1つの魂のお話 8

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ある日お父さんの部屋のドアが開いていたので中を覗いた。
また蹴飛ばされたら嫌なので、そっと覗いた。
するとベットに腰をかけたお父さんは両手に顔を埋めて泣いているようだった。
そっと部屋の中に入った。
お父さんはチラリとこちらを見たが、気にする事なく項垂れてため息をついていた。
お父さんはみんなに責められて苦しんでいるのだと理解した。
近くにすり寄って愛情を振りまいてみた。
お父さんは僕の事をチラリと見たが、気にする事なく、そのままベットの横にあったお薬のボトルを持ち上げた。お父さんはしばらくそのお薬のボトルを眺めている。
覚悟を決めてかのように、ボトルの蓋を開けた。

大変なことが起こりそうな雰囲気がした。
何か大変なことが起こってしまいそうだった。
僕はとっさに吠えた。
吠えて吠えて吠えまくった。
そうかお父さんは自殺しようとしている。
「絶対ダメ絶対ダメ絶対ダメ!!!」僕は必死で吠えた。

お父さんは、吠える僕を鬱陶しがった。
そうか吠えてダメなら、泣いてみよう。
「クーン」「ク〜ン」と悲しい時にだす声を出して泣いた。
「絶対ダメ!絶対ダメ!絶対ダメ!」
「お父さん、僕が守ってあげるから死なないでください。」
「お父さんの事は僕が愛してあげるから死なないでください」

僕の思いが伝わったのか、お父さんは突然泣き出した。
顔を疼くめて、涙を流して泣いた。
良かった、自殺は辞めてくれたみたいだ。
でもまだお薬のボトルは持っている。
いつまたやるかわからない状態だった。
とりあえず、今日はお父さんの近くで寝よう。
いつもは小さな女の子の部屋に寝るけど、今日は初めてお父さんの部屋で寝た。

次の日から僕はお父さんの横にぴったりとくっついて離れなかった。
家族は、僕がお父さんの近くにいる事を驚いた。
お父さんは僕のことが嫌いだったし、僕の事を叩いたりしていたので、僕がお父さんの近くにいるのは、不思議な光景だった。

お父さんの近くにいると色々な事がわかった。
お父さんは、口下手でうまく説明ができないのだ。
上手く伝えられなく、間違って相手に伝わってしまい、相手が怒ってしまう。
勘違いされた事を言い直す事もできなくて、さらに偏屈な態度をとってしまうから相手の怒らせてしまう。
お父さんが伝えたいことは相手に1ミリも伝わっていなかった。

僕はお父さんの護衛として、ぴったりと寄り添ってお父さんを守る事に決めた。

お父さんが、他の家族を口論になった時は、僕が間に入って、相手に向かって吠えた。
みんなは、僕がお父さんをかばっているように見えたと思う。
いつも仲良くしてくれていた小さな女の子がお父さんを責めようろする時は、威嚇をした。
心の中ではごめんねという気持ちでいっぱいだった。
でも僕はお父さんを守る必要がある。

お父さんが伝えたい事が上手く伝えられない時は、口論になる前にお父さんの服を引っ張って部屋に戻るように促した。

そうやって僕はお父さんの事を守った。
何年も経って、お父さんは丸くなった。僕へ感謝するようになった。

家族とお父さんの喧嘩はほとんどなくなった。
その間色々な出来事があった。
大きな女の子は気がついたら家からいなくなっていた。たまに顔を出すので、他に家族ができたのかもしれない。
小さな女の子は、大人と同じくらいの大きさになった。
小さな女の子は、僕がお父さんと一緒にいるようになってから寂しそうだった。
だからたまに部屋に行ってこっそり甘えたりしていた。
でも寝る時間になったらお父さんの部屋に戻った。
お父さんがまたお薬のボトルを手に取らないように見張る必要があるからだ。
小さい女の子は、僕がお父さんを守っている事がわかったみたいだった。
それから家族中に僕がお父さんを守っている事が知れ渡った。

お父さんは歳をとって、とっても優しくなった。
お母さんはお父さんの優しさを理解するようになった。

あぁ良かった。
僕には、もう終わりの時間がきたみたいだ。
今回の命も素晴らしかったな。
人間も悪くないかもしれない。

人間の愛は動物の愛と比べ物にならないくらい強烈で、力強く素晴らしいものをたくさん生み出している。
その反面、危険も隣り合わせだけど、正しく生きる事ができれば人間は素晴らしい生き物なんだ。

最後にお父さんは、僕の事を優しく撫でて「ありがとう、ありがとう」と言って涙を流した。
お父さんの事を一目見て小さな女の子を見て僕は目を閉じた。

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