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秋季祭を楽しんでいたかもしれない彼女

 秋季祭前日にザナトアから給金をもらったアラン。
 ブラッキーの暴走は当初から決めていたことですが、そのタイミングに関しては秋季祭の最中で起こる案がありました。
 ブラッキーの暴走などつゆも考えていないため、アメモースたちと共に祭の出店などを楽しむアランというのどかな描写が展開される、そんな可能性がありました。ですので、そこではアランはポッポレースの出場する瞬間も目にしています。当然、実際の本編では欠場したヒノヤコマたちもこのルートではレースに出場しています。実際の本編ではアメモースのヒノヤコマ達(空)への羨望がありありと描かれるのは前日、雨中を羽ばたくヒノヤコマたちの練習風景でしたが、この部分は無く、レース本番で羽ばたく瞬間に心奪われて同じような描写が展開される予定もありました。
 祭前日、アランはアシザワの家族との邂逅と降り頻る雨をきっかけに、かつてのウォルタでの思い出を語ります。ウォルタ編で彼等を育てたエイリー婦人と旅に出る前最後の語らいをしている時、レト川の氾濫について話しました。ブラッキーを助けるため湖に飛び込むというのは決めていましたが、ラナの行動があまりにも突飛にならないよう、直前で伏線を張った方が良いだろうということであのシーンがあります。しかしそこで終わるとすこし後味が悪くなりますし、翌日は晴天の吉日ということもあり雨が晴れるという場面が必要になります。少しずつアランが浮上しつつある部分ですので、過去や下を向いているばかりではなく未来を見る前向きなドラマがあった方が全体を見たとききれいだなと。
 雨中(困難な状況)を力強く飛翔する鳥ポケモン達というエッセンス、アランやアメモースの変化と雨がやむという天候変化とのリンクは、ポッポレースでヒノヤコマたちが飛ぶよりも物語として合うかもしれない。そしてブラッキー暴走の際にブラッキーを追い込むのにヒノヤコマやフカマルたちが手伝うというのも自然な形でやりたい。今回作中で何度も何度も星空をはじめとして同じモチーフを繰り返し使っている部分がありますが、そういった似た場面の反復はなんでもかんでもやってもしつこいだけで、アメモースの空への渇望が露わとなるのは、一度で良い。絞ることでその瞬間は印象的になる。そういう諸々を踏まえ、結局前夜にブラッキーが暴走した形の方が物語として整然とすると判断し、アランの秋季祭参加はお蔵入りしました。せっかくもらったお給金は、己一人では何もなせずにいたアランが初めて「自分の労働で対価を得る」というモチーフに留まりました。

 書いていて思いましたが、これは、アラン秋季祭参加という没ネタというよりも、決定している展開をどのタイミングでやるか問題であり、パズルみたいなものですね。
 結果的に「アメモースが飛びたいと決意し、秋季祭とブラッキーの暴走は同時並行で、最後ガブリアスに殺されかけたブラッキーが湖に跳び込みそこを助けるアラン」という流れは、どちらにおいてもそう変わりません。
 組み合わせや、時間という一直線のベクトルに対してどこに決められた出来事を置くかで、進む方向は変わらないはずなのに、別物になるんですよね。結果だけ見れば本編のあの形が正史となりましたが、もっといろんなやり方もあるでしょう。
 常々考えますが、物語には様々な世界線が存在しています。究極を言えばラナもクロもとうに死んでいる可能性だってあるわけです。逆に死んだ人、たとえばアランたちが生きていた可能性だってあるのです(そしてこれは実際に有り得たルートです)。彼等が進むほどに無限に分かれ道ができて、それは描かれるはずもない道だったり没にはなったけど実際に書かれるかもしれないほど本編に近似した道だったりもして、たまたまそのうちの一本が本編の今の状況であり、それを描いているに過ぎないんだと。没ネタを掘り起こすととりわけ強く思います。
 最初から最後まで整然と決めてる長編書きさんだとこうはならないんでしょうけど、私はけっこうふらふらしがちで妄想癖が根深いのでこういう考え方です。
 いやー。物語を創るのって、しんどいけどね……面白いんですよね……。

 ツイッターのアンケートを参考にしてやってみましたが、お楽しみいただけましたか?
 そんなにあるかなと思っていたんですが、ノートを見返して掘れば掘るほど出てくること出てくること。ああそうか、切り捨てたものって、たくさんあるし、ちゃんとメモとして残しておかないと忘れるくらいだったりする、でも言葉にしてみるとそれなりに膨らむということはしっかりと思考したからで、思考を重ねた先に少しだけ生まれたのが文章という結果に過ぎないのだなあと。きりのいいところまで書くと結果そのものに拘りがちですが、見えない部分に目を向けるのも面白いものですよね。
 逆に没にしたネタをこの続キリで復活させたものもあるし、ここまで書いた没ネタはもうどんなことがあろうと復活することはないだろう(あるいは不可能)と思うものをまとめました。
 細かいものを挙げ始めると色々あるんですが、ひとまずは今回でこの特集は終わりとします。
 また他の話に興味をお持ちでしたら、ご要望を届けていただけると柔軟に検討します。その他ご希望は随時受け付けていますので、お気軽に。
 自分としては、創造は破壊と共にある、そんなことを実感した没ネタ裏話週でした。


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