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アリスになって遊ぶ夜

ここが冒険の国だよ
そう言って君が案内をしてくれたところは
なんの変哲もない普通の公園で
この日は白樺の幹の間に綺麗な星が出ていた

外灯はあるけれどここから見えるのはぽつんと一本だけで
その白い明かりはジャングルジムやブランコといった
子供向けの遊具のある場所にまでは十分に届いていなかった

入り口はここ
君が指定したのは外灯の明かりから暗がりが始まるちょうどその境界
ぼくは君の“ごっこ”に付き合うことにした

ここから体が小さくなるよ
そう言って君はぼくの手を引きジャングルジムの中に入っていく
よし来た不思議の国のアリスだな付き合うよ

最初は戸惑った
君の“遊び”は誰とも違っていたから
君は孤独がピークに達したときにいつもぼくを呼び出す
そんな風になっている君を受け入れるのは
きっとぼくしかいないから

ジャングルジムを抜け出して体が小さくなったぼくたちは
ブランコの下を這いベンチの脚をくぐり
跨いだら越えられる植え込みにわざと頭から突っ込んで
顔に擦り傷をこさえながら誰もいない噴水のある広場に転がり出る

アホみたいに二人で笑い
土で汚れた膝小僧に蛇口の水を指で押さえてかけ合った
笑うことはいいことだな君も嫌なことはきっと忘れられるよ
誰かにフラれたのか悲しい目に合わされたのか
でも体が小さくなっているのだからきっと傷も小さいはずだよ

綺麗な星はいつの間にか白樺から遠くなっていて
ぼくは君にもう戻ろうと言った
不思議の国のアリスはどうやって元の世界に戻ったのだろう
君に聞いたけど君は知らないらしい
ぼくも知らない

じゃあねと言い君はひとりで帰っていく
闇と光の境界に何の意味もなかったかのようにすたすたと
置き去りにされたぼくは暗がりから一歩も出られず君を見送っていた
ぼくにやって来た孤独はやはりぼくひとりで処理するしかないのかな
小さく体が縮んだ設定をこれからも抱えたままで

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