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呪い

急にポッカリ空いた平日、朝とりあえず洗車に向かった。窓の閉め忘れを確認して洗車機へ。グルグル水をかけてオバケブラシが勢いよく回る。甘い缶コーヒーを飲みながらゆっくり眺めてた。

最近本当にスマホばかり見ている。情報や、何か良いニュースを仕入れるため、貪る様に画面を毎日スライドする。この四角い画面を一晩中見ている時もある。得たい情報に出会えるまでグルグルグルグル。それでもまた画面を見つめる。末期のジャンキー、無限なんとか地獄、終わりの無い何かの呪いだ。わかってても、それでもまた今日もイイネを押しにいく。

ガソリンスタンドを出てふと思い出した。そうだ、最近墓参りに行っていない。右折して墓場に向かった。4月は桜で綺麗な緩やかな坂を登る途中、無縁仏を積み上げて作ったピラミッド山が見える。学生時代、キモだめしに来た時に先輩は、この無縁仏ピラミッドに登って頂上で、キメ顔で写真も撮った。絶対に呪われると思ったその先輩は、まだ呪いで死なずピンピンに生きている。

墓に着き、水を汲み、父が好きだった北海道の方言が書いてある湯呑みを洗い、手を合わす。よし。これでいい。またくるわ、呟いて歩き出した。合計5分くらいだ。

ちょっと振り返ったらうちの墓の横がなんか黒い事に気がついた。もののけ姫の主人公アシタカの腕の呪いみたいなやつ。まず手でコスってみた。全然取れない。水でコスってみたり、ブラシも使ってみたが全く取れない。

「これはもしや、我が一族への呪いか」

真昼の墓場で急に呪いを感じ始めたら綺麗にするまで帰れくなり、道具を買いに出た。途中、何故か爆音のディスコサウンドが聞こえ始めた。少し離れた墓でスキンヘッドのおっさんが墓石を磨きながらカーステレオで流していた音だった。

神聖な墓場でなんちゅうバチあたりなやつや!思ったけど、今は我が一族の呪いを解くのが先。まっすぐダイソーにいき、洗剤、墓石磨き(強)を2種類を購入。

墓場に戻ると、まだバチ当たりのスキンヘッドはまだ音楽を流していた。どんな顔して聞いてか気になり覗くと、スキンヘッドは車のシートを倒して、遠くを眺めるように静かに聞いていた。横顔がとても澄んでいるように感じた。勝手にそう見えてしまった。

墓に大量の洗剤をぶっかけて、マシーンのようにコスリまくり、無事にうちの墓の呪い、たぶん、コケ類の黒いシミは取れた。こすりながらスキンヘッドの事を考えていた。

「もしかして、あの人は墓の中の人、故人が好きだった歌を一緒に聞いていたのか」

そう気がつくと、急に8個上の兄に聞いた事を思い出す。昔はこの地方都市にもディスコがあったと。夜な夜な繰り出し男と女が音楽に合わせて踊り合う出会いの場、ディスコ。急にこの事を思い出すと、頭の中で勝手に物語が始まる。映画「竜二」にでてくるような昭和2DKアパートに同棲しながらフェアレディZ.S30に乗り、海岸線を流してからディスコに繰り出す若いスキンヘッド。隣にはポニーテールがよく似合う笑顔が素敵な彼女。見つめ合う二人。オンリーユー、君だけを愛してる。人間って一体なんだろうって純粋に話し合う二人。

「どうして墓場で歌を流しているんですか?」思い切って聞きに行こうとしたら、スキンヘッドの車はもう居なくなってしまってた。

初めは墓場で歌を流すなんてなんて非常識なやろうだ、と感じたけど、故人と共に好きだった歌を聞いていると感じると、なんと心の優しい墓参の仕方だろうと、感じた。でも正解はわからない。ただ自分がそう解釈しただけだ。

一番厄介なのはすぐコロコロ考えが変わる俺の心だ。四角いところだけを見て、トゲしかないと決めつける。離してみれば、丸みもあるのに。世の中の物を見て判断するのは自分の心だから、鏡のようにありのままが映るようにしたい。しなきゃだ。そして何より笑える方に持っていかなきゃだ。呪いは自分が自分にかけている。

電気を消して、布団の中で考える。30年後の自分の墓。きっと未来の墓はソーラーパネルで発電、LEDライティングされた墓石に、無限に歌が流せたり、YouTube映像が流せたりする。おれは墓参りに来てくれる未来の人に何を聞かしたいかな?やはりBASTARDかな、いやCRUCKの「ARE YOU DEAD」なんて最高じゃないか

そんな事を考えたらやっと眠くなってきた。

おやすみなさい。いい夢を

"thankyou,goodnight"


遠距離バンド存続のため、移動費、交通費に当てます。旅は続くよどこまでも