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カポーン♨️♨️二湯目

''ここにいると、日常はゆるやかに過ぎ去ってゆく…。道を歩くだけで通りすがりに挨拶をしたり、顔見知りと立ち話をしたり、心温かな人たちに囲まれて私の心もほぐれてゆく…''

などと言えればいいのだが、実際は毎日時間に追われて仕事している。
夜遅くの閉店後は、ゴミをまとめて裏に出し、さっと残り湯で汗を流して帰る。
夜遅い分、起きる時間もずれていく。
昼頃やっと起きて出勤し、コンビニのおにぎりひとつ齧り付いてから脱衣所の清掃に入る。
そうしている内に浴場清掃の人がやってきて、向こうは向こうで清掃を始める。
それぞれが終わったなという頃には、もう開店10分前になっている。
働く人数が多いお店ならお喋りしながらのんびりできるのかもしれないが、ここはギリギリの人数で回しているので、ちゃんときれいに掃除をしようと思うと毎日時間との勝負だ。
(お客として他所の銭湯へ行くと、''あ…ここはそんなに掃除に力を入れていないな…''というのが解るようになってしまった)

シャッターの外で早く開けろと話す常連さんの声をやり過ごして、定時に開店すると、開店前から待っていた十人程度がドドドーッとなだれ込んでくる。

”あの細腕のどこにそんな力が残っているのだろう…。”
正直、老人たちのパワーには圧倒される。

脱衣所とロビーの清掃だけで疲れ果てている清子は、いつも不思議でしょうがなかった。

「ちゃんと温まりましたか?」
あまりに早く出てきてしまった常連のお爺さんに尋ねると、「いや、今日は夕方頃から雨だっていうからさ!」と、照れ隠しなのか必要以上に元気な声で返された。

開店から二時間ほど経つと、夕食の支度の時間帯になるのか、すこし落ち着いてくる。
ホッとして、こっそりアルフォートでも食べようかと思っていたところで、ザーッといいう音がそこから聞こえてきた。

”あーあ。今夜はもう商売あがったりだな。”
ロビーの奥の窓から外を見ていると、威勢のいい声が聞こえてきた。
「来たよ!」
例のおじいさんだった。




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