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今朝の雨

雨の音で目覚める朝を幸運に思い
窓を細く開けて寝そべりながら耳を寄せる

どんな擬音語も嘘になるが敢えて言うなら今朝の雨はしとしと
ひっきりなしに続く柔らかな打音の向こうに静かな広がりを感じるしとしと

心地いい風が顔にあたり素肌をひんやりとさます
雨樋を走る流水は今朝の通奏低音
鳥たち虫たちはどこで雨をやり過ごしているのか
すべての雨音を拾いたい

耳を聾さんばかりの激しい土砂降りの雨も
まったくの無音で気付けば肩口を濡らす霧雨も
私の心を穏やかにさせる
誰かを思うなら
こんなときがいい

村上春樹の「土の中の彼女の小さな犬」を教えてくれたのはあなただった
レイ・ブラッドベリの「長雨」を教えてくれたのもあなただった
これらの小説に出てくる雨は鬱陶しい
けれども私にはすべて愛すべき雨なのだ

「単調で無個性で我慢強い雨」も
金星の降り止まない雨も
どちらも私は見たことはないけれど
見たことのない雨を思うたびに
私の思慕はあなたのかいなに抱き寄せられ
しとしとまた一つ雨が好きになる

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