掌編小説「電脳少女」

 まだ、ネットワークが無く、テレビやラジオも無かった時代。
 私の親友は、他人には見えないものが見えた。
 それは妖怪や幽霊などではなく、見えていたのはこの世のあらゆる情報である。分かりやすく例えるならば、明日の天気や初めて会う人の名前や職業、どこかの事件の詳細、国家の機密文書の内容などなど。未来のことを予知するのではなく、あくまでも更新される情報をいち早く知ることができた。
 それらは彼女の意思で、知りたい情報を見ることができる。しかし、情報の更新に至っては、自動で行われていた。

 人々はまだ、新聞や本、人づてから物を知っていた。分からないこと調べるには、周りの人に尋ねるか、図書館に行って調べるか。とにかく情報を手にするには、あまりにも手間と時間がかかり、正確なものが得られないこともままある事だった。

 だから、彼女の能力はとても便利なものであった。情報源から間違ってさえいなければ、確実に正しいものが分かる。彼女は、能力を隠しながらも利用し、対価として金銭を得ていた。

 やがて、技術が進み、ネットワークが誕生した。各家庭にはテレビなどの電化製品が普及し、情報も今までよりも、簡単にそして早く入手できるようになり、生活が豊かになった。さらに人々は、技術を高めていく。「便利な情報をより簡単に、より早く。」「もっと生活を豊かにするために。」と。

 彼女の見る世界は途端に変わっていった。私にはどうすることも出来ない。目の前にある情報は光速で書き換えられ、人の頭では、到底処理できない。彼女の脳はその処理で埋め尽くされていく。

 それでも彼女は、目まぐるしく変わる情報に追いつこうとしていた、全てを賭して。歩けなくなっても、話すことができなくなって、日常生活を投げても、頭を、使って。使って。使って。そして、焼き切れるまで。

 私に色々なことを教えてくれた彼女はもう居ない。あと、数年で私も居なくなる。
 けれど、世界は進化する。きっと、その果てで彼女のように、宙で情報を操る時代がやって来る。私たちの存在など、とうに忘れて。


あとがき

 読んでくださり、ありがとうございます。この作品は、私が”一番最初”に書いた「情報が見える話」の改訂版です。初めて書いた話ということもあり、思い入れがあるのですが、分かりにくい部分があるため、改変し再投稿しました。(分かりやすくなったかどうかは、わかりませんが)よろしくお願いします。