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神話の力。神話で人はこんなにも動けなくなる


神話
って、誰が、いつ、何の目的で語りだすのか。

そんなことが、気になっていました。


サピエンス全史

実は前回、米国の「人権運動の母」といわれたローザ・パークスさんの自伝の感想をアップしたのです。

そうしたら、み・カミーノさんが、一冊の本を紹介してくださったのです。

それが、『サピエンス全史』2021ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳です。


わたしはその本を読んで、目から鱗だったのです。

そこには、神話がどれほど人々の生き方に影響を与えるか、ということが書かれています。


考えてみると、わたしは神話に随分手こずってきたなあと思うのです。

神話で語られたことは再現性がないという話なら聞いたことがあります。

でも、神話は人が創ったんだよ、そんな赤裸々な話はまだ聞いたことがありません。

確か、いえ、きっとはじめてです。

ですから、長年、のどに刺さっていた小骨がようやく取れた、今はそんな気分です。

み・カミーノさん、ありがとうございます!み・カミーノさんの最新の記事はこちらです。


差別はつづくよ、どこまでも

ローザさんの自伝には、黒人の側が、差別されていることに疑問を持っていない時代があったと書かれています。

彼女がバスでひと悶着あって逮捕されたのは1955年のこと。

そこから、全米にバスボイコット運動が広がっていきます。

逮捕の理由は、黒人専用席に座っていた彼女が、混んできたバスで白人に席を譲れと言われ、それを断ったこと。

その時、周りの黒人は当たり前のように席を譲っています。

だって、命令なのですから。

それに、誰もが、差別されても仕方ないと思っていたのですから。

けれど、彼女はそうはしなかった。

なぜなら、差別は悪いことと家族に教えられて育っていたから。

だからこそ、彼女は、その時居合わせた黒人が、素直に席を譲ることに不満を覚えるのです。

さらに、「どうしてあの人は席を譲らないのだろう…」と怪訝そうにローザさんを見ていた黒人たちが、彼女には理解できないのです。


神話はこうして作られる

この『サピエンス全史』には、神話が誕生するまでが描かれています。

そして、筆者は、神話にはとてつもない力があるといいます。


ネイティブインディアンの住む地に、白人のヨーロッパ人が入ってきたアメリカ。そこにアフリカの黒人が奴隷として連れてこられた。

ただ、人を奴隷にすることに白人が人の目を気にした。

そこで作られたのが神話です。

まず、神学者たちが、

「アフリカ人はノアの息子のハムの子孫で、彼の息子は奴隷になるという呪いを負わされている」と主張。


それから、生物学者たちが、

「黒人は、白人に比べて知能がおとり、道徳感覚が発達していない」と主張。


さらに、医師も、

「黒人は不潔な暮らしをし、病気を広める」と主張。

加えて、

「彼らは、穢れの源である」と断言します。


これが神話のはじまりです。



神話に飲み込まれるわけ

日本にも神話があります。

たとえば、3歳児神話

子どもは3歳まではお母さんが育てなきゃならないという、あの神話です。


で、これはただの神話だと侮っていると、ちょっと大変です。

だんだんと、これはそれほど単純なことじゃない、ということに気づくのです。


たまたまそうしなきゃ良からぬことが起こると信じている人が周りにいます。

すると、「え!一歳なのに、この子を置いて働きに出るの?」などと繰り返し言われます。

すると、ママはだんだんグラグラしてくるのです。

心の中で、それは神話だといくど打ち消してみても、

「いや待てよ、この子の未来に、もしや不都合が起こるのでは…」

そんなことを思いはじめるのです。


それが神話の力です。

これを、筆者は悪循環といいます。


アメリカの人種差別にも、この神話の力が働いています。

そこで起こった悪循環とは、こうでした。


南北戦争後、奴隷制が非合法になっても、人種差別は無くなっていません。

実は、それから凡そ100年後、ローラさんの暮らすアメリカはさらに状況が酷くなっています。

たとえば学校。

白人の子どもは学校が家の近くにあるけれど、黒人の子どもの学校は少ない。

しかも家から遠いのです。

そのため黒人は学びを諦めてしまう。


すると、黒人はまともな職に就けなくなる。

それが一世紀も続きます。

すると、誰の目にも、黒人は白人より劣っているように見えます。


そこで、平均的な白人が、

黒人は何世代も自由の身だというのに、ちゃんとした職に就いていない。

それは、黒人が知能が低く勤勉じゃない証拠だ、

と言いはじめます。

これが悪循環の真ん中あたり。


そうして、黒人差別的な法律と規範が制度として整っていきます。

なぜって、

「やっぱり黒人は不潔で、怠惰で、不品行」という考えが強まり、

「そんな黒人から白人を守らなきゃ」、といった流れができたから。

たしかに、ローラさんの時代には、バスの前方は白人席で、後方は黒人席、混んできたら黒人は白人に席を譲らなきゃならない、そんな不平等なルールがありました。

もちろん、それは差別的な法律や規範のほんの一部です。

これが、悪循環のやや後方です。


神話は成長する

そして、この『サピエンス全史』の筆者は、人が秩序を作り出す意味を、もう少し広い視点から説明します。

人の暮らしには秩序が必要だと。

ただ、その秩序が、中立的だったり公正だったりするわけではないのだと。

ほとんどの場合、作り出す側にとって都合のいいルールができるのだと。

人類はそんなことを繰り返してきているのだと。


その秩序が生み出すのはヒエラルキー


集団の中に、もともとは無かった上層と下層が形成される。

すると、上層の人は特権権力を手にする。

それから、下層の人は差別迫害に苦しめられる。

これを崩さないようにするのが秩序であり、ルール

ー--


ここでよく登場する言葉が「穢れ」です。

米国でも、医師が黒人を「穢れ」と断言しました。


これは、人々に、病気の感染源に対する本能的な嫌悪感を抱かせる力を持つ言葉です。


そして、この「穢れ」は、人々を分ける時によく使われるのだと。

日本神話にも「穢れ」が出てきます。


そう、「穢れ」は、女性や黒人やユダヤ人などを分ける際にも用いられました。


彼らは「穢れ」であると思い込ませるのです。

すると、人々の心の中に恐怖が呼び起こされる。

すると、特定の人を分離することへの抵抗が弱まります。

これが神話の仕上げの部分。



抜け出すのは誰?

神話で生まれる悪循環。

その悪循環が、社会にも、人々の心の中にも神話信仰を定着させます。


しかも、それは時と共に強まっていきます。

けれど、そんな中、ローザさんは差別されることに怒りを覚えます。

差別は悪だと彼女に植え付けたのは彼女の祖父や母です。

彼女の家族は、神話に飲み込まれていなかったのです。


『サピエンス全史』の筆者は、世界の至る所にヒエラルキーは存在するといいます。

そして、このヒエラルキーは全ての人類の想像力の産物だとも。

それはつまり、米国の人種差別は酷い、かわいそう、なんて思っているわたしたちの中にも、歪んだヒエラルキーが刷り込まれているかもしれない、ということ。

そう、外の社会の誤った基準やおかしな基準はよく見えます。

けれど、自分のこととなると、それがなかなか見えにくい。

不思議ですよね。

それには訳があるのです。

そこに埋め込まれているのは、の文字のつく物語。

そう、それは「神話」であることが多いのです。

それが、神話の力です。

あなたは、その物語から抜け出せますか?


み・カミーノさん、素敵な本をご紹介下さり、ありがとうございました。


※この記事は、『サピエンス全史 上』(2021 ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社)の、第8章 想像上のヒエラルキーと差別を参考にしています。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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