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運命というものがあるのなら

冷たい雨がぽつりぽつりと波紋を描き
彩り豊かな紅葉が白い空のキャンバスに世界を描いていた

3度で上から降りてくるそのピアノの音たちはまるで紅葉が舞うかのようで

キラキラとした高音のトリルや連符は
落ちた紅葉が丘や道に川をつくるようで

芯のあるゆったりとしたベースやユニゾンは
歴史を感じさせる大木の息吹のようで

切ないようなでも懐かしい曲調は
秋の景色にひっそりと佇む古い洋館のようで

まるで記憶をなぞるかのように過ぎていく

音楽を好きでよかった
ピアノに出逢っていてよかった
何度も何度も思った

音を聴くと流れてくる世界は
まるで小説を読んでいるようで
映画を観ているようで
鮮やかに私の中に入ってきては
感情を揺さぶり去っていく

子どもの頃からそれは変わらずに
音楽がなんたるか少し掴めるようになった今は更に
印象強く残る

音を聴けば色彩が生まれ
音に触れれば言葉が聞こえ
音を通せば心を伝えられる

その反対もあったりしてね

知識や技術があれば
さらに解放できるような気もするけれど
今はまだ行き当たりばったりな子ども時代の出逢いみたいな感覚に浸っていたいなって思ってみたり

そんな偶然や奇跡が生んだ出逢いが新しい音になり
その響きや響きにのせた心が誰かに響いていたなんて事実を知ったら
もう飛び跳ねたいくらいで
恐縮です、とも思うけれど素直に嬉しい

芸術の秋だからかな
それとも他の何かが影響しているのか
気持ちが大きくなっていて
飛び立ちたいって声が聞こえる

今ピアノがあったならどんな彩りを見せてくれるんだろう

本当に本当に好きなんだなって
何度も

——ドビュッシー『版画 〜塔〜 』


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