を達成したガリバーでしたが、2008年以降、売上高、営業利益ともに減少に転じるなど、業績が悪化していきます。

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業績悪化の要因の一つが2009年と2011年に実施された「エコカー補助制度」です。

条件を満たした場合、新車購入に補助金が出るということで、新車を買う人が増加し、中古車を買う人が減少。
また、メーカー系列のディーラーが新車販売促進のため、車の下取価格を引き上げたことに伴い、中古車の買取価格が上昇。ガリバーは苦しい戦いを強いられます。

実際ガリバーでは、中古車の買取台数が減少。買取台数の減少に伴い、卸売販売台数が大きく減少しました。

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この苦しい状況を打破しようと、ガリバーは従来の買取特化・卸売の戦略を見直し、収益性の高い小売強化に戦略を転換することを決めます。

具体的には、ガリバーの強みである、豊富な在庫、業界No1の集客力を活かし、小売の新規チャネルを拡大する戦略を取ります。

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2012年にはアウトレット店と大型展示場、2013年には高級輸入中古車専門店をオープンするなど、展示型の店舗を車のカテゴリーやターゲットに合わせて複数ブランドで展開していきます。

2011年以前は減少傾向にあった店舗数も、展示型の直営店を増やし小売を強化する戦略の転換に伴い、2012年以降は増加に転じます。

その結果、小売の販売台数も右肩上がりで増加していきました。

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「買取特化・卸売」戦略で成長してきたガリバーの特徴の1つが卸売販売台数の多さでしたが、小売強化の戦略に転換した結果、2017年に小売の販売台数が卸売の販売台数を逆転します。

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このようにガリバーでは、「買取特化・卸売」戦略から、小売強化の戦略に切り替えたことが奏功。2012年以降、売上高は増加に転じ、右肩上がりで業績を伸ばしていきます。

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こちらのグラフは、ガリバーのカーオークション大手ユー・エス・エスへの販売額と売上高に占める割合をグラフにしたものです。

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2012年頃までは売上高の約4割をユー・エス・エス向けの販売が占めており、ガリバーの主力事業が「卸売」であったことが読み取れます。

ところが2012年以降からユー・エス・エス向けの販売額、及び売上高に占める割合が低下。特に売上高に占める割合については、直近の2021年度は10%を下回っています。

このことから、ガリバーの主力事業が「卸売」から「小売」に変わっていったことが読み取れます。

「卸売」から「小売」へビジネス戦略を転換した影響を表しているものがもう1つあります。
それが「棚卸資産回転期間」です。

以下は棚卸資産回転期間の推移を表したグラフです。
卸売中心の2008年頃までの棚卸資産回転期間は20日を下回っていますが、小売への戦略転換を模索し始めた2009年から徐々に棚卸資産回転期間が増え始め、本格的に小売に力を入れ始めた2012年以降、大きく増えています。

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小売が増えることにより、棚卸資産回転期間が増える理由は2つあります。
1つは会計上の処理の影響です。

カーオークションでの卸売の場合、オークション会場で取引が成立後、すぐに車の引き渡しを行います。
そのため、ガリバーのBS上に商品として資産計上している期間は、車を買い取ってからオークション会場で販売するまでの2週間程度となります。

次に小売の場合です。
店舗で来店客に車を販売した場合、卸売と同様に2週間で売れたとしても、その場で車を引き渡すことはできません。
車の点検・整備や行政への手続きが必要となるため、納車までに1ヶ月程度かかります。
この成約~納車までの期間もBS上は商品として資産計上されてしまうため、小売の割合が増えてくると、棚卸資産回転期間も増えていってしまうのです。

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2つ目の理由は小売における在庫管理の難しさです。

中古車販売のビジネスの説明で述べたとおり、買い取った車がお客の要望とマッチングしないと売れないため、オークションでの販売と比べると小売の方が在庫リスクが高くなります。

小売の店舗数、販売台数の増加により在庫リスクをうまくコントロールできなくなると、棚卸資産回転期間が増えていきます。

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またガリバーでは、「自社店舗で買い取った車を管理在庫とし、それを店舗で小売、一定期間売れなかったものは卸売(オークション)で売り切る」ことを基本ルールとしてきました。

が、2018年にそのルールを変更。自社店舗での買い取り以外に、企業からの調達、オークションから仕入れ、小売店舗で販売することを可能とし、また、そうして調達した在庫については各店舗が責任を持って売り切るルールに変更にします。

このルール変更も各店舗における在庫リスクを高めることにつながり、結果、棚卸資産回転期間の増加という結果につながってしまいます。

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改めて棚卸資産回転期間の推移を確認すると、ルール変更が行われた2018年に大きく棚卸資産回転期間が増え、過去最大になっていることがわかります。

このようにガリバーでは、卸売が主力の時期は「在庫期間は2週間」を鉄の掟とし、それが棚卸資産回転期間に事実として表れていましたが、小売販売比率の増加、仕入れ・販売ルール変更というビジネス戦略の変化が、棚卸資産回転期間の変化として明確に表れています。

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今後の展開

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こちらのグラフはIDOM(ここからはガリバーではなくIDOMと呼びます)の売上高と営業利益率の推移、及び営業利益の推移を表したものです。

小売重視に戦略転換した2012年以降、売上高は増加基調ですが、営業利益は年ごとにバラツキがあり、営業利益率は低下傾向にあります。

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こうした状況を受け、現在IDOMでは経営戦略の見直しを行っています。

自社の課題を①出店エリア戦略、②ネット集客、③在庫管理とし、その解決に取り組んでいます。

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在庫管理(棚卸資産回転期間)についても、在庫管理の不十分さによる棚卸資産回転期間の急激な増加を正常な増加トレンドに戻すべく、棚卸資産回転期間を管理指標に取り入れ、適切な在庫管理に取り組むようです。

今後、棚卸資産回転期間の推移を見ることが、IDOMの経営がうまくいっているかどうかを判断する1つの材料になります。

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また、「車の所有から利用に」という消費者意識の変化を受け、従来の中古車販売以外に、整備事業や中古車のシェア/リースビジネスといった、新しいビジネスにも挑戦していくようです。

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まとめ

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今回の分析では、IDOM(ガリバー)のビジネス戦略の変化が「棚卸資産回転期間」に表れていることを説明してきました。

簡単にまとめると以下のとおりです。

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①1994年の創業~2008年までの成長期
買取・卸売モデルに特化して成長
・買取特化・本部一括査定がガリバーの大きな特徴
・販売チャネルをカーオークション(卸売)に限定
・上記の結果が、棚卸資産回転期間が2週間という業界平均を大きく下回る数字に表れている

②2008年~現在までの転換期
・買取・卸売モデルから小売モデルに転換(特に2012年以降)
・従来の買取フロー在庫の活用が基本ルール(その後2018年に変更)
・主力の販売チャネルを展示型店舗(小売)に変更
・その結果、棚卸資産回転期間が2~3ヶ月まで増加

今回の分析、いかがだったでしょうか。
従来の中古車業界の常識にない「買取・卸売特化」で在庫リスクを極小化し、成長してきたIDOM(ガリバー)が、時代の変化によって「小売」にシフトし、その結果、在庫リスクという従来の中古車業界の課題に苦戦しているというのは、もしかすると他の業界・ビジネスでも起こりえることかもしれません。

「車の所有から利用に」という消費者の意識の変化、そしてMaaSのような今後の変化にIDOMがどのように挑むのか、今後も注目していきたいと思います!




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