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【介護】2日遅れの母の日 @花屋


日曜日は雨だった。母の日でも雨は降る。

家から車で15分ほどのところに大きな花屋さんがある。その花屋さんへ母を連れて行こうと思い尋ねた。「あの花屋さんへ行く?」と。すると眉間にしわを寄せて痛む方の足をさすっている母の手が止まった。

頭を少しだけ傾けてほんの一瞬考えて、「行く」という。足が痛くても母は花屋さんへは行きたいのだ。


ただ残念ながら雨はやまなかった。母の日でも雨は降る。そして花屋さんは広い。母の欲しい花は屋外で咲いている。雨の中行くとびしょ濡れになる。

というわけで母の日はマッサージの日と化し、夕食には母の好きなお刺身とお肉を用意した。


そして今日、からりと晴れた。

晴天だ!

で、母に尋ねた「お花屋さん行く?」と。

もちろん即答だった。

それから大慌てで早めのランチをすますと出かける準備をした。そこでこれからのわたしの時間は母にプレゼントしようと心に誓った。ここが肝心なのだ。ここを思い切れないと出先でイライラする。それじゃ駄目なのだ。すべてが台無しだ。

思った通り、広いひろ~い花屋さんで母はわたしのことなど忘れてしまった。

どうでもいいと思うのだけれど、植木鉢の形や大きさに宝石を選ぶように時間をかける。で、合計3つお買い上げ。母の大切にしている植物が育ち鉢の中で根が苦しそうに押し合いをしているらしい。だからちょっと大きめの鉢が欲しいのだ。

けれどわたしじゃとうてい選べない。ネットでもダメだ。さっき手に取った植木鉢と買うことになった植木鉢、一体どれほどの違いがあるのか、やっぱりわたしにはわからない。

それから軽石や土や肥料や虫よけスプレーも要る。ここでも母は宝石を選ぶように慎重に選んでいく。そして合計3袋とワンスプレーをお買い上げ。ここで既に1時間が経過。がまんがまん。

それから一度隅々まで歩いたはずの屋外の花たちを、母はもう一度皇族の方々のような優雅な歩調と眼差しでゆっくりと愛でて歩く。

ねえねえもうそこ見たじゃない、と思うけれど、がまんがまん。いつも出掛けるのは病院だ。けれどここには光がある。この光は母には優しいのだ。もちろんわたしにはかなり強烈な紫外線なのだけれど。

そうして迷いに迷った末、母は欲しい花を一つ選んだ。

慌てて撮したゼラニウム


それでもまだ母の目は屋外の花々を泳いでいる。

それから花たちを家まで届けてもらうよう手続きを済ませ、タクシーを呼んで戻ると、母は赤い小さなお花を抱えて帰っていく女性の後ろ姿を見送っている。

で、わたしの顔をみると「あれだったのよね」となんともいえない表情でつぶやく。

なに?と思っていたら、田舎で暮らしていた頃、庭に植えてあった花をその人が抱えていたのだという。

そこでもう一度屋外の花々を見て歩き、やっと見つけた。やっぱり地味な花だ。けれど、どうやらこれで間違いないらしい。

花の名前は忘れてしまった。撮るのかなり下手笑


で、もう一度、これも一緒に届けてくださいねとレジの女性にお願いに行く。汗が噴き出す。まるで夏だ。喉もカラカラだ。でもがまんがまん。

コンビニでお茶を買い、木陰で休む母にそれを手渡す。母はシルバーカーの椅子を広げてちゃっかり座っている。満足そうだ。

時計に目をやると3時間すぎていた。やっぱりね。ディズニーランドに行くつもりでいたけれどね。母にとっては花屋さんは最高の娯楽の場なのだ。


夕方すっかりくたびれた母はソファーで横になっていた。

きっと母は明日から大忙しだ。あの鉢も、この鉢も、入れ替えが始まるからね。

でもまだ歩けたね。

一緒に暮らし始めて何度目の母の日だろう。

最初の母の日はわたしたちが蘭の花を送った。それから誕生日にも蘭の花を送った。母が喜ぶと思ったのだ。けれどもう蘭はいらないという。母は植物を枯らさない。見回すと確かに家の中に何度目かの花を咲かす蘭の鉢がいくつもある。

そして今年の母の日にも、母は歩けた。

まだと言いそうになるけれど、いやいやシンプルに歩けたのだ。

きっと来年も母は歩けるだろう。


※最後までお読みいただきありがとうございました。


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