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93歳にLINEでひ孫の写真送る世界線

 じっちゃんは2022年、タブレットを手に入れた。それまでガラケーもスマホももちろんパソコンも持ってなかったじっちゃんが、初めてタブレットを触った。ひ孫が生まれたからだ。

 私の父と弟がなんとかセットアップし、LINEを使えるようにした。これで私が写真を送れば、じっちゃんは遠方に住むひ孫の写真を見れるようになった。

 じっちゃんはかつてワープロ(懐かしい)を持っていたので、ローマ字の入力はできた。スマホのフリック入力はできないが、タブレットだとキーボードでローマ字入力できる。

 エン様(子どものあだ名)が生まれてから、93歳じっちゃんとのLINEが始まった。

エン様元気で力も強いですね。かごに色々入れて歩けますね。お買い物にもいつたり、お寿司食べにも行ってましたね。元気よくてもりもり食べて、嬉しいこと!

 当たり障りない文章に思える。しかし小さい「つ」を打てる時打てない時があるようだ。

エン様相変わらず元気ですね。食欲もあるし元気にお友達と遊んでいますね。何でも好き嫌いなくよく食べて元気。パパもママも嬉しいことですね。幸福家族で私達まで幸せです!

 冒頭の (   何?w

エン様元気になって良かったね。笑顔いっぱい見せてもらって嬉しいです。(中略)玉ねぎの皮むきママのお手伝いかなーーーー

エン様おかき美味しそうですね。(中略)ありがとうの言葉も通じて、かしこいなあ。歩くのも練習出来て、嬉しいなぁ−−−

エン様 笑顔を見ると嬉しくなるよ。パパと寝ころんで、何のお話ですか、今度の休日は何処に行こうかな― ― ―と!

 伸ばしがちー ー ー!! 
 しかも途切れとるw


 タブレットを入手したじっちゃんはYouTubeも見れるようになった。なんかいろいろ見てるらしいことは伝わってきた。

 しばらく後になって、私に電話がかかってきた。

YouTubeは録画できるか? どうやったらいいか教えてほしい

 YouTubeをww録画wwww ちょっと意味がわからなすぎる。

 話を聞くと、YouTubeの動画の内容をノートに書き取りたいが、YouTubeが早すぎるので録画して一時停止したいと言う。
 じっちゃんはテレビを録画して見る、というのを長年やってるので、YouTubeもテレビのように録画して一時停止しようと思ったらしい。
 年末に帰省した時に、YouTubeの一時停止と低速再生の方法を教えてあげた。じっちゃんの手は93年使い込まれガッサガサのゴッツゴツなので、一時停止のためにタブレットの画面をタップしても反応しにくいことがわかった。高齢者にはタッチペンの方がいいかもね。

 ちなみにばっちゃん91歳も健在である。2人でタブレットに届くエン様の写真や動画を見て、思わず話しかけてるらしい。一生懸命歩いてえらいね。雪触ったらしもやけになるよ。丸々太って立派、立派! こうしてエン様は93歳と91歳にさらに生きるパワーを与えている。

100歳まで生きるで。まだまだやりたいことがあるんや。


 じっちゃんは大阪で高校を出てから自動車の販売店で働き、祖母とお見合い結婚し、32歳で第一子(私の父)、34歳で第二子(私の叔父)が生まれた。60歳まで勤め上げたが立派な役職に就いたわけではなく、普通に働き定年退職し、老後が始まった。
 60代、70代の頃は植物採集のため、よく山に登っていた。家には大量の植物標本があって、正直邪魔である。大変なお荷物となっている。当然無価値なのでじっちゃんが亡くなったら捨てるしかないだろう。80代に入って、さすがに山登りはしなくなったが、自転車であちこち出かけて植物の観察を続けていた。
 90代になって、まさかのタブレットを手にし、植物を採集しなくても写真を撮れるようになった。今度はタブレットをかばんに入れて、自転車であちこち行って花や葉の写真を撮ってくるようになった。 

突然送られてくるシダレヤナギの解説。


 ここで考えてみてほしい。老衰のためいくら食べても栄養が吸収されずガリガリになり、一日のうち寝ている時間が赤ちゃん並みに長くなった超高齢者が、自転車でウロウロしている。私だったら絶対出会いたくないし事故られたら嫌だから避ける。高齢者の自動車運転と同じくらい、自転車運転も危険だ。
 実際にじっちゃんは去年自転車でこけて血まみれで帰ってきたらしい。それも皮膚がヨボヨボになっているので出血が止まらずばんそうこうを貼ってもすぐ血でいっぱいになってしまったとか。血小板も上皮細胞も、もうケガに対応できないほど老いている。
 もちろん家族は自転車で出かけるのをやめるようにと言っている。それでも時々出かけていくじっちゃん。


 じっちゃんは好奇心の塊なのだ。植物のこと、タブレットを使うこと、LINEやYouTubeを使うこと。いつも図書館で本を借り、何年も日記を書き続け、60年ラジオ英会話を聞いている(60年! NHKから表彰されてもいいと思う)。だからボケないし、100歳まで生きる気合があるのだと思う。



 そんなじっちゃんが入院した。心不全で、循環が悪くなっているらしい。エン様と同じ遺伝要素を感じる大食漢だったのが、とうとう食べられなくなってるとのこと。

 心不全は、1回大きな発作を起こすと、回復してしばらく落ち着いて、また発作を起こして……というのを繰り返し、最終的には死につながる。高齢化社会に伴い、心不全パンデミックが起こることは確実視されている。これから多くの高齢者が心不全で亡くなる。


 じっちゃんも超高齢者。心不全は何も驚くことはない。むしろ今まで大きな病気をせずに93年生きてきたことの方が奇跡だ。


 じっちゃんはまさか退職後30年以上も生きると思ってなかっただろう。
 私たちの世代はおそらく100歳まで生きても珍しくもなんともなく、75歳、あるいは80歳まで働く可能性もある。
 さらに2022年生まれのエン様と同世代の平均寿命は女性87.09歳、男性81.05歳と推定されている。ながーく生きるためにどうしたらいいか、必要なことは何か、親から子へ教えてあげないといけない。


 会社で出世したわけでも、たくさん稼いだわけでも、世間的に認められたわけでもなんでもないじっちゃん。でもじっちゃんというすごい人がいてね、という話をいつかエン様にしたい。
 
 ずっと好奇心を持って生きること。ながーい人生で一番大切なことかもしれない。




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≪終わり≫

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