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「前年同月比」だけじゃなく、「これから」のスタートアップ企業をどう支援するか?

 休業補償や給付金の議論の中で「前年同月比」という言葉を聞くけれど、それは企業の「持続」を支援するもの。「前年」の売り上げはまだゼロというような、スタートアップ企業はそもそも「除外」なのか。いや、むしろ、「コロナ後」の社会を考えたら、ピンチをチャンスに変える「イノベーション」の支援が大事ではないのだろうかーー。

●上場前のベンチャーを支援する動きが次々

 そう考えていたところに、気になるニュースがいくつか飛び込んできた。
 一つは、ベンチャーキャピタルが早々に支援に名乗りをあげたこと。


 もう一つは、株式型クラウドファンドにネット証券が参入したこと。

 どちらも、上場前企業に資金を集めたり、投じたりする動きだ。金融というのは、こういう素早い動きができてこそ、社会に価値を作り出せる存在だと思う。

●お金が「余っている」なら、「持続」より「挑戦」へも

 特に、ここのところの日経平均株価の上昇を見ながら、どうにも腑に落ちないものを感じていた私にとって、ネット証券のクラウドファンディング参入は、歓迎される動きのように思えた。

 これだけ経済環境が悪くなる中で日本の株価が上昇する理由について、「在宅勤務などで新たに投資を始める個人投資家が増えているのではないか」という専門家のコメントも聞こえてきた。そうなのかもしれない。

 世の中全体では、「お金は余っていたんだな」と思う。もちろん、この状況で、「投資」をするような人は限られた人だろう。だけど、もし、その余ったお金が、(あえて言うと)必要以上に「今ある会社」「今まで成功していた会社」にだけまわって株価が上がっているとすれば、その受け皿を、他にも作ろうというのは必然だと思う。そして、その候補に、「これから」を期待するベンチャー企業が上がり、個人がもっと「新しい変革」を応援できるようになるなら……と期待が膨らむ。

 金融市場には「お金でお金を生む」マネーゲームの側面がある一方、「この会社の成長に期待して『投資』する」という側面が本来的にあり、私は後者がまわることを大事にしたいと思っている。

●変われるかどうか、私たちの「見る目」が問われている

 今回のコロナ禍において、私たちは岐路に立たされている。どの企業を育て、どの企業は市場から退出するのか。昨日までと同じ「持続」だけでは生き残れないという現実を突きつけられている。
 私たち自身が、自分が新しい生き方や働き方を探すだけでなく、そうした見極めを受け入れなければならない。逆に、新しい「可能性」を見出し、育てることも必要だ。そうした状況だから、スタートアップの存在意義は「いつも」とは異なるものだと思える。私の視点は二つ。

 1)大きな変革のチャンス〜「持続」から「ジャンプアップ」へ
 今後3年、5年かけて進むはずだった「DX」「働き方」の流れに、どの企業も、誰もがいやがおうにも巻き込まれることになった。これをピンチではなくチャンスに変えようという動きが次々と出てきている。
 オンライン会議システムやクラウド型人事労務ソフトなどの急成長に代表されるように、市場自体のニーズが変化したことにより、これまで「成長しそうなのに、しなかった」企業が伸びる可能性が出てきた。持続の中では出てこない、「ジャンプアップ」の動き。「中小企業ではテレワーク導入が簡単ではない」という声もあり、それは切実だと思うが、「できない」理由を並べるより、「進める」方向へ動くきっかけになった。

 2)ゼロベースだからこそ生まれるのがイノベーション
 一方、「イノベーション」は、「非連続」の中から生まれるもの。今回のコロナ対策には、「全く新しい発想」が求めらると感じている人は多いように思う。そして、そういう「全く新しい」というゼロベース志向は、「持続」「守る」をミッションとする組織や人には難しい思考だと思う。従来型の組織や人も徐々に変わっていくと思うが、スピード勝負で解決するには、もともと「挑戦」「変える」思考の人や会社に、お金がまわらなくてはいけない。

●「前年比」という考え方は「イノベーション」に馴染まない

 1週間ほど前、休業補償や一律の給付議論が盛り上がったときのこと。「オレたちみたいなベンチャーは、『前年同月比』って言われても、これから事業をやろうという時で前年はほぼゼロなんだから、意味がないんだよね」。

 科学分野の基礎技術をビジネス化するPR支援会社を立ち上げた先輩に、「コロナでバイオ関連とか、動きがありそうですね」と話を向けたら、そんな答えが返ってきた。

 このときは正直、「ベンチャーというのは、そういうものだし、大企業で新規事業をやる時の予算作成も同じだった」と思った。
 私はここ10年くらい、会社で新規事業立ち上げの担当ばかりしていた。前年比予算はゼロ。常に「前年比」で予算を議論してきた部長たちはどう予算作成していいかもわからず、戸惑うようだった。
 でも、新規事業なのだから、事業計画や構想(妄想?)にお金をつけてもらうしかない。コア技術がある場合や技術開発なら、その技術の「可能性」にお金をつけてもらうということ。新しく事業をやるというのは、そういう苦労や説明力がセットで必要になる。

 逆に、これまでは「前年比」で思考してきた社会や会社や人たちにとっても、「前年比で考えない」というチャレンジが必要になるだろう。
 そして、そういう人たちを支援する仕組みも必要だと思う。

●「新しいこと」だけが大事なわけでもない

 とはいえ、昨日までの生活をいかに維持するかは大事になる。そういう面では、私は、山梨県知事が話した以下の発言が面白いと思った。


 今、この局面で変化が求められがちだが、「新しいこと」を必ずやらなければいけないわけでもない。

 新しいことを打ち出すよりも、今ある制度や仕組みをどれだけ現実的に「使える」ものにするかも、とても大事。新薬の開発でも研究でも、ベンチャー育成でも、思い切ってイノベーションにお金をかける。だけど、今あるものを活用して、お金を絞るところは絞る。そういう見極めが大事になってくるのだろうと思う。

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